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半月王1 竜王編  作者: 星宮歌
第三章 レイラ
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第四話

 黄金を宿す二人。しかし、ロゼリアの歴史上で、二人の人物が同時に黄金を宿していた時は存在しないとされている。

 それでも、貴族達は何も口にすることはできなかった。黄金の瞳は、この国の王の絶対条件であり、尊い存在なのだという思考から抜け出せないというのもあるし、王の発言を覆すだけの証拠など、何一つ持っていなかったからだ。


 これが、レイラの存在を時間をかけて認めさせる、という方針だった場合、結果は全く違うものになっていただろう。キメラという存在への忌避感はあまりにも強い。どんな証拠でも捏造して、レイラの存在を排除しようと動いたに違いなかった。


 レイラの紹介に半ば呆然とする貴族達が続出する中、シェラは畳み掛けるように告げる。



「レイラには『氷晶宮(ひょうしょうぐう)』の主としての役割を課すこととなる。彼女は、類まれなる氷属性の使い手であることだしな」



 ロゼリアには、六つの宮が存在する。それはそれぞれ、『氷、雷、炎、風、土、水』を司る宮であり属性の名前に『晶宮』という言葉がつく。こちらも、創世王の時代に生み出された場所だとされており、その宮の主の力次第で、次代の子供の属性の多さが決まるとされている。ただ、氷と雷に至っては、数が少ないことから宮の主が現れないことが多く、また、主が居たとしても、力が弱いのか、二つの属性は中々普及しなかった。


 例え、その片鱗しか目撃していないとはいえ、彼らはレイラの黄金の魔力を目撃している。そして、その黄金の魔力が『氷晶宮』を司るに相応しい……いや、むしろ、今までにないほど強力なものであることも、彼らは理解できていた。つまりは、今後、生まれてくる子供には氷の属性が備わる可能性が高まるということだった。



「氷晶宮の主と……」


「それは、なんとも……」



 自分達の家族、後継にも関わるその話に、貴族達の間では動揺が広がる。



「さて、報告はこのくらいにしよう。パーティーを楽しんで行くと良い」



 言いたいことだけを言ったシェラは、サッサとその話題を打ち切る。そして、思い出したかのように始まった演奏と、給仕係達の動き、それから、いつの間にか入場を果たしていた将達の姿に、貴族達もようやく動き始める。



「お姉ちゃん、これで良かったの?」


「えぇ、大丈夫よ。もちろん、何か動きはあるだろうけど、それはそれできっちり対処するわ」



 こそっと話し合うシェラとレイラの様子に気づく貴族は誰も居ない。シェラの妹として紹介されたとしても、やはり、彼らにとってキメラは恐ろしい存在なのだ。



「ふゆっ、分かったの! あ、それと、そろそろフィーが来るのっ」


「そう、ありがとう、レイラ」


「ふゆっ」



 小声でやり取りをしたシェラとレイラは、そのまま扉の方へと視線を向ける。

 現在、会場に居る将はパーシー、マディン、アシュレーの三人。将に取り入ることさえできれば、今後が安泰だと媚を売る貴族も、逆に彼らを蹴落とそうとする貴族も、三人にはどうしても注目する。そして、そこにフィスカが居ないことにも、当然気づいているはずだった。



「フィスカ・シャルロット様のご入場です」



 そんな宣言とともに、フィスカは水の将としての出で立ちで、布で包んだ何かを抱えて歩いてきていた。

 ついこの間まで国王代理という立場だったフィスカの登場に、貴族達は騒然とする。



「ただいま、水の将、フィスカが到着いたしました。遅れて馳せ参じたこと、お詫び申し上げます」



 一直線にシェラの元へと向かったフィスカは、その手前で跪き、頭を垂れた。そして、それに続くように、パーシー、マディン、アシュレーの三人もフィスカの横に並び、同じように跪いて頭を垂れる。



「良い。フィスカには苦労をかけた。国王代理の任、よくぞ勤めあげてくれた」


「はっ」



 王としての威厳たっぷりに告げたシェラ。実を言うと、これもシェラ達の作戦の一つだった。


 今まで国王代理として、シェラが姿を見せないままに働いていたフィスカには、様々な憶測が飛び交っていた。

 国王への反逆を行い、国王を幽閉した上でその立場を奪い取った、などという過激なものから、国王の不在を好都合とばかりに、王の座に就こうとしている不届き者などの不名誉なもの。

 それは、シェラが姿を見せなかったゆえに起こった噂だ。真実を知る者達は、シェラの現状を話すわけにもいかず、余計にフィスカの風当たりは強かったのだ。


 だからこそ、今、この光景は、フィスカが忠実な家臣であることを示すものとして有効だった。



「お預かりいたしましたティアラ、及び、宝剣を、今、お返しいたします」



 王のみが冠することのできるティアラと、代々の王が受け継いできた一振りの黄金の宝剣。それらを惜しげもなく返却するその姿は、貴族達にフィスカが王に完全なる忠誠を誓う姿として捉えられる。



「確かに、返してもらった。これからも、フィスカの忠義に期待する」


「はっ」



 ここまでが、予定されていた演出。これ以上の演出に関しては、シェラ達は全く考えてはいなかった。しかし、宝剣がそこに存在する以上、それが起こるのは必然だった。


 ドクン、と、脈打つような波動を宝剣が発したのは、シェラが宝剣を受け取った直後だった。

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