第三話
今回はちょいと短め。
フィスカに盛大なお説教を受けた三人だったが、一応仕事中ということで、それなりに早く解放された。ただし、キメラが何も喋らないことに関して、フィスカも何か思うところがあるのか、調べてみるとだけ告げて仕事に戻る。
「あー、書類が、全然減らない……」
「お疲れ様、パーシー。僕はもう終わったから、ベルのところに行ってくるよ」
「なっ! ちょっ、少しは手伝ってくれても」
「嫌だよ。僕には、ベルの看病という大役があるんだ。キメラのお見舞いも、改めて果物でも持っていくつもりだし」
「ぐっ……な、なら、後で、あたしも行くと伝えておいてくれ」
「了解!」
お昼を過ぎた頃にマディンから告げられた言葉で、パーシーはジトっとマディンを睨む。しかし、そんなことをしてもパーシーの書類が減るはずもなく、パーシーはうなだれながら書類仕事へ戻る。
ただでさえ苦手な書類仕事。それが、悪魔の領土に行っている間に少しずつ溜まり、キメラが目覚めた今になっても終わっていないのだ。
「くっそ、早く終わらせて、キメラに会いに行かなきゃならないのに……だーっ!!」
パーシーは、言葉遣いこそ荒いが、別にいい加減な性格をしているわけではない。そこそこ真面目でもあるため、書類仕事をサボる、というわけにもいかないのだ。
そして、ベルの元へ意気揚々と向かったマディンは、パーシーとは対照的に満面の笑顔だった。
「ベル、お兄ちゃんが来たぞ」
「お帰りなさい、お兄ちゃん!」
にっこりと微笑むベルは、随分と長く閉じ込められていたのか、今は歩くのもリハビリが必要な状態で、栄養状態ももちろん、よろしくはなかった。それでも、今、ベルが笑顔で兄であるマディンを出迎えられるのは、キメラのおかげだ。
「お兄ちゃん、キメラのお姉ちゃんは? まだ、起きないの?」
「今日の朝、ちゃんと起きたよ。でも、まだ疲れてるみたいでまともに面会ができなかったから、この後行こうと思ってるんだ」
穏やかな兄妹の語らい。しかし、マディンの言葉に、ベルは表情を曇らせる。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんは、喋れるようになった? 悪魔がお姉ちゃんに何かしたの。だから、お姉ちゃん、声出す時、すっごくつらそうで……」
「悪魔が? ……ベル、何があったのか、話せることだけでも良いから、教えてくれないかい?」
ベルの事情聴取は、本来ならもう少し後に予定されていた。悪魔に捕らえられて、助けられた人間というのは、たいてい心に深い傷を負っている。そのため、保護された人々は信頼できる人間の側で療養して、ゆっくりと、その記憶を昇華してもらうのだ。
もちろん、それが許されない場合もあるが、今回は通常の対応だった。ベルの年齢が幼いことと、あの大怪我のことを考えると妥当な対応。それでも、ベルが話せるというのであれば、キメラの情報を手にしたいと思う状況に違いはない。
「うん……あのね、キメラのお姉ちゃんは、ずっとずっと、私を守ってくれたの……」
ゆっくり、話し始めたベル。しかし、その内容はあまりにも、壮絶なものだった。




