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罪荷  作者: 糸月名
悪意なき虐殺者たち
2/23

プロローグ


世界は再び二分された。一度目は思想によって。二度目は思想では無く技術によって。

度重なるテロや前触れなく発生する犯罪に対して世界は監視の強化とプライバシーの破棄を行い続けた。監視カメラは常に誰かを写し、その顔と足跡を照合し続ける。ドアには指紋センサーが着けられ、誰がどの時刻にそこを通ったのかを常に記録した。道路の下に張り巡らされた感圧センサーは変化した重みを常に記録する。


私の行為もしっかりと記録されているはずだ。眼球に吹き付けた微小なナノマシンは私の見た世界を、耳に埋め込まれた機械は私の聞いた音を、全て覚えているのだろう。


心臓の機械は心拍を、腕に組みこまれた機械は脈拍を。国連所属の元軍人たる私のすべては、一と〇の塊となりビッグデータに埋もれているはずだ。

当然、私が男に銃を突きつけてトラックを運転していることも例外として洩れてはいまい。


「何でこんなことを?」


私は白人の男の質問に答えない。目的地を告げ、銃口を向けただけである。この監視が行き届いた社会でまさか本物だとは思うまい。だがゴム弾やテーザーガンなどの防犯用品を改造すれば人を殺すことはできる。あるいは、殺されるまでは無いにしろ怪我をすることを恐れて、私の言葉の意味を考え、実行しているだけなのかもしれない。

当然ながら他人の考えを読めない私には、男が怯えていることしかわからない。


「そのこめかみの傷。アンタ、あっち側の人間だろう? 聞いたことがある。あっちの人間は犯罪を起こすことができないって。なんでこんなことができるんだ」


未だ犯罪を捨てていないであろう男は、手術痕のある私がなぜ犯罪を起こせるのか不思議で仕方ないのだろう。だから、男のしぼりだした声を私は鼻で笑った。それから忌々しくも世界を象徴する傷――左のこめかみにある手術痕を撫でる。


かつて、その奥には私の犯罪が詰まっていた。人間の多くが犯罪というモノを捨てて久しい。とはいうモノの、私も一五時間前まで、そこには可能性が詰まっていたように思う。妙な愛おしさに、私は自然と目を細めていた。


「さあな」


街は密かな活気に満ち溢れていた。資源が点き始めたこの地球から抜け出すための技術、FTL――Faster Than Light――によって。あるいは宇宙に資源解決の未来を見出したためか。そんな街中を見ていると、一度はごまかした言葉が溢れる。


「人間から罪を犯す可能性を取り払った。それでも、犯罪は無くならなかった」


ふと私は気づかぬうちに零していた。

分析するに。この犯罪のある世界で、犯罪のない世界を信じ続けた無垢さが愚かしくてたまらなかったのだろう。この町が体現する無垢さを持つ男が真実を知ったらどうなってしまうのか。つまり、不意を突いて出た言葉は意地の悪い興味が首を擡げたに過ぎない。


「犯罪のない場所でも汚れ仕事は必要だった。ただそれだけだ。引き金を引き続けた指の皮が厚くなるように、やったことと同じだけ罪が生まれただけだ。何かを護るためには綺麗じゃだめなんだよ。綺麗ごとじゃ何も守れない」


興味深そうに男は耳を傾ける。この犯罪のある側で、向こう側の情報はほとんど入ってこないのだから当然ともいえる。

嗚呼、この男は真実を知って私と同じことをするのだろうか。



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