森のくまさん2
森に一匹くまがいました。くまさんは
食べることが大好き。くまさんが住んでいる森にはくまさんが大好きな物がいっぱい。赤い実に どんぐり きのこも好き。でも 一番好きなのは 森の奥の大きな木の下にあるあま〜い 『はちみつ』あれが 大好き。あの ほっぺがおちそうな甘さ ただ 甘いだけだったら イチジクもあるんだけど あの はちみつの甘さは 一度口に入れたら 口中に甘さが広がってもう溶けてしまいそうだった。はちみつを手にいっぱいもって口にしたら‥‥あ〜 ぼく ほんとうにとけてしまうかもしれない。そのことを 考えただけで‥‥
「あ〜 たべたい。たべたい。」
こんなに 好きなのに たった一度しか食べたことがない。ううん 違う たべたんじゃない。手のひらについた はちみつをなめただけなんだ。ぼくが おおきな木だなぁと上を見てたら 石につまづいて転けたときに 偶然 手のひらに べとっとした物がついて なめてみたら 今まで食べたことがない食べ物だったんだ。
「なに これ‼︎ すご〜い。おいしい〜。」
「はちみつ っていうんだよ。」と 言う声が聞こえた。
「あ、ちょうちょうさん。」
「きみ この あま〜い食べ物の名前なんで 知ってるの?」と 聞くと 「だって わたしも お花の蜜大好きだもの。」と
「お花の蜜ならぼくも知ってるよ。それじゃなくて この なんとも言えない あま〜い‥」と 言いかけた時 「その 蜜を集めて甘くした物が はちみつ って言うんだよ。」
「え!だれが そんなことしてるの?」と聞くと
「その木の穴の中にいるよ。でも 気をつけないと‥」と ちょうちょうさんが そう言っている間に くまさんはその木の穴の中に顔をいれてしまった。
「あー。思い出しただけでも 腹が立つ。」そう言うと くまさんは 自分の鼻の先をそっと触れてみた。
「まだ ひりひりする。それに まだ 少し腫れているみたいだ。」「ぼくの 鼻をこんなにした。あの ぶんぶん。」「ゆるせない。」ぼくの鼻は 丸くてかわいいんだ。
みんなからは 「かわいい栗の実みたいだね。」と言われているのに。こんなにして これじゃ 栗の実じゃなくて 栗のイガみたいじゃないか。なんとかして あの ぶんぶんを ぎゃふん と言わせたい。
そして あの あま〜い はちみつをいっぱい食べるんだ。 でも あのぶんぶんの お尻には とがったものがついてるんだ。あの とがったものにさわったら 最後 空まで とんで行ってしまう。ぼくも あいにく とんでいきそうになった。でも ぼくは 踏ん張ったから 少し 飛びはねたぐらいだった。
どうしたらいいかな。
ぶんぶんの後ろから行って つかまえようかな。『だめだ』 ぶんぶんは ぶんぶんのごとくとんでしまう。
それに ぶんぶんは一匹じゃないんだ。見たところ 10匹 いやいや 100匹はいたな。どうしたらいいかな。くまさんは考えた。いつもの日課のお散歩も食べることも忘れて 考えた。
「そうだ。」「森の中にある一番おおきな葉っぱを持ってきて 上がかぶせたら いいんだ。 あの葉っぱ とっても 柔らかいから ふわっとあのぶんぶんの上にのるはずだ。」
「うん。そうしょう。」
「なんて頭がいいんだ。」
「そうと決まったら さっそく 葉っぱをとりにいかなくては
おっその前にやっぱり腹ごしらえ」
そう言うと くまさんは木の実とどんぐりをお腹いっぱい食べた。
「あー。お腹いっぱい。お腹いっぱいになったら なんだか 眠くなってきちゃった。」
「ちょっと おひる‥」
「だめだめ。」
「ぼくの悪い癖。お腹いっぱいになったらすぐに寝ちゃうんだから。今は 大事な時 あの おおきな葉っぱをとって ぶんぶんのところにいかなくては。」そういうと くまさんは おおきな葉っぱのところまで まっしぐら。
おおきな葉っぱのところまでくるとよーく見て 一番おおきな葉っぱをとった。その 葉っぱを やぶれないように 大事に大事にもって ぶんぶんのところに向かった。
ぶんぶんのいる途中に きれいなお花がいっぱい咲いているところがあった。
「わぁ!すごい!」
「こんなところに こんなところがあったんだ。」
「ちょっと 寄り道して行こうかな」と思ったとたん くまさんは 大きく首を左右ふった。
「だめだめ 今はもっと 大事な事があったんだ。」
「あの ぶんぶんを やっつけてから
はちみつをいっぱいとって ここで食べよう。」
「よし。出発だ。」
そう言うと くまさんは また ぶんぶんのところをめざして歩き始めた。
ぶんぶんのところまでくると ぶんぶんは はちみつのまわりをとんでいた。
「あー、食べたいなぁ。」と 手を出そうとした時 くまさんは 大きく首を左右にふった。
「いやいや 今は もっと大事な事がある。」
「ぼくの鼻をこんなにした ぶんぶんをぎゃふんといわせなくては。」
そう言うと くまは ゆっくりゆっくり ぶんぶんのところに近づき おおきな葉っぱを 上に持ち上げた。その時 一匹のぶんぶんと目があった。くまはあわてて 顔をきょろきょろさせた。そっと ぶんぶんの方をみると さっき 目があったぶんぶんは そこには いなかった。
「危なかった。」
「今度こそ」くまさんは さっきよりも 慎重に おおきな葉っぱを持ち上げ ぶんぶんの上に かぶせた。
「のった。」「やった!」と 思ったのもつかの間 ぶんぶんが葉っぱから出てきてしまった。
「失敗しちゃった。」
くまは おおきな葉っぱを取ろうとした時 ぶんぶんが顔の前にきた。
くまは あわてて 自分の鼻を手で隠した。これ以上 大きくなったら 大変だ。
「きみは どうして さっきから 何度も おおきな葉っぱをかぶせるの?」と 鼻の前をとんでいた ぶんぶんが 言った。
くまは あわてて おおきな葉っぱを取ろうとしたが 目の前をぶんぶんがとんでいるので 取れなかった。
「きみが ぼくの鼻をこんなにしたからだ。」「ぼくの鼻は 丸くてすごくかわいいかったのに。」
「なんで そうなったと思うの?」
「それは‥‥‥。」「だって‥。」
「ぼくたちの はちみつが欲しかったんでしょう。」
「黙ってとろうとしたのは いけなかったけど こんなにいっぱいあるんだし 少しぐらい いいじゃないか。」
「それを いきなり こんなふうにして。」
「きみが ぼくたちのはちみつを取ろうとしたから ぼくの友だちは 死んだんだ。」
『しんだ。』
その言葉に くまさんは 言葉を失ってしまった。
でも その直後 くまさんは 大きく首を左右に振り
「ぼくは そんな事はしてない。」とおおきな声で言った。
「それどころか きみたちが ぼくの鼻をこんなにしたんじゃないか。」と
さっきよりも おおきな声で言った。
「ぼくの友だちは 大切な はちみつを守ろうとして 死んだんだ。」
「だから ぼくは何にもしてない。」
「きみの 鼻に針を刺したから 死んだんだ。」「ぼくたちは 自分や 自分の大切なものを守る時には 自分の命と引き換えに針を出すんだ。」
「きみが はちみつをとったりしなかったら 死ななかったんだ。」
くまは ぶんぶんの目から 光る物が落ちるのをみた。
「ごめんね。」「ぼく。」
「食べる事が大好きで 今まで こんなに 美味しい食べ物を食べた事がなくて‥だから‥‥。」
「この はちみつだって ぼくたちが何度も何度も 花の蜜を取ってきて やっと はちみつにしてるんだ。」
それを聞いて くまさんの目からも光る物が落ちた。
「しんだ ぶんぶんはどこに?」
すると 今まで くまの前をとんでいたぶんぶんが下をみた。
ぶんぶんがみた方をみると そこには 一匹のぶんぶんが倒れていた。
それをみた くまさんの目からは さっきよりもおおきな光る物がでてきた。
「こんなところに いたら 誰かに踏まれたりする。」と小さな声で言った。
「ぼくたちだって 誰にも踏まれないところに連れて行ってあげたいんだ。
だけど ぼくたちの力では 連れて行けないんだ。」と小さな声で言った。
「じゃ ぼくが連れて行ってあげたら駄目?」と さっきより小さな声で言った。
「大切に 大切に連れて行くから」
「どこに 連れて行くの?」
「ぼくの大好きな場所の中に お花がいっぱい咲いているところがあるんだ。そこに みんなに踏まれないように穴を掘ってそこに土のお布団をかぶせてあげるよ。」
「そんな事したら ぼくの友だちがどこにいるかわからないよ。」「それに ぼくたちは きみの大好きなお花がいっぱい咲いている場所を知らない」
「じゃ きみたちが いつも行く場所を教えて。」「そこに このおおきな葉っぱをさしておくよ。そうしたら いつだって きみたちの友だちがどこにいるかわかるよ」
「ぼくたちの いつも行く場所は きみが今 歩いてきた途中にあるよ。」
「途中?」「あ!さっきの‥‥」
「わかったよ。じゃ 今から行って穴を掘って葉っぱをさしてくるよ。」と
いい終わるまでに くまさんは さっききた道を引き返した。
さっきのお花がいっぱい咲いているところにつくと くまさんは 穴を掘る場所をさがしはじめた。
そして 少し高くなっている場所を見つけて 穴を掘り始めた。そして そこの場所がわかるように おおきな葉っぱをさしてみた。
「よし。これでOK。」
「だめだ。 これじゃ 葉っぱで お花が隠れて 暗くなってしまう。」
「どうしょう。」
「そうだ。葉っぱを ちぎって 小さくしたらいいんだ。」
そう言うと くまさんはおおきな葉っぱをきのこぐらいの大きさにちぎった。
「よし。これでOK。」
「ぶんぶんを連れてこなくっちゃ。」
くまさんは あわてて ぶんぶんのところにもどった。
「準備できたよ。」
「きみの手についているのは 何?」
「え!」
くまさは 自分の手をみるとさっきちぎった葉っぱが手についていた。
「あ。これ。これは ぼくが持っていた葉っぱは おおきすぎたから ちょっと小さくしたんだ。」「で‥‥。」
「きみたちの 大切な友だちを 連れて行ってもいい?」
「いいよ。」「くれぐれも きみのおおきな手で にぎりつぶさないでね。」
「もちろんさ。」「大切に持って行くよ。」
そう言うと くまさんは 優しく 土の上にいる ぶんぶんを手のひらにのせた。
「じゃ。行くよ」と言って ゆっくりと歩き始めた時
「ちょっと まって。」
そう言うと ぶんぶんは くまさんの手のひらについている葉っぱの上に はちみつをのせてくれた。
「あ!はちみつ!」「これ‥‥」
「きみにあげるよ。」
「え!どうして?」「ぼくはきみの大切な友だちをこんなふうにしたんだよ。」
「うん。」「でも ぼくの大好きな友だちは あのままだったら ぼくたちは もっと つらかったんだ。」
「だから‥‥」「きみに あげるよ。」
「ありがとう。」「じゃ 行くね。」
そう言うと くまさんはゆっくりと歩き始めた。
お花がいっぱい咲いている場所の 葉っぱのところにつくと くまさんは そっと ぶんぶんを土の上にのせた。そして くまさんは 葉っぱの上にのっているはちみつをそっとぶんぶんの上にのせた。
「ごめんね。」
そして そっと土のお布団をかけた。
かけ終わって 手のひらにのっている ちぎれた葉っぱをみると はちみつが少し残っていた。
くまさんは そっと そのはちみつをなめてみた。
くまさんの口の中で そのはちみつは口いっぱいにひろがっていった。