夢の終わり
『俺達の戦いは、まだまだこれからだ!!』
砂漠迷宮の最奥で魔王配下の四魔将の一人を倒し、崩壊する迷宮からギリギリ脱出した勇者と仲間達が朝日に向かって駆け出しながら決意を新たにする。
しかし、彼らの物語の続きが語られることはない。
作者や出版社の都合、人気の低迷等で時折発生する"打ち切りエンド"というやつだ。
こうなってしまえば作り込んだ設定も張り巡らせた伏線も全てが水の泡だ。
そして俺が某少年誌で連載していた冒険ファンタジー漫画も、物語の半ばで打ち切られてしまった。ストーリーがありきたりだというのが人気低迷の理由だそうだが、万人受けするように王道ファンタジー路線を指示したのは出版社の人間だったのだが…と言い訳の一つも言いたくなる。
それが自分の力量不足を棚上げにしている、というのはわかっているので言わないけどね。
重い足取りで自宅兼仕事場のおんぼろアパートに帰宅し、そのまま敷きっぱなしの布団に体を投げ出す。
「俺の夢もこれで終わりか…」
つい、そんな言葉が口から漏れる。親との約束で25歳までに結果が出なければ、実家に戻って家業である農家を継ぐ事になっているからだ。
農業自体は中学生の頃から手伝いをしていたから嫌ではないし自分で育てた作物を収穫する楽しさも知っているつもりだが、それでも夢を追いかけたくて 親を説得して田舎から出てきた。それも今日で終わりだ。
ちらりと時計に目をやる。あと数分で日付が変わるようだ。そうなれば俺は約束の25歳になってしまう。
6年間頑張ったけれど、結果は読み切り数作と短期連載一作…これでは親を納得させることなんてできない。
「元のまま連載させてくれるよう説得していれば…今さらか…」
元の話は、王道ファンタジーをなぞりつつ主人公である勇者があらゆる人に騙され、利用され、裏切られ、最後は魔王に半生半死になりながら勝利したところを、国王に勇者が生き残った場合は始末するように命令されていた仲間達に殺される。唯一信じていた仲間達に裏切られた勇者は怨念で魂を黒く染め、魔王の魂を取り込んで新魔王として復活。今までの旅路を遡るように世界を滅ぼし、自分以外誰も居なくなった世界で独り壊れたように嗤い続ける。
といった内容だったが、少年誌に相応しくなく万人受けしない、という理由で王道ファンタジーに路線変更することになった。その結果が打ち切りなのだから後悔してもしきれない。
「っと、そろそろか…」
体を起こし、今日のために買ったちょっと高めのワインをグラスに注ぐ。
冷蔵庫から取り出したイチゴショートとチーズケーキを机に置き、蝋燭に火を点けて部屋の電気を消す。
夜光塗料で光る時計の全ての針が真上を指すのに合わせて、独りで乾杯する。
「これからの未来と夢の終わりに、乾杯」
そんな言葉を残して一人の人間がこの世界から姿を消した。
無人になった室内で、ゆらりと蝋燭の火が揺れた。