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半月王1 竜王編  作者: 星宮歌
第二章 王
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第二十二話

 フィスカとパーシーが窓から飛んで行った後、マディンはその顔に微笑みを浮かべて、フィスカやパーシー、アシュレーに用がある貴族達の対処を行っていく。

 フィスカは、国王代理などという立場に居ることで妬まれることが多く、パーシーは平民でガサツだと嫌われることが多い。アシュレーは、名門貴族の生まれであるため、パーシーやマディンと関わることを快く思わない者や、アシュレーのその実力に対して嫉妬する者が居る。要するに、彼らは全員、様々な敵を抱えているというわけだ。



「それで、何の用だったのかな?」


「っ……なぜ、大地の将殿がここに? 我々は、代理様へ用があるのですが」



 『代理様』というのは、フィスカを指す言葉ではあるものの、けっして良い言葉ではない。シェラに及ばない代理風情、とか、いくらでも替えの効く代理、とか。とにかく、格下に見る言い方だった。とはいえ、フィスカもそれなりに有名な貴族の娘であるため、表立って対立することはない。ただ……。



「あぁ、それとも、やはり代理様にその仕事は重すぎた、というわけですかな? ですが、それならばそれで、我々を頼ることも視野に入れてもらいたいところですなぁ」



 デップリとした腹を出した男は、貴族としてはフィスカよりも格下だ。いや、そもそも国王代理という立場である以上、この国ではシェラ以外、フィスカよりも上の立場の人間など居るはずがない。

 フィスカの国王代理という立場を狙う輩は山ほど存在する。何せ、国王が療養のために代理を立てる、などという状況は、このロゼリア王国史上初の出来事なのだから。



「へぇ、おかしなことを言うものだね? フィスカ様が国王代理の立場にあるのは、陛下が直々に任命していたから何だけど?」



 王命で任命されたその地位を何だと思っているのかと、マディンはニッコリと、腹黒さを滲ませる笑みで尋ねる。このまま男が食い下がるようであれば、反逆罪くらいは持ち出して追い詰めると思えるほどの気迫だ。



「っ、そうでしたな。あぁ、ですが、頼ってほしいというのは本心ですので、どうか、代理様にお伝え下さい」



 こんな男をフィスカが頼ることは、まずあり得ない。弱みを一度でも見せれば、途端に食い尽くすであろうハイエナに、そんな情報を渡してやるはずがなかった。



「うん、良いよ。それじゃあ、こっちも忙しいから、用がそれだけなら下がって良いよ」


「くっ……」



 貴族として生まれ、貴族として育ってきた男にとって、農民生まれのマディンのぞんざいな言葉は、相当に癪であるに違いない。しかし、それでも現時点でのマディンの階級は高い。この国で、フィスカとギウス以外は、全てマディンと同じかそれ以下の地位でしかないのだから。



「失礼するっ」



 顔を憤怒で赤くしながら、それでも逆らうことは得策ではないと判断して、男はその場から立ち去る。



「さて、と……。今日はあと、何人来るかな?」



 貴族達は、フィスカやパーシー、アシュレーの様子で、何かが起こったことには気づいている者も居る。ただし、何が起こったか分からず、それが自身に利するものであるのかを見定めるためにも、彼らに接触しようとしていた。



「アシュレーは問題ないだろうから、ここは僕が対処しなきゃね」



 アシュレーならば、貴族達から逃れることくらい簡単にやってのける。しかし、今、シェラやレイラのことでいっぱいいっぱいのフィスカとパーシーは無理だ。いや、できるかもしれないが、どこかでボロが出る可能性が高い。


 パーシーとフィスカが、シェラとレイラを連れて帰るまでに、五人の貴族達をあしらったマディン。フィスカよりも、パーシーよりも、アシュレーよりも、恨みや妬みを買うマディンは、時に、軽く追い払い、時に、嘲笑を浮かべて貴族達と対峙する。

 もしかしたら、マディン自身もシェラやレイラのことを心配していたゆえに、手加減ができなかったのかもしれないが、それらの貴族達は、退出する際、必ずマディンを睨んで出ていった。



「恨みも妬みも、できる限りは引き受けるさ。だから……」



 『早く、帰ってきてよ……』と、誰も居ない空間で呟くマディン。

 恨みも妬みも、マディンにとっては大したことのないものであって、それ以上に仲間の方が大切だった。だから……パーシー達が帰ってきた時、レイラが禁忌の魔法を行使したらしいことや、シェラもレイラも無事かどうか分からないという状況に、誰よりもショックを受けるのも、マディンだった。


 それでも、時は刻一刻と流れる。彼らは全員、選択をしているのだ。その、終わりの時のために、希望も絶望も全てのものが、最後を彩るものでしかない。

 目を覚まさない王と、キメラの少女。二人の選択もまた、その日のための、重要な選択だった。

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