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半月王1 竜王編  作者: 星宮歌
第二章 王
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第八話

 二階に上がった途端に二人が警戒をあらわにした原因は、何者かの気配があったから。一階には数人の気配があってもおかしくはない。医師も騎士も存在はしているのだから。三階も、入院患者が居るために、人の気配はあってしかるべきだ。しかし、二階だけは、誰も居ないはずの空間だった。


 階段を上がってすぐに感知できたということは、さほど遠い場所に居るわけではない。しかし、かといって、見える範囲には居ないらしく、パーシーとマディンは静かに目配せをしてそっと歩き出す。音を立てないよう、気配を消して、一階とは違い、完全に暗闇の中を歩く。



「ぅ……っ……」



 次第に、気配だけでなく声までもが聞こえてくる状態となる。やはり、誰かがこの場所に侵入しているらしい。

 声が聞こえる方向へ、そっと、そっと近づけば、相手が何を言っているのかも聞き取れる。



「ぐす……ひっ……くっ」



 それは、明らかに泣き声だった。しかも、泣き方からすると子供のようにも思えるもの。



《なぁ、これって、ここの入院患者の子供が忍び込んだとか、そういう話か?》



 相手が子供ならば、念話を感知される可能性は低い。それでも、魔力が必要以上に漏れないようにしながら、パーシーはピアスに小さく魔力を注いで、マディンへと念話をする。



《……その可能性がないとは言わないけど、すばしっこくて捕まえられなかったっていうのが分からないよね》



 そう、例え、子供が何らかの方法でこの場所に侵入できたのだとして、捕まえられなかったというのが分からない。いや、そもそも、一応は城の一部であるわけで、西棟の警備は少なめとはいえ、十分な警備は行っているはずだ。それでも侵入されたとなると、それは警備の穴があるのか、相手が相当の手練かに絞られる。ただ……。



《手練れにしては、念話に気づいてないっぽいんだよなぁ……》



 声は相変わらず泣いているままだ。本当に、警備を掻い潜るだけの力を持つ存在ならば、いくら気づかれにくくしているとはいえ、異常には気づく。そして、そもそもそんな手練れであれば、こんなところでメソメソ泣いているというのも良く分からない。



《……とにかく、姿を確認して、捕らえてみよう》



 パーシーもマディンも、困惑しながら、それでも任務遂行のために、声が聞こえる方向にある扉を開く。リハビリ用の器具が置かれている部屋の中は、案外狭く、すぐにその泣き声の主を目にすることとなった。



「なっ」



 泣き声の主は、窓から差し込む月の光に照らされ、その真っ白な姿をあらわにする。と、いうよりも……それは、明らかにシーツを被ったお化け状態の子供だ。



「っ!?!??」



 一方、そのシーツの子供は突然響いた自分以外の声にビクゥと肩を跳ね上げる。そして、子供はすぐさま逃げ出す気配を見せたため、パーシーとマディンは、ほぼ同時に魔術を発動させる。



「「《縛》っ!!」」


「ふゆっ!!?」



 緑の鎖と茶色の鎖が同時に子供に襲いかかる中、二人は、子供があげた、とてもとても聞き慣れた口調に、鎖が弾かれたのを目撃しながらも動きを止める。ただ、それは、鎖を弾いて、こちらへ視線を向けたらしい子供の方も同じだった。



「…………」


「「…………」」



 何となく、その場には気まずい沈黙が落ちる。お互いに正体が分かってしまったがゆえに、中々声をかけられない。



「えっと……レイラ、こんなところで何をしてるんだい?」



 しばらく続いた沈黙の後に、声をかけたのはマディンだった。



「ふゆぅ……ごめ、ん、なさい……」



 マディンの戸惑いが強く表れた言葉に、子供は……キメラであり、現在、パーシーの部屋に隔離されているはずのレイラは、明らかに泣いている声で応える。



「ちょっ、マディン、とりあえず、レイラを回収して、落ち着いた場所で話そう。なっ?」


「そ、そうだね。ほら、レイラ、泣かないで。パーシーの部屋でお話しようね?」


「ふぇっ、ひっく……ふぇぇぇえんっ!!」



 しかし、マディンの声掛けも虚しく、レイラは泣き出してしまう。途方に暮れながらも必死にレイラを宥め、途中から防音結界まで展開し始めた二人は、レイラが落ち着くのを待って、こっそりと西棟から退却した。

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