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ジャック・イン・東京  作者: 文月獅狼
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第二話 奴の正体

 不気味だ。

 奴は仮面をかぶっていた。ただの仮面じゃない。笑顔仮面のように笑っている。目は黒なのに口は赤で描かれている。その口は、口についた返り血を腕で拭ったようなデザインで少しかすれている。いや、実際そうなのかもしれない。

 俺は殺しを楽しんでいるような表情の奴の仮面をみて恐怖した。仮面のせいといえばそうなのだが、違うといえばそうでもある。

俺は奴を知っている。仮面を見て分かった。奴は俺らの中ではよく知られている。

去年の冬。俺はこんな話を聞いた。

ある男が重症を負って息を切らしながら帰ってきた。彼は


「殺される……。殺される……」


 と言っていたらしい。どうしたのかときくと、


「笑い仮面が……殺しに来た」


 と言ってその場で死んだとのことだ。次の日にはその話がひろまった。

 おそらくその笑い仮面とは、今俺の前にいる奴のことだ。そしてこのままでは俺も殺される。何とかしなくては。と思っていたそのとき。


「・・・麻薬・・・やめた?」


 またしても驚かされた。奴は俺が麻薬使用者だと知っている。なら俺が麻薬を買うためにこの路地裏を通っていたということも・・・。


「・・・麻薬・・・やめた?」


 またきかれた。


「あんたに何の関係があるっていうんだ」


「・・・やめてないんだね。・・・僕を殺したとき、もうやめるって言ってたのに」


 なんのことだと首を傾げかけてから俺は奴の言葉に違和感があることに気づいた。今「僕を殺した」と・・・。


 まさか・・・


「まさか・・・。お前・・・俺が21年前に殺しちまった子供か」


 信じられない。

 21年前、俺は薬物をやっていた。その頃は仕事がうまくいっていなかった。失敗したら上司に叱られ、ボーナスや給料はひかれていた。辞めたくても次の仕事が見つかるという保証はなかったため辞められなかった。ストレスで押しつぶされそうになっていたときに、つい出来心で薬に手を出してしまったのだ。薬は高価だったため、すぐに買えなくなってしまった。薬がなくてイライラしながら外を歩いていたとき、子供がぶつかってきた。正確には自分がぶつかったのだが、その時は子供のほうからぶつかってきたように感じた。それが引き金となって今までため込んできたものが一斉に爆発してしまった。

 結果、気が付いたら俺はその子供を殺してしまっていた。懲役17年が言い渡された。その時俺はもう薬はやめると決意したのだが。

 どういうわけか、いつの間にかまた薬をやっていた。


 コイツは21年前に俺が殺した子供だというのか。死んだのではないのか。


「お前、なんで生きてんだよ」


 無意識に口からそんな言葉が出た。


「・・・生きてないよ。・・・死んでるよ」


 意味が分からなかった。


「でもお兄さんが手伝ってくれてる」


「・・・お兄さんって、誰だよ」


「・・・『冥土の土産』っていうのに教えてあげる。お兄さんの名前は


 ・・・ジャック・ザ・リッパ―・・・


っていうんだって」


 ん?今確か「冥土の土産」って・・・。

 そこで思考は止まった。次に脳がとらえたのは赤いナイフだった。

 満月の夜。一人の男性の声が夜の東京を震わせた。


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