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大事な物はちゃんと仕舞って街の外に出てみよう


 アラトさんと別れたボクは街を探索した後、街の外へと出てみることにした。


「お出かけかい? もう日も落ちてきたから完全に日が暮れる前には戻るんだよ。鐘が鳴った少しした後に門を閉めるからね」

「あっは、はい」

「森の方にはあまり行かない方がいい、お嬢ちゃんだけだと危ないからね」

「わかりました、ありがとうございます」


 門から外へ出ようとした時、門番さんだろうか、甲冑を身にまとい槍を持った人にそう言われた。ボクが幼く見えたのか森へ行かないようにと忠告を受けた。暗くなる前と、森には近づかない様に気を付けよう。


 門の外に出ると目の前には一本の舗装された道と草原が広がっていた。道を目で追っていくと森へと続いていることがわかった。街の探索中に雑貨屋で購入したマップを見てみると草原がアインスの草原で、森がアインス森林と出ていた。とりあえず様子見で草原を探索することにした。


「おお、いるいる」

 草原に足を踏み入れると、成体になった柴犬程の大きさをしたウサギの様な生き物がいた。ウサギはふんふんと何かを嗅ぎながらそこら辺をうろついているのが見えた。

 えっとあれは確か……と雑貨屋に売っていたモンスター図鑑を開く。自分が足を踏み入れたマップのモンスター情報が載っている優れモノだ。

「グリーンラビット、かな」

 パラパラとページを捲るとうろついているモンスターと同じ姿の絵が描かれたページを見つけた。そこにはグリーンラビットと書いてある。間違いないだろう。初心者が最初に戦うモンスター、かな、他にも複数体グリーンラビットがうろついていて、ボクと同じように初心者装備を身に着けたプレイヤーが戦っているのが見える。


 よし、戦ってみよう。手ごろな位置にいるグリーンラビットを探す。あ、ちょうど一匹でいるね。あの子にしよう……何か、ずっと虚空を見ているんだけど。大丈夫かなあの子。

 

「一定距離近づくと……お、こっち向いた」

  グリーンラビットに近づくと、虚空を見つめていた双眼をこちらに向け、猛然と駆け出してきた。

「おお、きたきた」

 ボクは自分に戦闘時システムアシストがかかったのを感じながら短剣を引き抜いた。戦闘時システムアシストとは戦闘に入ると自分がどうしたいかをシステムが読み取り、それに合う動きができるようにアシストしてくれるシステムだ。ぶっちゃけただの一般人がまともに戦えるわけないからね。

 

 グリーンラビットは一瞬ぐぐっと溜めた動きをした後、勢いをつけてボクに噛みつこうと口を開けた。

「キュァッ!」

「攻撃手段は……噛みつき」

 ボクは努めて冷静にその攻撃を観察しながら、一直線にこちらに向かってくるグリーンラビットを横に一歩ずれて躱す。目的を失ったグリーンラビットはくるりと空中で回り、次いでその前足で攻撃をしかけてきた。

「キュキュッ!」

「引っ掻き……かっ!」

 回転の勢いをそのまま前足に乗せたかのような勢いの攻撃に、一瞬うろたえるが何とか短剣で受け止める。ぐうっ結構重い。ボクは受けた勢いのまま後ろに下がる。うっへぇ、こわいな。

 

「……キュッ」

 ウサギはまたも華麗に空中でくるりと回り着地を決め、にやりと笑ってこちらを見る。ちょっとかっこいいのむかつく。

 ウサギとボクは一定の間合いを取りながら見つめ合い、数秒後、ウサギがボク目掛けて駆け出し、自慢の健脚で地面を蹴り――――天にも届きそうなほどの大ジャンプをした。


「キュ―ーーーッ!!」


「――――っ!」

 

 天高く上がった太陽を背にウサギはお得意の空中回転を見せ、脚を伸ばしながらその巨体を重力にまかせ落下した。これは……。


「これは……かかと落としっ!」

 ボクはウサギが落下してくるであろう位置から飛び退く。ボクがその場から逃げ、地面に足をつけた瞬間、凄まじい砂埃と爆発音が聞こえた。

「ぐっ……何も見え……」

 ウサギの着地点を見ると見事に砕けていて、いかにウサギのかかと落としが凄まじい威力かを物語っていた。

「うわ……当たったらひとたまりもないな……」


「キュッ……」

 ゆらりと立ち上がりこちらを見据えるウサギに、ボクは震えあがった。そしてあることに気が付いたボクは何だか笑えてきてしまった。


「は、ははは……あんなの見て怖いはずなのに……わくわくしてる」


 街中での出来事を除けばチュートリアル以来の初めての戦闘、チュートリアルでは案山子相手だったから、ほんとにほんとの初めてだ。


 恐怖とわくわくが入り混じった、妙な高揚感を感じながらボクは短剣の切っ先をウサギにゆっくりと向けて口を開いた。


「今度はこっちからいかせてもらうよ、ウサギさん」


 ウサギは急に話しかけてきたボクにびっくりしたのか、つぶらな瞳を大きく開いた……と思う。だけどその口元はにやりと歪んでいたから伝わったのだろう。

 

「……キュキュキュッ」


 もう、ボクとウサギさんの間には言葉は必要ない。ボクとウサギさん――――両者どちらともなく、お互い目掛けて駆け出した。


 多分だけど、さっきのかかと落としがウサギさん最大威力の技だろう。あれを何回もされては神経が持たない。飛び上がるモーションが見えたら、そこを叩く!


 ウサギさんはワンテンポステップを踏むと、回し蹴りを繰り出してきた。ボクはしゃがんでそれを避け、短剣を軸足目掛けて振りぬく。

「ギュッ!!?」

 ボクが振りぬいた短剣の刃はウサギさんの脚の肉を切り裂いた。いつか見た結晶体が傷口から飛び散る。

「よしっ……っ!」

「ギュギュギュウッ!」

「ぐうっ!」

 ウサギさんは足元でしゃがんでいたボク目掛けてお返しだと言わんばかりに前足を振りぬいた。前足はボクに命中し凄まじい衝撃を与えた。ゴロゴロと転がり、何かにぶつかり止まったボクは何とか体勢を立て直す。

 何にぶつかったのか確認すると、木の幹が後ろにあったので、草原から森林付近まで吹き飛ばされてしまったらしい。ウサギさんはかなり遠くに見える。


「いつつ……うわ、結構ウサギさんから離れちゃったな……ぐえ、HP結構減ってる」

 視界の端にHPが表示されているのだが、満タンの時は長く綺麗な緑色をしているHPバーが、今は短く赤く光っている。


「ポーションを……っ!!」


 インベントリからポーションを取り出し、飲もうとするがいつの間にか目前に迫っていた。ポーションを諦め、何とか横に転がり避ける。

 ウサギはボクが取り落としたポーションを前足で器用に拾うと、ボクを見やり怒ったように表情を歪め、握りつぶした。


「グギュ……!」


 そして地面に叩きつけ踏みつぶした。何でそんな……あ、まさか……そういうことか。 

「ごめんよ、ウサギさん。真剣勝負にアイテム何て必要なかったね」

「……キュッ」

 

 ウサギさんともう一度対面したボクは、短剣を構えなおした。ウサギさんは後ろ脚に傷をひとつ負っただけ、ボクは満身創痍だ。だけど――――楽しい。


「ふっ!」

「キュキュ!」


 向かって一直線に駆け出す、ウサギさんは前足を振りかぶり応戦しようと構えた。それを見たボクは低く姿勢を取り、前転をしてウサギさんの構えの下を潜り抜け背後を取る。

「キュッ!」

「遅いっ!」

「グ……キュ……ウ……」

 ウサギさんが振り向く前にボクはウサギさんの裏首筋を短剣で突き抜いた。ボクが突いた短剣はウサギさんの首筋に深く深く刺さり、ウサギさんは断末魔を残し、結晶となりボクの身体へと入っていった。


「ウサギさん……ボクの力になっておくれ」

 ボクは身体に力が漲る感覚を感じながら胸に手をあて、その中にウサギさんの力も感じた……気がする。

 短剣を鞘に納め、ボクは両手を空へと突き出し叫んだ。

「かっっった~~~!! ぁぁ……」

 勝った、勝ったのだボクは! 一人で! ボクは叫んだ体勢のまま後ろに倒れ込み、大の字になった。 

「長く、苦しくも楽しい戦いだった……ウサギさん、ありがとう。君のおかげでボクは大きく成長できた……」


 空を仰ぐと天に青白く光る満月と星が昇りきらきらと輝いていた。綺麗だなぁ……。ん?


「……星? え、夜?」


 あれいつの間に日が暮れて……ウサギさんと戦っている間に暮れちゃったのか……? いや、にしても早すぎる。とにかく戻らないと!

 ボクはHPを回復するのも忘れて、門へと急いで戻ろうとした、その時だった。


「待て、ヒトの子よ」


 ボクはそれを認識した時、待たないと殺されると直感で分かった。人ならざるトーンの声が後ろから、ボクの頭に響いたのだ。


 ゆっくりと振り返ると、そこには白く美しい羽を月明かりに照らした、美しく大きな鳥が佇んでいた。

tips.アインスの街・アインスの草原・アインス森林について

 アインスの街は所謂始まりの街である。そしてその街から出た先に広がるアインスの草原は世界に訪れたプレイヤーが初めてモンスターと戦う場である。青い空、緑の草原、吹き抜ける風。とても気持ちのいい場所であるが、夜になると豹変する……と噂されている。

 出現モンスターは昼間はグリーンラビットだけであるが、時たま珍しい個体も現れるとかなんとか。

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