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打ち切りエンド・リトライ  作者: 刃乃下心
一章~亡命のち冒険者~
7/8

交渉と年齢確認

ルナリエ。

人間族。女。17歳。身長170cm。モデル体型。

"月夜の盗賊団"総頭の一人娘にして帝都支部の頭。

豪胆な性格と生来のカリスマ性で"姉御"の愛称で部下から親しまれている。

貴族の屋敷を襲撃したところを勇者によって撃退、捕縛され、その後公開処刑される。



漫画の中での彼女のプロフィールや性格を思い出しつつ交渉へと移る。

ごちゃごちゃと駆け引きをするよりも単刀直入に話を切り出したほうが好印象であると判断して、すぐに本題に入る。



「ここへ来たのは依頼と情報提供のためだ」

「ああ、聞いてる。依頼の内容は?」

「国外逃亡の手助け。可能ならばダンジョン都市が望ましい」

「国外逃亡?何をやらかしたんだ?」

「まだ何も。ただ、今のうちに逃げなければ近いうちに事が起こってしまう」

「ふうん…詳細については話せないのかい?」

「ああ、色々とややこしい事情があるんでね」

「そうか…まあ、親父の符丁を知ってるんだから悪人ってこともないだろう。あんたの依頼、"月夜の盗賊"が請け負おう」

「ありがたい…と言いたいところだが、問題がある」

「問題?」

「ああ…恥ずかしながら依頼料が払えない」

「なんだそりゃ。ウチをおちょくってるのか?」

「そうじゃない。その代わり、あんたらに間違いなく有益な情報を持ってきた。その情報と引き換えに依頼を受けて欲しい」

「その情報の真偽がわからないと依頼は受けられないが?」

「大丈夫だ。情報は三つあるが、その内二つを先に教える。その情報のうち片方の真偽は今日のうちに判明するから、真実である確証が得られた時点で依頼を受けてくれればいい。その後で残りの情報を教える」

「そうか…よし、その条件で受けよう」

「…いいのか?我ながら胡散臭いけど」



難航すると思っていた交渉があっさり進んで拍子抜けしてしまい、思わず聞き返す。



「ああ、ウチの脚に向ける視線も隠せないヤツに腹芸ができるとは思えないし」

「…不可抗力だ」

「あははっ。それに依頼を受けるのは真偽を確認してからでいい、なんて言う相手を最初から疑ってかかるほど狭量なつもりもない」

「…そうか」



なんとも(おとこ)らしい。いや、女性だけど。

その度量の深さに甘えつつ、約束の情報を教える。



「まず一つ目、三日後に予定している貴族の屋敷襲撃の情報が相手に伝わっていている。"月夜の盗賊団"のメンバーの一人が貴族に買収されて情報を流したからだ」

「…何だと?」



目付きを数段鋭くしてルナリエが睨み付けてくる。言外に、嘘ならただでは済まさない。という意味を込めて。



「疑うなら上陰の三刻に貴族の屋敷の裏口を見張っていればいい。メンバーの一人が現れるはずだ」



ちなみに、この世界の時間の単位は二種類ある。

大まかな時間を表す"上陽""下陽""上陰""下陰"と細かい時間を示す"刻"だ。

"上陽"は日の出から正午まで。

"下陽"は正午から日の入りまで。

"上陰"は日の入りから正子まで。

"下陰"は正子から日の出まで。

"刻"は上の四つを更に三つずつに分ける言い方である。

一日は24時間で、"陽"や"陰"の長さは季節によって変動するが、春ど真ん中の今時期なら"上陰の三刻"は午後の10時頃を意味している。



「…わかった。そのようにしよう」

「そうしてくれ。もう一つの情報だが、買収された一人とは別にスパイが二人潜入している。こいつらは最初から国に雇われていて、数年前から情報を流し続けている」

「…事実か?」

「ああ、南西の隣国とダンジョン都市で活動している"月夜の盗賊団"の情報を掴んでタイミングを見てまとめて叩き潰す気らしい。恩を売る意味も兼ねて」

「…誰だ」

「悪いが言えない。そいつらの名前が三つ目の情報だ」

「そうか…」



ルナリエは寂しそうに呟くと、そのまま口を閉ざしてしまった。

"月夜の盗賊団"は自分にとって家族のような存在だ。

だが今の話が事実なら、その中から三人も…二人は最初からだが、裏切り者が出てしまった。

それらを放置すれば間違いなく自分や仲間達に危害を及ぼす以上、選択肢は残されていなかった。



「…あんたの情報を元にウチらでも裏付けを取って…事実ならそいつらには命で償わせよう」

「そうか…」



覚悟の宿った瞳で真っ直ぐに見据えられて何も言えなくなる。

この世界が自分の漫画の設定を元にしている以上、ある意味では自分が元凶と言えるかもしれない。ならば知っていることを全て話して許しを請うべきなのかもしれないが、到底信じてもらえる内容でない以上黙るしかない。

罪悪感に押し潰されそうになりながら耐えていると、空気を変えようとしたのかルナリエが無理やり明るい声で話しかけてくる。



「さて、あんたの情報が本当なら依頼の対価として十分価値のあるものだった訳だが、明日の朝もう一度会って報告をするって事でいいのか?」

「いや、俺も一緒に行く」



俺の言葉が意外だったのか、一瞬の間があったがすぐにその提案を却下する。



「いやいや、無理に決まってるだろ。あんた素人だろ?貴族街の警備を抜けられる訳がない」

「そうでもないさ。"隠蔽箱(ハイディングボックス)"」



そう言って"隠蔽箱"を自分を中心に発動させた。

最初から隠蔽効果をONにしていたおかげで瞬時に俺の姿が消える。



「なっ!?ど、何処だ!?」

「ここだよ」

「うひゃあ!?」



距離を開けて向かい合っていた状態から姿を消して移動し、彼女の隣に腰かけて"隠蔽箱"を解除する。

予想以上のリアクションで彼女は机から転げ落ち、その反動でドレスのスカートが捲れ上がってしまった。

露わになった脚とその奥に秘されていた純白に目を奪われる。

時間にして数秒だったのだが、その光景をしっかりと脳裏に焼き付け…というところで視線が突き刺さる。

それはもう、物理的な威力を伴っていそうなほどに冷たい視線だった。



「…こういう場合後ろを向くのがマナーだと思うけど?」

「…不可抗力だ」

「いや、ガン見だったよね?これでもかってぐらい目に焼き付けてたよね?」

「ありがとうございました」

「はぁ…もういい、勝手に驚いて転んだのはウチだし…それよりさっきのは?急に消えたかと思ったら気配もなく現れたから本気で驚いたんだけど」



どうにかお許しをいただけたようだ。呆れられただけかもしれないけど。

さて、どう説明するか…さっきの反応を見るに結界魔術は一般的ではないのだろうけど…

まあ、勇者剣技や勇者魔術みたいに知られて一発アウトってこともないだろうし、ただでさえ話せない事があるんだから極力隠し事はしないようにしよう。



「"隠蔽箱"っていう結界魔術の術なんだけど…」

「結界魔術…聞いたこと無いな。属性魔術に結界術はあるけど…結界専用の固有魔術とか?」

「属性?固有?」

「え?知らないの?

属性魔術ってのは火、水、土、風、光、闇、癒の七つの属性の魔術で、適正があればいくつでも覚えられる。

固有魔術ってのは属性を持たない…いわば無属性の魔術。人によって効果は様々で、空を飛ぶ魔術や触れずに物を動かす魔術…みたいに何かに特化した魔術だけど、属性魔術に適正の無い人にしか使えない。

心当たりは?」

「あるな。俺の結界魔術は"(ウォール)"をベースに色々な効果を発揮する魔術って感じだ」



そういいながら"壁"を"魔壁(マジックウォール)"や"硬壁(ハードウォール)"、"柔壁(ソフトウォール)"に変えていく。



「なんか…地味だね。防御特化な感じかな?」

「まあ否定はできないな。攻撃技は今のところ無いから"剣技"で補っている」



実戦はまだだけど、とは言わない。



「へえ…っと、話が脱線したね。つまり、その結界魔術の"隠蔽箱"って術で姿や気配を消してたってこと?」

「そうなるな…"隠蔽箱"」

「…何これ?」



今度は中に入らず隠蔽効果をOFFにして"隠蔽箱"を発動する。

異世界には相応しくない、段ボール箱的な立方体が現れた。



「隠蔽効果を発揮していないとこんな見た目になる。だが効果を発揮すると…」

「おお…消えた消えた。箱の向こう側や床の木目まではっきり見えるや」

「まあ見えなくなってるだけでその場にはあるんだがな」



一見何も無い空間なのだが、触れば確かに同じ場所に箱があるのがわかる。

一通り説明が終わったので"壁"や"隠蔽箱"を消して、俺も彼女も椅子に座る。机に座るとバチが当たるからね。



「つまり、その"隠蔽箱"に隠れて貴族の屋敷を…そこに出入りする人間を見張るってこと?」

「そんな感じだ。まず気づかれることはないし、万が一があっても攻撃を防いでくれる」

「なるほど…ずいぶんと便利な術ね」

「まあLv7で習得できた術だったからな」

「Lv7!?あんた、そんな高レベルだったの!?」

「何か変なのか?」

「だってLv7っていったら最低でもレベル50超えは必須の、その道のベテランと言ってもいい存在よ!?あんたみたいな14、5歳の、成人前後の歳で到達したなんて聞いたことがないわよ!」

「ああ、それは…って、ちょっと待て、14、5歳?」

「あれ?もしかして童顔なだけで同い年くらいだった?」

「…この部屋に鏡ってあるか?」

「え?あるけど…」

「持ってきてくれ」

「?…ちょっと待ってて」



ルナリエが部屋の隅から姿見を持ってくる間に、すっかり忘れていた項目を確認するべく『メニュー』から『ステータス』を開く。



・シキ=イロオリ

・人間族

・男

・15歳

・レベル1


・HP:350/350

・MP:25/350

・SP:350/350


・装備

『鉄の剣』

『皮の胸当て』

『皮の盾』

『皮の籠手』

『皮の脛当て』

『異世界の靴』

『異世界の御守り』


・スキル

『生活魔術』

『結界魔術Lv7』

『剣技Lv3』

『勇者魔術(封)』

『勇者剣技(封)』


・称号

『渡界者』

『放火犯』

『買い物下手』



…順番に整理してみようか。

シキ=イロオリ

俺の名前だな。名字が後になっているのはこの世界の仕様だ。

人間族

まあ、人間だし。

そのまま性別だな。

15歳

…なんで?俺は誕生日を迎えて25歳なはずなんだが…

ランク1

これが上がればスキルポイントが手に入ったり各種ステータスが上がるんだろう。

HP、MP、SP

高いっぽい?MPが減ってるのは結界魔術の使いすぎが原因だろう。

装備

靴は買い換えるべきだろうか?スニーカー便利なんだけどな。あとミサンガは御守りと違う気がする。

スキル

勇者系の(封)って何だ?素直に受けとるなら封印されているってことだけど…

称号

『渡界者』はそのまま世界を渡った者だろう。

『放火犯』は逃げる時に放火してるから仕方ない。

『買い物下手』…もしかして、あの道具屋にぼったくられた?



整理してみて何ヵ所かツッコミをいれたいところはあったけれど、やっぱり一番の疑問点は10歳も若返っている年齢だ。

いったい何故…と思ったところで、ルナリエが鏡を差し出してきた。

ガラスの裏面に金属を付着させたものではなく、金属を磨いて反射するようにしたその鏡に映った姿を見て納得する。

そこには25年間慣れ親しんだ自分ではなく、漫画の中の主人公である勇者が映っていたからだ。



「ああ…そういうことか…」

「え?」

「いや、何でもない。俺の歳だが、15歳で合ってるぞ」

「そう…あれ?何で鏡が必要だったの?」

「ちょっと確認したいことがあってな…」

「…まあいいや。それで、どうするの?"隠蔽箱"を使えば見つからずに貴族街に入れるってのはわかったけど…」



疑問に感じつつも追及はしないでくれるようで、ほっとする。

自分でもよくわからないものを説明しろと言われても無理だからね。



「俺としてはルナリエと一緒に"隠蔽箱"に隠れて間近で確認しようと思ってるんだが?」

「それでいいわ。それじゃあ半刻後に中央広場の噴水前で落ち合いましょう」

「わかった」

「ああ、最後に一つ教えて欲しいんだけど…」

「…何だ?」

「あんたがこのアジトに来てから会った中に裏切り者は居た?」

「…いや、居なかった」



答えるべきか一瞬悩んだが、そのくらいなら問題無いと判断して答える。



「そう…よかった…それじゃあ、外まで案内するわね」



心から安堵したような声を漏らし、扉へと向かうルナリエ。

後に続いて部屋の外に出ると、女性の見張りにウィンクと共にサムズアップされた。絶対何か勘違いしている。

ルナリエが出て来たのに気がついた男達が整列した間を抜け、倉庫の扉の前で短く別れを告げる。



「それじゃあ、約束通りに」

「ああ」



倉庫を出て少し進んだ所で振り返り、さっきまで話していた相手を思い浮かべる。

部下から慕われ、面倒見が良く、素は年相応に可愛らしい。そして、俺のせいで死の運命にある彼女。

自分がこの国から逃げ出すためというのはもちろんだが、彼女のためにも必ず裏切り者を引きずり出してみせる。

そう心に誓うのだった。

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