確認・推測・ぶっつけ本番
バングルのことはひとまず置いておくことにして、他の戦利品や素材を確認していく。
素材の説明欄を見ると、やはりこいつは戦う前の予想通りオークジェネラルというオークの上位種だったらしい。
オークといえばゲームだと食用の肉がドロップするイメージがあるが、この世界でもそれは同じようだ。とはいえ今はまだ魔物の肉を食べるなんて馴染みが無さ過ぎて美味そうとは思えないが・・・。
あとは装備になりそうな素材として、赤熊の時と同じく骨系素材がかなりの数確保できた。
「お、曲刀もゲットできたか」
使うかどうかはさておき、見るからに質がよさそうだった曲刀が戦利品として得られたのは嬉しい。他にもジェネラルが装備していた防具類やアクセサリーなんかもある。でも俺が戦闘中に傷つけてしまったものは廃棄扱いらしく、実際身につけていた数より結構少なくなってしまっていた。
ちょっと勿体ない気もするけど、戦闘中にそんなこと気にしてられないか・・・。それにしても、見事に骨ばっかりだな。このまま防具を揃えていくと、全身魔物の骨で覆われていきそうだ。
そんなこと言ってる場合じゃないのは分かってるけど、それだとあまりにも見た目が悪すぎる。理想は布系装備で防御力が確保できるのが動き易くて良いんだけど、今は難しいか。
そう考えると赤熊の時の討伐報酬は相当アタリ装備だったんだな。素材も毛皮があったから俺のコートも作れたし、今の状況だと毛皮類は貴重なのかもしれない。
「ていうか毛皮を落としそうな魔物が居なさすぎなんだよな」
もう少しオオカミとかイノシシとか獣系の魔物が居てもいいはずなのにこの辺だとそういった魔物を全く見かけない。学校に出来てた防具屋のラインナップにはそれっぽい名前があったから、絶対どこかには居るはずだ。
うーん山とかに行ったら居るかな?あれ、てことはこの世界の魔物にもゲームみたいに生息域みたいなものが設定されてるのか?
もしそうだとするのなら、学校から日帰りで行ける範囲だけで生活してるようじゃいつまで経っても新しい魔物には遭遇しないってことになる。
いや待て。
さっきのオークジェネラルを倒してことでこの辺の生息域が変化するなんてことはないか?赤熊の時には変化を感じなかったから今回も変化は何もないかもしれないけど、前回と違う点はいくつもある。
1つ目、赤熊は学校周辺の地域を徘徊していたが、オークジェネラルはこの場所から半径300メートルほどの行動範囲だった。
2つ目、この世界になってからこいつらが現れた時間の差。赤熊はこの世界になった直後だったけど、オークジェネラルは一週間くらい前だ。
3つ目、誰も西に居るのがオークジェネラルだと知らなかったこと。遠目に見て情報収集することも出来たはずなのに誰もやってなかった。というより噂にすらなっていないのは異常だ。
4つ目、ドロップ装備の優劣がありすぎる。そもそも赤熊の時はドロップ装備の入手タイミングからおかしかったんだから比べるものじゃないかもしれないが。
5つ目、威圧感にも差があった。赤熊の時には嫌というほど感じた威圧感が今回は全くと言っていいほど感じなかった。単純に強くなったおかげとも考えられるが、何となくそれは関係ない気がする。
正直なんの確証もない俺の感覚によるものもあるけど、純粋な事実による違いも間違いなくある。この仮説を決定づけるようなお知らせでも来るのが理想なんだけど、そう上手くはいかないよな。
さて、考えるのはこの辺にして・・・
「そろそろこの傷の応急処置しとかないとな」
傷を受けた直後に比べたら随分マシにはなったけど、実は今もまだ血は止まっていない。まともに食らったわけじゃないから重症とまではいかないけど、決して浅い傷でもない。今のうちに応急処置くらいはしておかないともう少しで到着するだろう白亜に怒られる。
とはいえこの世界でまだポーションのようなものは発見されていない。ここまでゲームみたいな世界なのだからあっても不思議ではないはずなんだけど、道具屋にも図書館にもそれらしいものは見られなかった。
そんなわけで現状この世界での治療方法は、従来の医療と薬師や道具屋から買える薬類、そして回復魔法(魔術)だけだ。
この中で一番最初に上がる選択肢は、やはり誰でも手に入れられる薬類になる。今回の傷も本来ならそれらで対応したいところなんだが、さすがに薬で対応できる範囲を超えてしまっている。
「やっぱ回復魔術を試してみるしかないか・・・」
強化魔術の時にさんざん色々試したおかげでルーン文字での魔術のコツは随分掴めた。回復魔術に使うであろう文字の組み合わせもある程度検討がついてる。
問題は今まで白亜に治療してもらっていたから一度も試したことがないということ。
文字の組み合わせが正しいのかも、効果がどのくらいあるのかも、失敗したときにリスクあるのかないのかも、何もかも不明。なのにぶっつけ本番で今から自分に使ってみないといけない状況ときたもんだ。しかしやらないといけない状況なのも確かで、いつか直面する問題なのも間違いない。
ふー、ちょっと怖いけど、やるか。傷の深さと出血の具合、それから強化魔術の時の強弱の付き方から推測して、と。
中くらいの効果になるように考えていくつか候補に挙がっていた回復の意味を持つルーン文字から1つ選んで回復魔術を発動してみた。
「お?おお・・・?」
うーん、特に変化はない・・・?いや、少しだけ体が軽くなったか?まさか疲労が消えた?
ということは今の文字の組み合わせは傷の回復じゃなくて疲労回復魔術だったってことか。あんまり使う機会のなさそうなものができちゃったな。ただ魔力をほとんど使わないのは利点かな?
次だ・・・今度は本当に何も変化がない・・・。何かしら状態異常を回復するタイプだったのか?だとしたら何の状態異常を回復してくれるのかが分からないのは困るんだけど。
まあ仕方ない。次だ・・・。
こんな感じでいくつか試してみて、ようやくその時が来た。
「よし!血が止まった・・・けど、傷は一切治ってない」
てことは止血専用の魔術ってことか。魔力消費も少ないし、かなり使い勝手がいいなこれ。傷が開きっぱなしになるからまたすぐ出血しそうだけど、戦闘中の応急処置としては相当優秀だ。
それにしても、この回復魔術ってのは治療内容ごとに細かく分かれてるっぽいな。今は俺の実力不足もあって「1つの回復効果のルール文字+強弱設定用のルーン文字」しか試せてないけど、回復効果の文字を複数組み合わせれば普段白亜が使ってるみたいな回復魔術にまで昇華できるはずだ。
もしかすると、白亜が回復魔法の魔力の消費が激しいって言ってたのは1つ1つの効果は大した魔力消費でもないけど、色々な効果が合わさってることで消費量が爆増してるのかもしれないな。そういう意味では必要な効果だけを組み合わせられる回復魔術の方が発動までの手間がかかる分使い勝手が良いんだな。
俺の場合、あとは傷が治るルーン文字を見つけられれば最高なんだけど・・・今回は時間切れか。
「おーい、悠!大丈夫かー?」
「それが心配してるやつの言い方か」
「しょうがないじゃない。私の目にも大丈夫そうに見えるんだもの」
「ぱっと見で判断してんじゃねーよ。ほれこの通り、やっちまった。止血は出来たんだけど傷までは治せなくてさ。ごめん白亜、治してくれないか?」
「・・・無茶したの?」
「誓って言う、無茶はしてない。ほんの少しだけ見誤ったんだよ」
「本当?」
「嘘言ってどうするんだよ」
「そう、だよね。分かった、今治すね」
「・・・・・いや、やっぱいいや。回復魔術の実験も兼ねて自分で治すよ」
「え・・・?」




