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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ツイッター診断短編

作者: 朔真露兎


幸せが逃げて行く気がした。

それは僕が、何よりも大事に守っていた幸せ。

何よりも何よりも大切にしていたものだったのに。

――――行かないで。僕の元へ帰ってきて。

今更泣いて叫んだって届かないのだろう。



あんなに幸せだったのにどうして。

あんなに楽しかったのにどうして。

僕だけだったのか。幸せだったのは。舞い上がっていたのは。満ち足りた気がしていたのは。



何が悪かった?

何が駄目だった?

そんな問いがぐるぐると脳を廻り続ける。答えは見えない。

何が悪かった?

何が駄目だった?

ぐるぐる、ぐるぐる、廻って廻って、それでも見えない。

ぎりぎりと頭が絞まっていく。脳が考えることをやめたがる。

あぁ窒息しそうだ。



あの子は元気だろうか。

どうして顔を見せてくれないのだろうか。

やっぱり僕のことが嫌いになったのかな。

花開くような笑顔が忘れられない。

幸せは逃げて行ってしまった。

思わずそう呟いてしまうくらい、

僕の毎日から色が消えた。



会いに来ないのなら。来てくれないのなら。

――――僕が行こう。君の元へ。



久しぶりに外出した。夏らしい蒸し暑さが僕の身体を優しく包み込む。

――――今日は暑いね。手繋げないよ。

不満げに言った君が、それに笑みを返す僕が、

道路の、たった数歩先に見える。



見慣れた道を、鼻歌を歌いながら進んでいく。

最初からこうすればよかったんだ。僕は何をうじうじしていたんだろう。

曲がり角を曲がった先に、見慣れた後姿が歩いている。

心臓が跳び上がり動悸が速くなる。

ゆっくりと華奢な背中に近付いた。



酷く傷付いたような重い足取り。片足を引き摺って、歩きにくそうだ。

買い物の帰りなのかスーパーの袋を片手に提げている。今日の夕飯はなんだろう。

灰色のパーカーの下から覗く病的なまでに白い肌と、対称的に鮮やかな、血が染みた赤い包帯。

さらさらの黒いセミロングは良い匂いがして柔らかくて、


――――あぁ、興奮してきた。


久しぶり。声をかければ。

君は怪訝そうに振り返り。僕の顔を見て。

買い物袋がコンクリの地面に叩きつけられた。小気味いい音と共に流れる黄色。

そして顔を歪めた。大きく汚く、絶望の顔で。




「いやぁぁぁぁぁぁっっ!!」


今日はすき焼きなのかな。



ぼろぼろの包帯姿が痛々しい。君は頭を抱えて蹲る。

悲鳴を聞きつけたご近所さんたちが僕達を見てひそひそと何かを囁く。

露出した脚や片腕、首元から見えたのは。

赤青紫、鮮やかな斑模様。

そんな目で見ないでくれよ。何かに怯えている様な、揺れる黒瞳。


だから僕が、君の辛い思い出ごと、


食べてあげるって言ったのに。


甘い甘い左腕の味が、口の中に広がった。


君も同じだろう?

乾いた心を潤す、歓喜の感情。温かい涙。感極まるという心理状態が今なら分かる。

心の中で僕は、涙を流していた。




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