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半月王1 竜王編  作者: 星宮歌
第二章 王
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第二話

 キメラの目覚めの報告を受けて、パーシーとマディンは仕事を中断してキメラの元へと向かった。そして……。



「まだ安静にしてもらいたいので、騒ぐのは禁止ですよ?」



 先にキメラの元へ居たフィスカに釘を刺されてコクコクとうなずく。それほどに、フィスカの形相は恐ろしいものであったと同時に、パーシーとマディンの浮かれ具合が酷かったのもあった。



「キメラっ!」



 ベッドの上で体を起こすキメラの姿を見たパーシーは、まだ眠そうにしているキメラを驚かせないようにゆっくりと近づく。



「……」



 そして、パーシーの姿を認めたキメラは、一瞬嬉しそうな表情を浮かべ、次の瞬間にはビクッと肩と耳を震わせる。

 そんなキメラの視線の先に居たのは、マディンだった。



「あ、えっと……おはよう?」



 マディンの言葉に、ただただオロオロとして、パーシーに助けを求めるように見つめるキメラ。ただ、パーシーもどうするべきか分からないようで、困ったと言わんばかりの表情で戸惑っている。



「その……ベルを助けてくれて、ありがとう。それと、攻撃してしまって、ごめん」



 このキメラが人の言葉を理解していることは、すでに将も元老院も知っている。しかし、その言葉遣いは幼いものであり、全てを理解できるのか疑問でもあった。分かりやすい言葉を選んだつもりでも、このキメラがしっかりと理解してくれるかは怪しい。



「キメラ……? その、もう、話してはくれない、のか?」



 ただ、どんなにたどたどしくとも、キメラが話せることを知っているパーシーにとって、何も話さないキメラの様子は不思議で仕方なかった。

 オロオロとしていたキメラは、マディンの言葉で固まり、パーシーの言葉で分かりやすく落ち込む。うさ耳がシュンと垂れてしまうその様子は、あまりにも悲しそうで、パーシーとマディンは途端に慌てる。



「パーシー、もしかして、僕、相当嫌われてる?」


「い、いや、それは違うと思う。と、いうか、むしろあたしの方が……キメラを気絶させたのあたしだしっ」



 慌てながらもひっそりと相談する二人は、なぜか凄まじく落ち込んでいる様子のキメラをもう一度チラリと見て、『どうしよう、どうする?』と相談する。



「……? 何を、してる?」



 と、そこに、炎の将、アシュレーまでもがやってきた。

 長身なアシュレーは、パーシーとマディンよりも年上で、頼れる存在でもある。現状、なぜかキメラを落ち込ませてしまった二人は、助けが来たとばかりにアシュレーへと視線を向ける。



「な、何だ……?」


「アシュレー、頼む! キメラとの仲を取り持ってくれっ」


「僕からもお願い! 僕は、ちゃんと謝りたいんだ!」



 そんな必死な二人の様子に、盛大に疑問符を浮かべるアシュレー。マディンはともかくとして、パーシーはキメラとそれなりに仲が良かったのではないのか、というのがアシュレーの認識だったが、あまりに必死な二人を前に、とりあえずはうなずく。



「わ、分かった」



 ちゃんとお見舞いらしく、花を持ってきていたアシュレーは、そのままキメラへと視線を向けて……恐怖に震えているようにしか見えないキメラを前に、すぐにパーシーとマディンへ視線を戻す。



「……」


「? アシュレー?」



 パーシーの期待の籠もった視線を受けるアシュレーは、しばらく悩んだ結果、キメラを怯えさせないように、ゆっくりと歩いて近づくことにしたらしい。

 一歩一歩、ゆっくり、確実に近づくアシュレー。そして、それに比例して震えを大きくさせ、ジリジリと交代するキメラ。と、いうか、そのキメラの瞳はすでに、随分と潤んでいる。


 さすがにそれを見れば、パーシーもマディンも異常を察知したらしい。



「あ、アシュレー……」



 そして、マディンがアシュレーに声をかけた瞬間、キメラは素早く布団を跳ね除けると、少しだけ開いていた窓に駆け寄って……。



「うわっ! ちょっ落ち着け!」


「え? えっ? これって、もしかして、アシュレー、恐れられてる!?」


「マディン、そんなとこに突っ立ってないで、抑えるの手伝ってくれっ」



 一瞬にして騒がしくなる室内。キメラは翼をバタバタさせて、どうにか窓の外に出て逃げようとするし、パーシーはそのキメラに縋り付いて必死に止める。アシュレーはショックを受けたのかその場で沈んでいて、マディンはパーシーの言葉を受けて、ようやくキメラを止めるべく動く。

 ただ、その状況を許せない人物は、ちゃんと存在していた。



「……あなた達、何をしているのですか?」



 現在は初夏。少しずつ暑さを感じられるようになってくる気候の中、その声は一気に室内を凍えさせる。



「パーシー、マディン、アシュレー。外に出なさい。キメラは、ちゃんとベッドで休むこと。良いですね?」



 静かに、丁寧な言葉で言われているはずなのに、その室内の温度はまた一段、下がったような錯覚をしてしまうほど、フィスカの目は冷たい。



「「「はいっ!」」」


「っ…………」



 声を揃えて返事をする三人と、必死にコクコクとうなずくキメラ。それを確認したフィスカは、さっさと三人を引きずって、部屋の外へと出ていった。

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