I,m starving
――人はみんな自分勝手。自分の欲望のために生きてるくせに、感づかれないように「言葉」で誤魔化す。私に言い寄ってきた男たちもそうだった。
くだらない。
もっと欲望に忠実で無様な方が生き物らしいわ。美しい。私に『魅了』された男たちは人前だろうが関係なく私の下僕に成り下がる。欲望を抑えられなくなり、すぐさま私を襲おうとする。その場で殺してあげることもできるけどそれじゃつまらないから、私は一言叫ぶのよ。「助けて」と。
すると周囲の欲を隠した男たちは、欲にまみれた美しい下僕の尊厳がなくなるまで暴行を加える。下僕を警察に引き渡し私に向かって「大丈夫でしたか」と声をかける。これで新たな下僕の出来上がり。
◇
「後日ニュースで下僕が妻子持ちだと知ったときは最高だったわ。私の魅了が解けてからはさぞかし絶望したでしょうね」
指先へ流れ落ちる血を愛おしそうに眺めている女の一人語りには、吐き気がした。自己中心的で、自己陶酔気味。手入れもされていない長い黒髪のせいで顔や体の美しさなんてほとんど分からないというのに、自らを美しいものだと盲信している。
「大方その能力で勘違いしちゃったんだろうが、それにしたって気持ち悪いぜあんた」
緋崎の怒りは収まらなかった。通学途中の朝方に、面倒な相手に目を付けられてしまった。眠くてたまらないこの時間。学校に着く前にエネルギーを消費するようなことはしたくない。それでなくとも始業のベルが鳴るころには俺の腹も鳴ってしまうというのに。
「ふふ、強がっても無駄よ。あなたもすぐに私のものになって身も心もずたずたになるの」
女の強気な口調と態度に、怒りのボルテージは更に上がる。このままじゃマズイ。人を巻き込む可能性があるし、服もダメにしてしまいかねない。今月だけで何着目だと思っているんだ。
肌が焼け、脂肪が焦げる匂いが鼻をくすぐる。この匂いは最も近くで嗅いでいる緋崎自身でも慣れることはなかった。
「まあ、なんでもいいや。さっさとやっちまおうぜ。終わった後に着替えなきゃならないし。高校生は暇じゃないんだ」
「何……。何か焦げ臭い。それにあなた少し痩せて……ウッ!」
加速。体から溢れ出る炎を手のひらに集中。ブースターの要領で瞬時に女の傍まで近づき、その腹部に一撃を加える。地面には靴の摩擦でできた焦げ後がタイヤ跡のように直線に二本焼きついていた。
「おら、飛ぶぞ。加減できないから乗り物酔いにはご注意を」
今度は足に炎を集中し、思い切り飛び上がる。周囲にいた人々は飛んだ際に起きた轟音と風圧によろめいていた。緋崎やこの女に関心などなかった一般人には何が起きたのか分かるはずもないだろう。緋崎はその様子を見て爽快な気分に浸った。