終末
地下の崩壊、ロケットの打ち上げから四五分後、私たちは空に居た。ディランが約束を守ったというだけなのだが、少し不思議な感覚だった。
通信が復活しているところを見るとPWRRCの妨害電波から抜けられたようだった。
「どんな魔法を使ったんだ?」
『ドイツを足止めしつつPKOを介入させるべきか会議を行った』
拒否権を持つドイツが会議への参加を――建前上のみだが――放棄したおかけでPKOがIAEA職員救出の名目で動いた。これにより、ドイツの進軍が早まり、下では戦火が広がっていた。
「ずいぶん乱暴なやり口だな」
『R&Mの方が乱暴だ。あそこはありとあらゆる権利を剥奪、したかったんだがな』
「できなかったのか?」
ヘリの中で緊張が走った。
『できなかった。というより、国連が敵に回ったと分った時点でほかのPWRRCの連中が利権をむさぼって、人材を襲撃し、本社は爆破されて瓦礫になっていた。責任者は死体になって吊るされていた』
PWRRCはこれだから。
『それにしてもよく《ノーフェイス》の死体を持ってきたな』
「フォーミュラとタスクには罵られたよ。ヴェーラはいろいろあって参ってるみたいだ」
『まあ、私も現場にいたら小言を言っていたかもな。だが、送られてきた映像はすべて改竄済み。死体が無かったら《ノーフェイス》の死が証明できていなかった。結果論だがよくやった。生物兵器の方は既に対策を始めている。こちらに戻ったらWHOがお待ちかねだ』
「知ってる。ヘリがWHO所属になっていたし、完全密閉済みだ。パイロットは酸素マスクなんて被ってやがる」
「俺たちがヤバかったら下のドイツ達は最悪だな。あっちはまるで塹壕の中だ」
タスクの皮肉に反応する余裕もない。さすがに疲れた。
「そういえば久遠三佐は?」
『あいつは隣の機だ。行先が日本の医療機関だ。身体に仕込んだ機密が多すぎる。後二時間でWHOが待機している施設だ。そこで検査して何も出なければ帰国だ』
帰国という言葉を聞いてからだから力が抜けた。
「少し休む」
『その前にだ。通信が途絶えてから何があったのか簡単な報告をしろ』
勘弁してくれ、そう思いつつ軍人としての悲しい性か、背筋が伸びた。
「PWRRCの私兵を撃退した後、《ノーフェイス》が現れた。その後は銃が使えず、フォーミュラとタスクが人質に取られたまま地下施設に突入。クローンが置いてあった」
『そこで何を聞いた?』
その言葉に少し引っ掛かりを覚えた。
普通はあったものを聞くんじゃないのかと。そう思った。フォーミュラが口にした内通者の可能性。確かに『CCC』があれば要らないだろうが、いないとも限らない。特にディランは私達とは違い、『可能性』を切り取っている。だから少し暈した。
「抑止力やら、動機やら、何をしていたのか」
『……………………………………そうか』
たっぷりの沈黙の後に一言そう付け加えた。
「もう寝かせてくれ」
「任務完了おめでとう。生還を信じていたぞ。ゆっくり体を休めてくれ』
その胡散臭い口調に軽口をたたく元気もなかった。静かに眼を閉じていた。