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打ち切りエンド・リトライ  作者: 刃乃下心
一章~亡命のち冒険者~
6/8

旅支度と月夜の盗賊団

「ああ…ケツが痛い」



行商人の馬車に忍び込み揺られること30分、貴族街を抜け市民街の人通りが少なくなった場所で馬車を降り、周囲に人が居ないことを確認してから"隠蔽箱(ハイディングボックス)"を解除する。

これからとある人物と接触するつもりなのだが、そのためには市民街を突っ切り西区にある倉庫の一角まで向かわなければならない。その時"隠蔽箱"で姿を隠していては通行人とぶつかる可能性が高いし、もう一つの目的もある。



「串焼き一つとボアサンド二つ。ボアサンドは包んでくれ」

「あいよ。串焼きが銅貨4枚、ボアサンドが一つ銅貨6枚だ。包み代はサービスしといてやる」

「助かる…これで」

「銀貨2枚だな…ほれ、銅貨4枚と品物だ。熱いから気をつけろよ」

「たしかに」

「またどうぞ」



品物と釣り銭を受け取り、釣り銭をズボンのポケットに入れる…フリをしてアイテムボックスに仕舞う。

もう一つの目的…食べ物やこの先必要な物を買うのは当然"隠蔽箱"に隠れていては出来ない。

続いて目についた道具屋に入る。

店内は雑多な商品が整理されずに棚に放り込まれている状態で思わず呆気にとられる。

入り口で固まっていると店の奥の方から一人の女性が出てきた。ボサボサの長髪、目の下の濃い隈、ヨレヨレのローブと、到底接客には相応しくない姿をしている。

しかし彼女は店の人間…それも店主だったようで、俺を客だと判断したのか声をかけてきた。



「…あたしの店に客とは珍しい…で、何が欲しい?」

「あ、ああ、色々と必要なんだが…」

「駆け出し冒険者かい?」

「そんな感じだ」

「そうか」



全身皮の防具という俺の姿を見て判断したのか、店主は棚の一角から麻でできた肩かけ鞄と背負い鞄を持ってきた。



「鞄はこの二つがいいだろう。普段使い用とは別に素材用の鞄があると便利だ。

それとこのウェストポーチはポーションみたいにいざって時に使うものや財布を入れておくのに便利だ」

「なるほど、買わせてもらおう」



確かに普通ならば二つあった方が便利なのだろう。俺の場合はアイテムボックスがあるから本当は必要ないのだが…

それでも他人にアイテムボックスの存在を誤魔化すために鞄は必要だと思っていたので、ここは二つとも購入することにする。

ウェストポーチも小物を入れるのに便利なのは確かなので、こちらも購入する。

続いて店長が持ってきたのは赤茶色のローブだった。



「これは砂漠鼠の毛皮で作ったローブだ。暑さ寒さをある程度遮断してくれるし丈夫だから長持ちする。中古だから安くしとくが?」

「それも買わせてもらう」



"(ボックス)"の中に居れば外の気温は関係ないのだが、まさか常時入っているわけにもいかないのでこれも購入する。

次に持ってきたのは様々な色の液体が入った試験管だった。



「ポーションは持っておいて損はない。特にこの三つは複数買っておくことを進めるよ」



そう言って、赤、黄、緑の液体が入った試験管を取り出す。



「どんな効果なんだ」

「赤はHP、黄はSP、緑はMPを回復できる。あと赤は傷を癒す効果もあるから、飲まずにかければ切り傷や骨折も治る」




漫画の中では出てこない単語が出てきたな…

ゲームの知識そのままなら想像はできるが、一応確認しておこう。



「そのHPとかはどういう意味だ?」

「…一度ギルドに行って初心者講習を受けた方がいいんじゃないかい?まあいいや…

HPはヒットポイント。ダメージを受けると減って、無くなると死ぬ。

SPはスタミナポイント。動き回っていると減って、三割以下で動きが悪くなり、無くなると動けなくなる。その状態で無理に動くとHPが急激に減る。

MPはマジックポイント。魔術を使うと減って、三割以下で思考能力が低下し、無くなると魔術が使えなくなる。残MPを越えて魔術を使うとHPが急激に減る。

こんなところだ」

「なるほど」



だいたいゲーム知識そのままでよさそうだ。ただ、どのポイントも無くなる事が死に繋がるとなるとポーションは購入必須だろう。



「それぞれ三つ…いや五つ買わせてくれ。他のポーションは?」

「状態異常を回復させるものだ。毒消しと麻痺消しは常備しておいて、他は受けるクエストに応じて買うのが一般的だろう」

「じゃあ毒消しと麻痺消しも一つずつ」



言った数だけ試験管を置いていき、残りを棚に仕舞う。



「あと必要なのは…火打ち石か?」

「いや、それは生活魔術が使えるから必要ない」

「生活魔術を?そりゃ珍しい。最初はみんな戦闘系にスキルポイントを割り振るから覚えないんだがね。道具で代用できるし」

「いずれ覚えるなら最初から覚えておいた方が得だろ?」

「違いない。となると…このあたりか」



火打ち石を棚に戻し、30cm程の鉄串、小さめの中華鍋、水筒、コップ、ミトン型の手袋を持ってきた。



「出先で携帯食だけだと味気ないからね。新鮮な魔物肉をその場で食べられるのは冒険者の特権だ」

「料理の経験は無いんだが…」

「魔物は死ぬと体内の魔力が旨味に変わるおかげで適当に火を通すだけで旨いんだよ。さすがに串焼きや炒め物くらいはできるだろ?」

「まあ、それくらいは」

「なら買っとけ」



言われるがまま鉄串などを購入することにする。

次に持ってきたのは大小二本の片刃のナイフと"解体指南(初)"と書かれた本だった。



「これは魔物の解体用のナイフ。こっちはランクDまでの魔物の解体の手順が載った本だ。字は読めるよな?」

「ああ、読める。解体は自分でやらなきゃならないのか?」

「やらなくてもいいがギルドに買い叩かれるぞ?解体手数料はランクC以上の魔物なら手間や難易度を考えれば黒字だが、ランクD以下なら自分でやれる分はやるべきだ。多すぎる場合は別だがな」



断言されてしまっては買うしかない。

次の商品に手を伸ばし…というところで、今更な質問を店主がしてきた。



「そういえば予算を聞いていなかったな。どれくらいだ」

「あまり多くはない…一旦ここまでの分を清算してくれるか?」

「ああ、額が高い方から並べていくぞ?

解体用ナイフと解体指南本で金貨2枚と銀貨5枚、

砂漠鼠のローブ金貨2枚、

ポーションが全部で金貨1枚と銀貨8枚、

串や鍋、コップや水筒、ミトンを合わせて銀貨5枚、

鞄とポーチで銀貨5枚だ」




全部で金貨5枚と銀貨23枚だな。と瞬時に合計金額を計算して伝えてくる。

中古とはいえいい品であるローブの値が張るのは仕方ないが、解体セットが何気に高い。時代設定的に紙が貴重とまでは言わなくても高価であるのは確かなので納得するしかないが。

金貨1枚は銀貨10枚と等価だから銀貨73枚分か…食べ物を買い足すことを考えてもギリギリ予算内だが、ここは値切り交渉をしてみよう。



「ああ…ちょっと予算オーバーだ」

「いくらくらいだ?」

「銀貨6枚分だな」

「まあ、それくらいならサービスしておくよ」

「いいのか?」

「あたしも昔は冒険者だったから、慣れるまでの大変さは身に染みてる。自分で解体が出来なかったから実入りは少ないし、ポーションを買えなくてピンチになるし、武器や防具を買い換えられなくていざって時に壊れるし…だから、早々に引退した身としては手助けがしたいのさ」



そう笑いかけてくれた店主に罪悪感を感じつつ、ポケット経由で銀貨を67枚支払う。

「財布くらい持て」と麻でできた小さな巾着袋を寄越してきたので、礼を言ってから屋台での釣り銭の銅貨を入れる。

肩かけ鞄を普段使い用にすることにして、購入した商品を仕舞っていく。まあ、後からアイテムボックスに移す事になるのだが。



「必要な物があればいつでも来ればいい。今回程とはいかなくてもサービスはする」

「ああ、その時は寄らせてもらう」



荷物をまとめ終わったところで初老の男性が店に入ってきたので、短く挨拶を済ませて店を後にする。

思ったより時間がかかってしまったので、早いところ食べ物を買い足して目的の人物に会わねば。




















「買い物客とは珍しいですね」

「ええ、久しぶりのいいお客さんでした」

「私は客ではないと?」

「少なくとも"いい"客ではないですね。これ、依頼された薬です」

「効果は確かですね?」

「当然。無味無臭、速効性、効果を発揮したあとは自然に分解されて検出されない、熱で変質しない等々…

全て要望通りです」

「さすがはランクA冒険者」

「元、ですよ。今は道具屋の店主です」

「そうでしたな。では、報酬はここに」

「聖金貨5枚、確かに受け取りました」

「それでは、またいずれ」



初老の男性が無色透明の液体が入った試験管を受け取り、代金として1枚で金貨100枚分の価値がある聖金貨を5枚支払って店を後にする。

言葉をかけること無くその背を見送った店主は一人呟く。



「お金の価値は使う人次第…私にはこの聖金貨よりあの子の払った銀貨のほうが何倍も価値がある」



無造作に聖金貨を木箱に放り込み、積み上げられた銀貨を眺めながら店主は眠りへと落ちていった。




















「とりあえず食い物はこのくらいでいいか」



日持ちがしそうな干し肉や黒パン、干した果物などを銀貨10枚分購入して鞄経由でアイテムボックスに仕舞い、歩きながら食べる用に購入した串焼きを片手に倉庫を目指す。

15分程歩き、人も疎らになったあたりで目的の倉庫に到着する。

倉庫の前には、気の弱いものなら一目見ただけで足がすくんでしまうほど強面な男が樽に腰かけている。

その男の手には槍が握られていて、近寄りがたい雰囲気がさらに強調されている。

そんな男に歩みより声をかける。



「やあ」

「あぁん?なんだぁ?てめぇ」



気軽に話しかけたのが気に入らなかったのか、鋭い目付きで睨み付けてくる。

思わず一歩下がりそうになったが堪えて言葉を続ける。



「今日はいい天気ですね」

「はぁ?何言ってんだ?」

「この分だと今夜はいい月が見られそうだ」

「おい、訳わかんねぇ事ばっか言ってんじゃねぇぞ」

「日の光は影を落とすが月の光は闇を照らす」

「いいかげんにしねぇと痛い目みるぞ」

「この帝都も月の光で満たされるでしょう」

「…何の用だ」

「依頼と情報提供。ルナリエ氏に取り次ぎを」

「わかった。少し待て」



強面の男が樽から立ち上がり、倉庫の扉にある小窓から中へと三日月の形をしたペンダントを投げ込む。

さっき男に話したのは、この男や中に居る者達が所属している"月夜の盗賊団"で使われている符丁…ようは合言葉で、構成員か一定の信頼を得ている依頼主にしか知らされない。

ちなみに盗賊団といっても一般の市民や商人、冒険者を襲うことはなく、権力を傘に悪事を働く貴族やそんな貴族と繋がっている商人、野盗紛いの冒険者をターゲットにし、奪った財を被害者や貧しい者達に分け与える義賊のような組織だ。

漫画の中では勇者が貴族の依頼を受けて摘発し、全員処刑されている。もちろん勇者には弱者を踏みにじる極悪非道な組織として伝えられていて、真実を知るのはかなり先のこととなる。

そんな"月夜の盗賊団"はこの国だけではなく、南西にある隣国と大陸中央に位置する永世中立国のダンジョン都市にも勢力を伸ばしている。

その繋がりを利用してどちらか…可能ならばダンジョン都市に亡命するためにここを訪れたのだ。

ペンダントが投げ込まれてから1分程で扉は開き、促されるままに中へと入る。

中では数人の男が武器の手入れをしたりカードで賭けをしたりと思い思い過ごしていたが、今はこちらの一挙一動を見逃すまいと視線を向けてきている。

扉はいつの間にか閉ざされ、(かんぬき)がかけられているため逃げることも出来ない。

逃げる理由は無いけれど、それが不可能となると途端に不安になるのは仕方がないと思う。

だが、そんな状況は次の瞬間に一変した。

倉庫の奥から扇情的なドレスに身を包んだ女性が現れ、手を一つ叩いただけで男達が女性と俺の間に道を作るように整列して微動だにしなくなったのだ。



「あんたら、ウチの客相手に何してんのさ」

「「「「すいません姉御!」」」」

「まったく…うちの連中が迷惑かけたね。ウチは"月夜の盗賊団"帝都支部の頭、ルナリエ。あんたがウチに用があるってヤツで間違いないかい?」

「え?あ、はい」

「てめぇ、姉御に向かってなんだその口の聞き方は!?」

「よしな!…重ね重ね悪いね。気のいい連中なんだが、どうにも血の気が多くて」

「大丈夫で…大丈夫だ。それより、ここでは話しにくい内容だから個室を用意してくれると助かるのだが?」

「おいガキ、てめぇ調子に乗るのも大概に…」

「大概にするのはあんただ!」



さっきから突っ掛かってきていた男が後方へと吹き飛ぶ。

ああ、深いスリットから覗く脚が綺麗で…じゃなかった。

回し蹴りで大の男が吹き飛ばされたんだ、目の前の人物には十分注意しなければ。



「ったく…みっともないとこ見せちまったね。あんたの望み通り個室で話そう。ついてきな」

「ああ」

「こいつとの話が終わるまで誰もウチの部屋に近づくんじゃないよ」

「「「「了解」」」」



男達の間を抜け、ルナリエの後をついていく。

高く積まれた木箱の間を抜けると、その奥には三つの部屋があった。それぞれの部屋には見張りが居て、その内一部屋だけが女性の見張りだった。

案の定その部屋にルナリエは近づいていき、見張りと言葉を交わす。



「ウチは客と話がある。もし男連中が騒ぐようなら…」

「はい、容赦なく蹴り潰します!」



…ナニを蹴り潰す気ですかねぇ…

ルナリエに続いて俺も部屋に入る。その時、見張りの女性と目があったので軽く会釈をしたら小声で「頑張れ」と言われた。何か勘違いしていないか?



案内された部屋はベッドこそ置かれていたけれど、私室というよりは"作戦本部"みたいな印象だった。

壁には帝都の簡易的な地図が貼られていて、バツ印や道順が所狭しと書き込まれている。

机の上には何かの資料と思われる紙の束が積まれていて、色の違う麻紐で纏められている。

そんな部屋の様子を見ていた俺にルナリエが話しかけてきた。



「言うまでもない事だとは思うが、この部屋で見たことは他言しないように。もし話せばどんな手を使ってでもあんたを消さなきゃならなくなる」

「もちろん他言はしない」

「ああ、それと…」



一歩二歩と近づいて、耳に息がかかるような距離でそっと囁く。



「ウチに対して変な気を起こしたら蹴り潰すから、そのつもりで」



そう言うと、すぐに俺の側から離れて資料の積み上げられた机に腰かける。

白く美しい脚が惜しげもなく晒されているが、ナニかを蹴り潰されるわけにはいかないので視線を送らないように気をつけつつ交渉へと移る。

所持金:銀貨21枚と銅貨4枚。

聖金貨1枚=白金貨10枚=金貨100枚=銀貨1,000枚=銅貨10,000枚。

銅貨1枚=100円。

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