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半月王1 竜王編  作者: 星宮歌
第三章 レイラ
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第六話

 波乱の帰還パーティーが終わり、シェラ達は現在、レイラのために新たにあてがった部屋へ集まっていた。



「どうにか、上手くいきましたね」



 ぎこちなくであろうと、そう言ったフィスカに、レイラ以外の全員がうなずく。

 宝剣のことは完全に予想外であり、もしもあのまま、レイラがオロオロしているだけであった場合、レイラが王として祭り上げられたり、命を狙われたりしかねなかった。必死に対応へ思考を巡らせる中で、レイラの暴挙とも言えるあの行動は、実のところ、ほぼ全ての問題を解決してしまっていた。

 レイラのあの行動によって、レイラを王にすれば宝剣が破壊される、とか、シェラの敵には容赦がない、とか、そんなイメージがレイラ自身に植え付けられてしまったのだ。

 つまりは、よほどレイラに利用価値を見出し、なおかつレイラを御しきれると自信を持つような人物でもない限り、『レイラを王に』などという声はあげない。同時に、レイラが王位を狙うかもしれないという懸念も、きれいサッパリ全力で逃走……ではなく、消え失せて、リスクを負ってまでレイラを暗殺しようと目論む者は、キメラに恨みを持つ者くらいに絞られることとなった。



「ふゆぅ、お姉ちゃん、どうしても、その剣は必要?」



 そんな大事を成し遂げたレイラはといえば、不機嫌そうに宝剣を見つめている。その瞬間、宝剣が怯えたようにカタカタッと震えたのは……誰もが気づかなかったフリをする。



「レイラ。この剣は、王の象徴みたいなものだから、壊しちゃダメよ?」


「でも、お姉ちゃんから逃げたの! メッ、なの!」


「大丈夫よ。今はこうして大人しく戻ってきているし、これからも逃げることはないはずよ」


「ふゆぅ……。なら、諦めるの……」



 レイラが、あの宝剣の行動に、どこまでの思考を巡らせたのかは分からない。ただ、シェラから逃げたことに怒っただけなのか、それとも、宝剣の行動から予測される諸々を考えていたのか……。ただ一つ言えることは……。



「もし逃げたら、処分して、新しいの、私が作るの!」



 ニコニコと告げるレイラは、天然と鬼畜さが混じり合って見えるということだろうか。

 純粋に良い案だとでも言うかのような表情に、誰もが固まる。



「お姉ちゃんは、私が守るの!」


「あ、ありがとう?」


「ふゆっ! 任せるの!」



 完全に普段の元気を取り戻したレイラ。疑問符を浮かべながらもお礼を言うシェラは、気づいていない。レイラが、本気でシェラを守ろうと決心していることに。



「それよりもっ、これで、レイラの行動範囲が大幅に広げられることになりました。これから、徐々に、レイラも外に出られるようになるはずですよ。もしかしたら、近いうちにピクニックも良いかもしれません」


「うん、そうだよね。今はまだ無理だけど、そのうちベルにも会ってほしいしね。あ、あと、温室もあるから、そこの案内もしたいな」


「レイラ、空中散歩にも行こうな!」


「む、俺は……剣術を披露することしかできないが、興味があれば、見せるぞ」



 これ以上、レイラの豹変について考えたくないのか、はたまた、このまま普段のレイラのままでいてほしいという願望か、フィスカ達は次々にレイラへ提案をしていく。



「なっ、ズルいわよ! 私だって……よしっ、レイラ、今度一緒に、お菓子作りをしましょう!」


「「「「それだけはダメだ(です)!!」」」」



 様々な楽しそうな提案を前に、どうにか一つの案を捻り出したシェラに対して、フィスカ達は同時にツッコミを入れる。



「ど、どうして……」


「良いですか? シェラの料理は、お菓子作りに限らず全て、控え目に言っても不味いんです」


「フィスカ、控え目とかじゃなくて、ここはちゃんと、死にかけるほどに不味いって言わないと」


「あぁ、あたしは、アレを食べて、死んだじいちゃんが見えたぞ……」


「アレは……絶対にダメだ」



 それぞれに告げられる言葉を繋ぎ合わせれば、シェラの料理は壊滅的らしいということが分かる。ただ、理由はそれだけではない。



「そ、そんなの、やってみなきゃ分からないわっ」


「やる必要はありませんっ。もし、レイラが真似をして、レイラのお手製のお菓子が不味くなったらどうしてくれるんですか!!」



 珍しく叫ぶフィスカに、パーシー達はウンウンとうなずく。

 ……要するに、彼ら彼女らは、己の欲望に忠実だったのだ。『可愛いレイラの、手作り料理を美味しく食べたい』という欲望に。



「っ、フィスカだって、手順は間違ってないって言ったじゃない!」


「えぇ、そうですよ。だからこそ、なぜあんなにおぞましい味になるのかが分からなくて、それがレイラに移るかもしれない恐怖が先に立つんですよっ!」



 間違っても、料理の味を評する言葉として『おぞましい』はないはずなのだが、それにツッコむ者は誰も居ない。つまり、そう言われて然るべき味、というわけだ。



「ふゆ……お姉ちゃんと料理、メッなの?」



 フィスカ達の提案に、お目々をキラキラさせていたレイラは、どうやら料理はさせてもらえないとあって、あからさまに残念がる。うさ耳と翼が垂れて、眉もハの字になって、落ち込んでいることが丸分かりだ。それでも……。



「ごめんな、レイラ。これだけは、あたしも譲れない」



 ポンとレイラの肩に手を置くパーシー。レイラに甘いパーシーがこの対応ということは、それだけ、シェラの料理が危険だという証だった。



「っ、納得できないわっ!」


「はいはい、それよりも、シェラには大量の仕事が待っていますので、しばらくはそんな余裕もありませんよ? 頑張ってくださいね?」



 涙目で反論するシェラにトドメを刺したフィスカは、ガックリとうなだれるシェラを放置して、レイラと一緒に、どんなことをしたいかと楽しくお喋りを開始していた。

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