Get all excited
ツンとする。冬の空気がマフラーから出た鼻先をかすめていった。いつもは鼻炎でろくに匂いもわからないこの鼻が、こういうときばかり冷え切った空気を体内へ素早く取り入れてしまう。音もなく流れ出る鼻水を感じながら、緋崎慎太郎はポケットティッシュを持ってこなかったことを後悔した。
電車通学の高校生とは難儀なものだ。早朝に起き、幾駅かを電車に揺られ、俺の場合はそこから乗り換えなければならない。次の電車が来るのは20分後のようだった。
地元が田舎であることを恨みながら電車を待っていると、鼻をくすぐる匂いがした。鉄臭い、よく知っている匂いだった。どこからするのか分からないけど、遠くではないだろう。冷たい風に乗って、駅のホームで血が香る。
辺りを見回した緋崎の傍に、女がいた。その華奢な身体を隠すほど伸びた黒髪から覗くのは金色に輝く瞳。人混みの中に異様な存在感を示す彼女の左腕は真っ赤だった。女は笑い、緋崎を指差す。そして、「デブ」と言い放った。
「あなたが私を認識するなんて最悪。こんなのが次のターゲットなの? 魅了したいとすら思わないわ」
緋崎の脂肪は、既に燃焼を始めていた。