昔話②
ふぅ、美味かった。
晩飯が無事全部無くなることで終了し、現在は食休みのためダラけている。
キッチンの方から女性陣2人の話し声が聞こえるのがまた何とも言えない幸福感を生んでいる。
「なあ悠」
「なんだ?」
「なんか、今のこの状況、イイな」
「ああ、めちゃくちゃイイな」
断言しよう。今の俺たちは相当なバカだ。
でもバカでいいから毎日こんな感じでいたい。
今日みたいにむちゃくちゃな戦いとかしたく無いし。
それにしても、あれはギリギリだったな。一歩間違えたら死んでた。よくまあ生きてるもんだよ。
でも、もっとやりようはあっただろうな。今回は結果的に怪我をしたのは俺だけで済んだが、次はそうはいかないだろう。
その時にはもっと冷静に状況判断できるようにならないとな。
もちろん、次なんて来ないのが1番だけど。
「・・・君。黒鉄君。どうしたの?」
いつの間にか戻って来てた白亜に何故か心配されている。
「どうって、何が?」
「なんか、苦しそうな顔してたから」
そんな顔してたのか。
「考え事してただけだ。気にするな」
「黒鉄君、そればっかりだね」
「それって?」
「"考え事してるだけだから気にしなくていい"。ってやつ」
「え、そうだっけ?」
「そうだよ。1人で考えて、1人で決断して、気づいたら行動してる。私たちには相談もしてくれない」
そういえば相談なんてこの2日でほとんどして無いな。
別に、リーダー面してるわけじゃ無い。ていうか俺はリーダーじゃない。
だけどこのパーティの頭脳は俺だ。
自分で言うのも何だけど、勝手にそう位置付けしてる。
だからかな?気負ってた訳でも、重荷に感じても無い。
けど、どこかで1人で決めなきゃって感覚があった事は否定できない。
「そっか。そうだな、ごめん。気をつける」
「じゃあ、まずはさっき何考えてたか教えて?」
少しだけ、いたずらが成功した時のような、楽しそうな顔をして、それでも真面目に聞いてきた。
「・・・やっぱり、白亜はズルいよ」
思わずそう呟いてから、今日の熊との戦闘について考えてた事を話した。
ただ怖いのは、話が進むにつれ機嫌が悪くなっていった白亜だ。
「これが、さっき考えてた事だ。で、何で不機嫌なんですか?」
「あの時、無茶したよね?」
思い当たる節がいくつかあったので素直に頷く。
「最後の、私を庇ってくれたのはありがとう。でも、その前のは許さない。どうして自分を大事にしないの?」
「・・・ごめん」
「違うよ。違う。謝って欲しいわけじゃ無い!理由が聞きたいの!答えて!どうして?」
「あの熊の狙いが、俺だったから」
「嘘だ」
「嘘じゃない」
そうだ。嘘じゃない。それだけじゃないだけだ。
「嘘だよ。それだけじゃ、黒鉄君はあんなことしない」
「・・・わかった風に言ってんじゃねぇよ」
「分かるよ。だって、黒鉄君が自分で言ってた事だから」
「答え、分かってるじゃん」
「分かんないよ。私たちを逃した後、死のうとしてた人の気持ちなんて」
ビクッ
思わず、身体が反応した。図星だったから。
なんでだ、どうして分かった?
「な、なん、なんで?」
「・・・自分より大切な存在を守る。その為なら命を捨てる。昨日、そんな事言ったよね?最初は有言実行してるだけだと思ってた。だけど、黒鉄君が逃げろって言った時の顔が、穏やかだったから。だから、死ぬ気なんじゃないかって」
「ほとんど勘じゃん」
「でも、当たってた」
「・・・そうだな」
ただの勘で、それが分かるのはおかしいだろ。
「ねぇ、黒鉄君。こんな世界になったから、堂々と妹さんの元に行けるなんて、思ってないよね?」
「・・・・・・・・・」
分からない。
そう答えて、曖昧に流す事も出来る。だけど何故か、それをしてはいけない気がしてならない。
今本当のことを言わなければ、二度と言えない気がする。
ここで自分に正直にならないと、白亜に大事なことが言えなくなる気がする。
話すべきか、話さない選択をするか。
「思ってるんだ。そうだよね。いつ死んでもおかしくない世界になったもんね。もし、もし本当に妹さんの元に行きたいなら、私は止めないよ。でも、死なないで欲しいな」
白亜は笑ってこちらに顔を向けた。笑顔だけど、目からは涙がこぼれ落ちた。
俺は、何を言わせてるんだ。なんて表情させてるんだ。何泣かせてんだ。
知り合ってからたったの2日。
そんな短い付き合いの俺を、心の底から心配してくれてる。
死んで欲しくないと言ってくれてる。
正面からぶつかって、向き合ってくれてる。
こんな良い子に、俺は何を
「妹は、夕香は、遺書を残してたんだ。その遺書には、俺の知らなかった事実が書かれてた。俺、気絶するまで殴られたって言ったろ?あれ、意図的だったらしくてさ。俺が気絶した後、夕香は再婚相手に性的暴行を受けていたらしい」
「え?」
想像するだけで虫唾が走る。
「要するに、夕香を守ろうとする俺が邪魔だったから気絶させて無力化する。そんで俺が寝てる間に夕香を犯す。それが日常だったらしい。それが耐えられなくなって死ぬことに決めたそうだ」
「そんな・・・」
知らずにのうのうと生きていた自分に腹が立つ。
「でもさ、俺に対してはお礼と謝罪しか書かれてなかった。だから、俺は知りたいんだ。夕香が本当は、俺のことどう思ってたか。ずっと、ずっと、恨んでるんじゃないかって、怒ってるんじゃないかって考えてる。その答えを、聞きたいんだ。それが、死のうとした理由だ」