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罪荷  作者: 糸月名
可能性
17/23

抑止力


「アンタらでもいいか。ついて来い」


自分でも頭がおかしくなったのかと思った。

スクアッドメンバーに今の状況を説明しても、彼らに《ノーフェイス》は見えていないのだから、私の妄言にしかならない。

ついて来いと言った《ノーフェイス》の真意を測るために簡易ミーティングをしたかったのだが、肝心の《ノーフェイス》の声が彼らには聞こえていない。

結局、痺れを切らした《ノーフェイス》が行動を起こす。

ズバチィ、凄まじい音がフォーミュラの背中から響き、そのまま気を失った。AMSをAEDとして強制作動させて、電気ショックで気絶させたのだ。私と三佐とヴェーラが着けていないので、タスクとフォーミュラでおそらくは持ち運びが簡単な方を選んだのだろう。

そして何よりも、人質だ。AMSは意図的にオーヴァーロードさせれば人間の心臓を焼き焦がすことくらい訳ない。いつでもフォーミュラ達を殺せるという事だ。


「担いでついて来い」


《ノーフェイス》の言葉を伝えるが、スクアッドメンバー、特にタスクが怪訝な目をしていた。対照的にヴェーラは『CCC』だなんだとピーチクパーチク囀り始めた。正直鬱陶しかったが、これ以上喚いていると《ノーフェイス》が何をするかわからない。短気な性質だ。

私はフォーミュラを担ぐと、そのまま《ノーフェイス》の後に続く。

どういうわけか扉は《ノーフェイス》が近づくだけで勝手に開かれていく。バイオパスが必要だと思っていたが、どうやら別の方法も存在はしていたらしい。


「本当にそこに居るのか?」

「どういうわけか半透明だが、そこに居る」


言葉で伝えてもタスクは信じようとはしない。技術者の性なのか、しっかりと確かめないと気が済まないらしい。そして、思い立った行動が、銃口を向けて引き金を引くことだった。私の前の《ノーフェイス》――タスクにとっては何もない空間――に向かって躊躇いなくトリガーを絞り、正面を薙ぐように撃ち払うが、肝心の銃弾が出ない。

すぐに左腕の端末でハッキングを確かめるが、恐らくはその左腕の端末そのものが《ノーフェイス》の玩具に成り下がっている。

三佐はカメラやライトを使って影を探しているようだった。私には半透明だが、光をうけて影を作り出す姿と、影すら残さない平らな空間が同居しているように見えた。

頭痛がしてくる、トリックアートの世界に取り残されたようだ。そんな薄ボケた後ろ姿を見て思う。

細い女だ。殴り倒し、縊ることもできるはずだ。けれども、監視カメラに取り付けられた小型の小銃がこちらを追随してくる。警戒されている。この中で連携が取れないまま戦うのは骨だ。


「そこの女を黙らせてくれないか?」


ヴェーラを顎で指していった。おしゃべりの餌食になっているのはライトで半透明の幽霊を探す久遠三佐だ。『CCC』やその考察について蒐集した知識とそこから得た考察を無意味に垂れ流している。今となってはその考察が間違っていなかったことに驚きを隠せない。


「ヴェーラ、黙れ」


黙らないだろうな、と思った。案の定黙らなかった。私をねめつける《ノーフェイス》の視線に耐えられなくなるのも時間の問題だ。


「姿を見せれば黙るぞヴェーラは」

「それのメリットは?」


そんなものはない。知っていた。それでも口にしたのはまさしく煩わしいからだ。


「ヴェーラが黙る」

「…………………………」


視線が厳しくなり、さらにいたたまれなくなる。これ以上どうしろというのか。これ以上年下の女子にさげすまれるのには正直耐えられない。早々に話題を変えたかった。


「何でここに呼んだ? こっちの目的は知ってるんだろ?」

「もちろん知っている。PWRRCだろうが国連だろうがどっちでもいいんだ。関係なくここに呼んだという事さ」


《ノーフェイス》が何を言っているのか、分からなかった。だから、何を言っているのか詰問するよりも早くその思惑を読み取った《ノーフェイス》に驚きを隠せなかった。


「何を言っているのか分からないって顔をしているな。むしろ、分かるような動きをしていなかったから当然と言えば当然かな。さすが私、天才的な手腕だ」


チラリと私に目配せをする《ノーフェイス》が何かを期待しているのは分かった。具体的に何を期待しているのかはわかりかねたが、今はあの静かなままうるさいほど主張が激しいキメ顔を黙らせるのが先決だと判断した。けれども、黙らせるためにいい案があったわけではない。欠点といった欠点は見当たらないのは計画だけでなく容姿にしても同じだった。多少半透明で姿がブレているが、顔の整った線の細い美形に見える。

思案していたところで気絶してバランスを取ってくれないフォーミュラがずり落ちかけて慌てて背負いなおす。


「…………………………」

「どうした? なんか言えよ。どうしたんだーい?」


視界を共有できたらタスク辺りがぶん殴っていそうなほど腹立たしい顔を甘んじて受け入れるしかない世界を呪いたい。


「そうかそうか。私が悪かった。君たちみたいな能の足りない子にはもっと直接的に言うしかなかったな。もっと私を褒め称えろ。容姿も才能もパーフェクトなこの私を」


臨戦態勢に入った久遠三佐やディランのような腐った――嫌われるが成果を上げられる――性格をしているらしい。


「なあ、タスク。五月蠅い奴を黙らせるにはどうしたらいい?」

「身体的特徴を詰る」


秒の間もなく帰ってきた返答に、さすがに一歩引いた。それに、詰るほどの身体的特徴は無いように思う。攻めどころが無くて困り果てていると、タスクがさらに口を開いた。


「身長は?」「ヴェーラ以下」「体つきは?」「華奢」「線は?」「細い」

「やめろ、褒めるなよ」

「《ノーフェイス》が喜んでる……」

「とんだナルシストだな。自分を磨くのが大好きな奴は欠点が少ない。足のサイズからなかなか脂肪の落ちない腰回りまで観察して徹底的に弱点を探せ」


むしろハードルが高い。初対面――正確には姿を見てもいない――でここまで嫌がらせに特化したことを提案できるタスクの精神構造が生理的に受け付けない。《ノーフェイス》のナルシストぶりにも同じような感情を懐いている。


「くびれ!」「フォーミュラ以下」「身長は私で比べておいてなんでくびれが私よりも身長がでかいフォーミュラなんだよ!」


ヴェーラは身長低いのに筋肉搭載しすぎだからとは口が裂けても言えなかった。みんなでそっと目を逸らす。


「胸は?」「あ、あー。あ……」


くびれからそのまま視線を上げる。


「……………………」

「ダメージを与えたいなら嘲るように」


ボソリと小さく耳打ちをするタスク。けれども、そういったことに馴れていない私は嘲笑も混じらずにそのまま言った。


「そのままくびれだ」


ズバチィ、再度響く異音にタスクが悶絶しながら地面をのたうった。AMSを着けてこなかったささやかな幸福を喜んだ。どうやらそこは禁句らしい。

そこで、フォーミュラが小さく呻いた。電撃で意識を強制的に立たれた彼女が気が付いた。


「お姫様が目を覚ましたぞ」

「視界を操れるなら変えればいい……」


私の背中でフォーミュラが静かに呟いた。まだ気だるげで、ぐったりと身体を擲っている状態ではあるが、バランスだけは取ってくれるようになった。


「剥離剤をくれ。電撃で吹き付けたナノマシンが固形化して割れた。目が乾く……」


緑色の液体の入った小瓶をポーチから取り出して手渡す。蓋を取り外してそれを目にぴったりとくっつけてナノマシンを洗い落とすフォーミュラ。


「さっきから可笑しいと思った。目に見えない、声も聞こえない誰かと確かにそこで話をしていた。ノイズキャンセル機能をオフにしろ。逆位相の音を当てて、完全に声を消しているはずだ」

「なるほど。カクテルパーティ効果か」


《ノーフェイス》が口を開いた。彼女の言うカクテルパーティ効果は通常のそれではない。おそらくは認識した音意外の音をカットする耳小骨に取り付けられた機械の機能のことだ。私だけが《ノーフェイス》の声を認識できるのはその機能が動作していないことによるところが大きい。


「全員ナノマシンを剥がせ。『CCC』とやらで視界をハッキングしていたのか」

「すでに剥がしているとは気づかなかったな。姿がおぼろげだったというのは片目だけナノマシン剥がしていたせいで、左右の目の焦点があっていなかったからか。どうして気づいたのかお聞かせ願おうか?」

「眠り姫が気づいたんだよ」

「姫じゃない、おろせ」


気だるそうな声を出しつつ、背中でもぞもぞと動き出そうとしてる。あまり考えなしに動くと私ごと地面に倒れかねないことを忘れている。膝を着いて、眠り姫を降ろす。相当強い電撃だったのだろう、いまだに足もとが覚束ない。同時に、私へ鋭い視線をくれて、瞬きを一つ。それが合図だと気づいた。

スッと立ち上がったとたんにふらふらと動き始めて、自らの足に足を引っかけてドミノのように倒れ、《ノーフェイス》にしなだれかかる。

そこから一瞬だった。姿を捕らえたフォーミュラは服を《ノーフェイス》の肩ごと掴んで手近な壁へ叩きつける。肺から空気を強引に押し出されて喘鳴と共に息を求める《ノーフェイス》の首を腕で押さえつける。


「これで電気は流せないだろ?」


酸素を求めて喘ぐ唇が細かく揺れた。ロクに膨らんでいない肺では言葉を紡ぐこともままならない。けれども、耳小骨の機会が直接振動し、《ノーフェイス》の言葉を代弁する。


「お前らが一体どれほどのテクノロジーに囲まれているのか知っているか?」


答えるのならおよそ三〇〇だ。軍服に仕込まれた身体を圧迫するために使われる電筋から傷口を埋めるためのミートパテを吹きかけるスプレーなど、公的な補助がされる汚れ仕事は大抵謎の技術が投入されている。事細かに仕組みを説明されてもその一割も理解できないだろう。けれども、それがいったい何になる? 電筋もコンディションを整えたり、傷口の応急的圧迫意外に使用することなどない。つまり、骨を折ったりするほどの破壊力は望むべくない。謎の技術と言ってもその大半が安全面を考慮し、あるいは私たちの命を守るための装備として存在している。命を奪うような使い方ができるのはそれこそ、電筋で傷口から血液を押し出すなど、一定の条件下で間違った使い方をするか、AMSにAEDとしての役割があるように、複数の役割を持っていて、ギリギリの局面で命を救うためのモノのはずだ。

今AMSを使えば、《ノーフェイス》も感電する。それ以外で、《ノーフェイス》がこの状況を斬り抜けることができる技術が仕込まれていると考えるのが妥当だろう。

同時にこうも思った。

――思考が邪魔だ。

意のままにシステムに介入できる《ノーフェイス》に行動する時間を与えるのはナンセンスだ。だからこそ、私はOSを起動した。拡張された感覚と記憶が融け合い、予測と、その予測に合わない異物が視覚化される。脳に著しく負担を掛ける代物であり、これこそ意味不明なテクノロジーではあるのだが、使い始めてから数週間。すでに命を幾度も救われている。信頼とは別に、使用に足る説得力があった。

私の視界に、当然の如くそれが写った。軍服の心臓部に仕込まれた機械。意識不明時に、別の隊員が使う気付け薬、別名、エピネフリンだ。私の思考を読み取ったのか、それが私の心臓部にしっかりと位置している。そして、フォーミュラ、ヴェーラ、タスクに、久遠三佐までもが装備していた。


「フォーミュラ、離せ」

「………………………………」


低く唸って渋ったフォーミュラだったが、舌打ちをするとゆっくりと《ノーフェイス》から手を離す。膝を着きながら、ひとしきりせき込んで呼吸を整えた《ノーフェイス》が、膝を着いたまま嫌らしく笑う。


「気づいたんだ」

「当たり前だ。正直、OS(コイツ)を使えと誘導されたようで腹立たしい」


確かに私たちは標準装備にエピネフリンを仕込んでいる。けれども久遠三佐まで仕込んでいるのだろうか? 同じ型のモノを久遠三佐まで仕込んでいると予測できたのだろうか? 《ノーフェイス》が『CCC』で操ってみせた厳格なのではないかと邪推している。


「目のナノマシンを両目とも剥がしていたらどうするつもりだったんだ?」

「お前以外にも使った奴がいたさ」


そう言って顎で指したのはヴェーラだった。彼女はOSに頼りすぎているきらいがある。


「ヴェーラ、OSは切っておけ。それと、《ノーフェイス》。お前にプレゼントだ」


もうそろそろこの優位を切り崩したかった。ブービートラップに使う手榴弾のピンを躊躇いなく抜いた。私以外のスクアッド隊員は全員がぎょっとして目を向いたが、そんなことはもう関係ない。安全装置のレバーが外れようと外側に飛び出そうになるのを力ずくで押さえつける。そのまま《ノーフェイス》に手渡した。


「安全装置をしっかりと握っていろ」


《ノーフェイス》が慌てて後ろに下がろうとしたが、私はそれを黙認してやるほど甘くない。壁際に追い詰め傷口を埋めるミートスプレーで皮膚と手榴弾をぎっちりと固定した。それでも緩く、指を強引に開こうとすれば、外付けの肉は千切れるはずだ。けれども、それは手榴弾の起爆を意味する。


「スクアッドの装備が全てハイテクだとでも思ったか? 一〇〇年以上前から姿を変えてない兵器も存在しているぞ」


ようやくだった。私たちは初めて《ノーフェイス》の苦しそうな顔を見た。少しだけ胸のしこりのようなものがスッと流れ落ちた気がした。


「話が脱線しすぎたな」


そう言ってよくない支流を切断したのは久遠三佐だった。どの口が、そう言いかけてすぐに止めたのは悪くない判断だった。ナイフを真っ先に準備して《ノーフェイス》を殺そうとしていたのはこの日本人だったからだ。


「俺たちでもPWRRCの私兵でも構わないって言うのはどういうことだ?」

「そのままの意味だ。今まで姿を隠して散々暗躍してきたのには意味があって、今姿を現したことにも意味がある。わざわざ犯罪者を使って金を集めたり、物資を横流しさせていたのはそのためだ」

「金? 物資?」


久遠三佐はこちらを視る。けれども、その視線に対する答えを持ち合わせていない。ここに来るまで《ノーフェイス》という存在がいるらしいという情報以外何も知らなかったのだ。


「知らない? いったいどうやってこの天才たる私にたどり着いた?」

「『CCC』の弱点を突いただけだ。置き換えられた映像の不自然なところを一つ一つあら捜ししただけだ」

「そんな馬鹿みたいなことに労働力割いたのか?」


耳の痛い話だ。マットが提出した書類さえ握りつぶされていなければ、別のルートからたどり着くことも可能だったはずだ。

そんなことを考えていると、自然と手に力が籠ってしまう。


「なら、そこのフラットスキンはいったい何の証拠があって乗り込んできたんだ? 日本の殺人部隊だろ、アンタ」


久遠三佐は非情に不服そうな顔だったが反論はしなかった。ポーチから死んだ一〇〇ドル紙幣を取り出した。


「見覚えがあんだろ? これから検出されたDNAが「弾正原和人」」


久遠三佐の声を遮る《ノーフェイス》。


「こちら側最大の功績者であり、最大の愚か者だ」


第二の冷戦を作り出した人物と言ってもいいかもしれない。人類の罪荷を切り取ることがユートピアに繋がると言った人間だ。


「一つ質問だ。弾正は本当にお前等にとっての英雄か?」


質問の意味が理解できなかった。少なくとも生まれた国がその思想に則り運営されていることを思えば英雄と言えなくもない気がした。


「私はあの愚か者の意志を継ぐためにここに居る」

「まるで八〇年も前の人間に会ってきたみたいな言い方だな。ドラッグでもやってとんでんのかこのサイコは」

「話が進まないから少し黙っていてくれないかタスク?」


私が口にするよりも早く《ノーフェイス》がタスクを黙らせた。


「会ってはいるが、精密に言うならば会っていない。謎かけをするつもりなんて毛ほどもないが、こんなことをされたら嗜虐心が疼いてしまうだろう?」

ミートスプレーで手榴弾と固められた手を掲げられる。けれども、さほど深刻に受け止めた様子もない。

「ま、これはこれで都合がいい」

「それで、何のためにこの場所へ連れて来たんだ?」


久遠三佐の言葉でカツンと靴の底を踏み鳴らす《ノーフェイス》に扉が反応したように閉ざしていた道を開く。


「この先にその答えがある。さあ、覚悟はいいか?」


堪える前に扉の向こうの景色が視界を彩った。

薄く発光する緑色の液体に満たされた円筒形のガラスケースは人間がすっぽりと収まっていた。それが《ノーフェイス》であると理解するまでに時間はそうかからない。こめかみの傷の位置から美麗なその用紙も寸分たがわず彼女だと断言できる。それはクローン技術の最たるものだった。

それが三行六列の計一八もあった。


「本来ならもう少し掛かる予定だったんだが、技術的ブレイクスルーは起こらず、資源を使い果たして人類が足を引っ張り合ってくれたおかげで予想よりも早く完成したんだ。北極開発が進んでいたらと思うとゾッとする後一〇〇年は待たされていただろうし、それだけあったらこんな状況は喜ばしくなかった」


満面の笑みだった。妖しく艶のある目元に、薄ら寒い恐怖を覚えた。


「クローン条約はまだ締結に至っていないはずだ。それまでは一律禁止だろ」

「倫理的問題を解決できていないとか抜かすなよ? そんなものは倫理なんて言葉が存在している時点で通過するわけないだろ。ただの茶番」


もはや倫理という言葉に拘泥しない。

その段階はとうに過ぎ去った、そう言いたげだった。


「そんなことが言いたいわけじゃないだろ。これだけ大規模な施設だ。いったいどれだけの資財を投じた? どうやってこれだけのモノを?」


私の言葉に《ノーフェイス》はこめかみを指さす。正確には罪が埋まっていた証を指さしていた。


「ネットが世界を覆い尽くしたように、愚か者の蒔いた種もまた世界を覆い尽くした。不思議には思わなかったのか? なんで今の時代が〝第二の冷戦〟なんて呼ばれているのか? いったい何がこの世界を別ったのか?」

「罪荷だろ。弾正原博士がそれを提唱したから」

ヴェーラが言った。私達も大凡同意見なのだが、《ノーフェイス》の口ぶりからすると違うのだろう。

「残念でしたー」私がヴェーラだったら拳を振り抜きたくなるほど憎たらしい笑みを向ける《ノーフェイス》「それだと抑止力が無いじゃないか」

「抑止力?」


思わず聞き返していたが、久遠三佐とフォーミュラは言いたいことを理解しているように見えた。


「〝第一の冷戦〟ではなぜ東西で戦争にならなかった? 罪荷だけじゃ資本主義と共産主義という思想に別れたという事以外何も説明できていないぞ」


そこでようやく私も理解した。

東西に二分された世界は戦争を行わなかったのではない。行えなかったのだ。


「核か。この国だと不謹慎極まりないな」

「その通り。ならもう一度問おう。なぜこの時代が〝第二の冷戦〟なんて呼ばれている?」


誰も口を開かない。けれども理解していた。

核に継ぐ抑止力があるのだ。


「以心伝心、言葉にしなくても伝わっているようで何よりだ。今の世界で人を最も多く殺した兵器は人だよ」


《ノーフェイス》の言葉に力が籠り始めた。


「『可能性を背負いなおした』人間がその抑止力だ」

わかりにくいといわれましたが、意図的にわかりにくくしている部分もあります

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