夢
「なんか使えそうな食材あったか?」
「ん〜、ほとんどないな。カップ麺なら人数分あるけど、どうする?」
「俺は良いけど、女性陣に聞いてくれ」
家に入って、真っ先に食材の確認を俺と雅人の2人で行い、他2人には家の中を見て回って貰ってる。
これじゃ、その場しのぎにしかならないのは分かってるんだけどな。
階段を降りてくる音が聞こえてきた。たぶん雅人だろう。
「どうだった?良いって言ってくれた、か?・・・あれ、雅人は?」
「四谷君なら、加耶ちゃんと一緒に2階にいるよ」
「なぜにそんな事に?」
「本当に使える食材がないか確かめに来たの」
「なるほど、雅人と役割交代したわけだ」
「そゆこと。えーっと・・・何だ、これだけあれば全然ご飯作れるよ」
「・・・マジか!?カップ麺じゃないものが食えるのか?」
「え、う、うん」
この状況でカップ麺ならむしろご馳走だと思っていた数秒前の俺を殴りたい。
いや待て、まだ作ってくれると決まったわけじゃない。
なら、ならやるべき事は1つだ。
「お願いします。作って下さい」
そう、DO・GE・ZAだ!
「そ、そこまでしなくても作るよ!?」
「ありがとうございます!」
「で、でも自信ないから期待しないでね!」
「大丈夫だ。この状況で可愛い女の子の手料理が食べられるだけで幸せだから」
「か、かわ!?そ、それじゃあ作るから!あっちで待ってて・・・」
そう言われては仕方がないので、大人しくリビングの方で待ってる事にする。
しかし、リビングからも料理してるところが見れる造りになっているので、ソファに座ってぼんやり幸せの光景を眺めておく事にしよう。
しばらくぼんやり眺めてたら、睡魔が襲ってきた。
逆らえる筈もなく、虚しく敗北する。
『おい、早く、こっち、来いよ、結衣。何、やってんだよ・・・?』
これは、昨日の夢?
でも、どこか違うような・・・。
『ごめんね。もう、こうするしかなかったの』
そうだ、この後、彼女は奴に。
『本当はね、私も死にたくない。だけど、私はみんなを、あなたを守りたいの。これは私のわがまま。今まで楽しかったよ。ありがとう。私のことは・・・忘れて。幸せに、なってね。3人とも、笑顔で、生きてね』
これは、死ぬ前の別れの言葉。
誰の?
決まってる。彼女の。
彼女って?
『3人じゃ、ダメだ。3人じゃ、俺は、笑えない。幸せ、に、なれない。お前が、結衣が、居ないと、ダメなんだ!だから・・・』
俺らしくないセリフだよな。
でも、慣れ親しんだ、間違いようもない俺自身の声。
何で、彼女1人のためにこんなに必死なんだろう?
『大好きだよ』
あぁ、俺もだよ。
・・・答えは、これしかないよな。
『やめろおおぉぉ!!』
そうだ、やめろ、やめてくれ!待てよ、待て!待て!!
彼女を、結衣を!白亜を!殺さないでくれ!俺の、大事な人なんだ!大好きな人なんだ!!
目に映るのは、白亜の死に顔。
穏やかな、この2日で何度も見せてくれた優しい笑顔。
『「あ、あぁ。うああああああああぁぁぁ!!!」』
「・・・ちつけ!悠!落ち着け!!」
「・・・あれ?まさ、と?俺、どうしたんだ?」
「こっちのセリフだ。寝てると思ったらいきなり叫び出して。どんな悪夢だ?」
どんな?・・・あれ?上手く思い出せない。でも、何か、大切なものを無くした夢。
あ、涙。俺、泣いてる?
「お、おいおい。本当に大丈夫か?」
「あ、ああ。平気。悪い夢だったのは確かだけど、上手く思い出せない」
「そんな辛そうな夢、思い出さなくて良いよ」
いや、でも、思い出さないといけない気がする。
「ちょっと、どうしたの!?叫び声が聞こえたけど!?」
「悠が悪夢にうなされてただけだ」
「な〜んだ。もっと深刻な事かと思ったじゃない」
「悪かったな。夢で」
「でも、本当に大丈夫?」
「結衣、そんな事心配してたらキリないよ?」
「で、でも叫ぶなんてよっぽど嫌なゆひゃ!え?どどど、どうしたの!?」
白亜の声が聞こえて、白亜の姿が見えて、白亜の顔が見えて、白亜の表情がコロコロ変わって。
そんなこの2日で当たり前になった筈の何気ない事が、なぜか嬉しくて。
なぜか、胸が痛く、熱くなって。
気付けば、俺は白亜を抱きしめていた。




