0話 この世界について(読み飛ばしても問題なし)
シアンが突然この世界に迷い込んできてから、一か月ほどが経つ。
異世界転移というよりは、並行世界への漂流。彼女が訪れた町の名は、札幌だった。
彼女が記憶している街とは各所各所が似ているものの、やはり大きな違いがある。
この世界の札幌は、どこか近未来的な都市だ。高層ビルが立ち並び、何より清潔で、汚れがどこにも見当たらない。アニメーションのような風景で、現実感を喪失しそうになる。
人口は百万人ほど。シアンの世界と比べると約半分ほどである。彼女が何かあったのかと尋ねると、街の住人は『魔物にやられた』と零し、シアンを大いに驚かせた。
――その住人、曰く。
この世界では昔、魔物と呼ばれる怪物が大量発生した時期があり、彼らに対抗するための手段が確立されるまでの間に、かなりの割合で世界中の人口が減ってしまったらしい。札幌もその例に漏れず、一時期は五桁にまで減った人口が、長い年月をかけて戻ってきたという。
魔物に対抗するために、各都市は城砦を築くこととなった。札幌も外周部が高壁に覆われていて、そこだけ見るとまるで中世ファンタジーだ。というか、彼女が見た町の外の景色は、本当にファンタジーだった。
壁の外には、人間が開発を行った形跡が微塵も存在していなかったのだ。
まだ人間がいなかった時代――自然の原風景がそこには広がっていた。
そして、彼女が何よりも驚いたことがある。
――この世界では、空想が現実を塗り替えるらしい。




