無理ゲーに挑む事になりました
あの後、結局2人ともみっちり加耶に説教された。
説教の間に白亜が全員分の晩飯を頼んでくれていたらしく、ご飯が届くと同時に説教も終わった。
後でお礼言おう。
「そういえば、明日はどうするの?」
「いつも通り外に行くつもりだけど」
「あんた、大丈夫なの?」
「大丈夫。つーか時間ないから休んでられない」
「数ヶ月あるんだろ?そんな焦んなくても良いんじゃないのか?」
「いや、ダメなんだ。今のままじゃ数ヶ月じゃ全然足りない」
記憶を元にした、現状と未来の俺の強さのざっくりとした見積もりを話し、その上で白亜を殺しに来る敵の強さも話した。
話が終わっても、誰も口を開こうとしなかった。
「な、足りないだろ?」
「「「・・・・・」」」
なんか言えや。
「ちょ、待って。お前それ、どうするつもりだよ?そんなんどんな無茶やっても届かねーだろ」
「だな。でも、少なくとも今のペースで成長を続けると記憶通りの数倍の差が出来ちまうのは確かだ」
「無茶をしたって、微々たるものだよ?」
「それはやり方次第、だと思ってる」
「黒鉄君が言ってるのは、無理な願望だよ」
「・・・言わせないからな」
「え・・・?」
この顔は知ってる。白亜のこの表情は、俺の嫌いな表情だ。未来の俺の記憶にもあるし、何より夕香のあの表情と同じだ。
だから、知ってるんだよ。白亜が今何を考えてるのか。知ってるんだ。
「"私が大人しく死ぬ"なんて、言わせないからな。そうならないための"これから"なんだ」
「その選択をした"私"が居たんだね」
「居たよ。何百通りもある記憶の内7割くらいはそれだった」
これには流石に驚いたらしく、大人しく聞き役に徹していた2人も信じられないものを見るように俺の方に視線を向けた。
対して白亜は驚いてはいなかった。むしろ嬉しそうにその言葉を受け止めていた。
「やっぱ白亜からすれば、誇るべき選択なんだな」
「うん、そうだね。だって、私が大人しく死んだ世界では、みんな生きてるんでしょ?」
「生きてるよ。生き残ってるよ。ただ、未来の俺は白亜が死んだ事実に耐えられなくて、たった1つの例外を除いて自殺してるみたいだけど」
俺から視線を逸らすように手元を見ていた白亜が、弾かれたように顔を上げてこっちを見た。
その顔は、驚きと混乱でいっぱいだった。
「だから、生きててもらわないと俺が困るんだよ」
「今の黒鉄君は、自殺までしないよね?」
「・・・分からない。でも、多分しないだろうな」
嘘でもするって言っておけば自ら死にに行く選択肢を消すんじゃ無いか、と思わなかった訳じゃない。
でもこれは正直に答えなきゃダメな質問だった。
これだけ守るだの死なせないだの言っておきながら、いまいちピンときてない自分がいる。
どうして未来の俺は自殺までしたのか、正直分からない。
いくら記憶があっても気持ちまでは伝わってこないから。
「そっか。なら、今のまま居れば大丈夫だね」
「結衣!?」
「あ、勘違いしないでね!死にに行く気は無いから!ほんとに、もしもの話だよ」
嘘だな。いや、死にに行く気が無いのは本当か。
でも場合によってはその選択をしようとしてるんだな。
その世界線でどうなったかも、"もう知ってる"。
この先数ヶ月の間で何があるか知らないけど、必ず白亜が死ねば自殺しようと思うようになっていくんだろうな。
「いずれにせよ、前途多難だな。こりゃ」
「憤怒の検証、今日でよかったな」
「だな。むしろ今日しかなかったって感じだ。記憶にあったのか?」
「んな細かい記憶までねーよ。てかアレとの戦いの前後しか記憶は無いんだ」
「じゃあ、今日の南雲くんのは何だったの?」
「あれは、だな。・・・うん、何だったんだろうな」
「「おいこら」」
「まあ、たぶん、夢って形で刷り込まれてる記憶は本物だぞっていう証明?っていうか証拠?を体験させられた、んだと思う」
「なるほど。そう考えたら辻褄は合うね」
「だろ?友達の死なんて分かりやすい分岐点じゃん」
「ねぇ、私を殺す敵といい勝負をしたパターンって無いの?」
「う〜ん、無くはないけど、相当無茶やってるな。さっきの残り3割うち2割がそれなんだけど、白亜が殺された後、自殺でもなんでも無く力尽きて死んでる」
「とんでもない無茶やってるね」
「ここまではしたくないな〜」
「しないよう済むように頑張ろう」
「だな」
なんかよく分からんうちに雰囲気ゆるっゆるの会話になっちゃってるんだけど。
こんな雰囲気で話す内容じゃなくね?
「何でそんな軽い感じで話してんだよ」
「いやほんとな。俺も今同じこと思ったわ」
「ね。私も」
「「だから軽いんだって」」
「だって、な?」
「ね?」
「「はぁ〜」」
呆れられた。心外な。こうみえてめちゃくちゃ真面目なんですが?
まあ、なんか、あれだろ。細かいこと考えるのが面倒になったんだろうな。
白亜はどうなのか分かんないけど。
・・・そういえば
「噂になってる俺の嘘、1つ嘘じゃ無くなっちゃったな」
「あ、ほんとだね」
「そりゃお前、こんなことなっちまったら仕方ないだろ」
「いや俺だって分かってるよ。ただ何か、"嘘じゃ無くなった"のが気持ち悪いだけ。まあ、結果論なんだけどさ」
「・・・お前のそういうの、怖いんだけど」
「今回のは偶然だろ。あの嘘言ったからこうなったんなら、悔やんでも悔やみきれねーわ」
「まあ、確かに」
「気持ち悪いのは変わんないけどな」
ん?なんか静かになっちゃったな。
ありゃ、頭抱えちゃってる。いや、呆れられてるのかな。どっちだ?
う〜ん分からん。まあ、いいか。
結局その後は、特に何か言われるでもなく、食堂に居座るのもなんだかな〜って話になり、その場はお開きとなった。
お開きになり自由時間になったとはいえ、やることなんてない。
本当のところ、今からでも外に出て少しでも戦闘経験を増やしたいところだが、魔力がほとんどない今は危なすぎる。
え、マジでどうしよう?無駄に過ごしたくないしやるべき事もあるのにやれないって・・・昼間の俺、自重しとけや。
待て待て、冷静になれ。魔力を使わずに出来ることってなんだ?魔術作り、は昼間に現状の精一杯をやり切った。装備の見直しはどうだ?やる必要無さそうだな。
んーどれもこれも今じゃないんだよな。
「よし、寝るか」
そんで明け方にでも起きて外行こう。
決まってしまえば行動は早い。部屋に帰ってさっとシャワーを浴びてからベッドに潜り込んだ。
いつもよりかなり早い時間の就寝だから寝付けるか心配だったが、意外とすぐに眠りについた。
どうやら、なんだかんだ疲れてたらしい。




