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迷宮主が行く!  作者: かな
8/11

図書館

 



 どろり、体を伝って、滴り落ちる、生暖かいモノ。


 眼を開こうとも、閉じようとも、広がるのは、星々すらも飲み込む、深い闇夜。


 鼻腔に広がるのは、甘い花々の香りのようで、その実、噎せ返るような、鉄錆の臭い。


 ここは、心地良い。


 目を塞ぎ、耳を塞ぎ、心を塞ぐ。


 何も見えない、聞こえない、感じない。


 それで良い、それが、良い。





 でも、何処か遠い所から、声が聞こえる。


 とても、弱々しくて、酷く、頼りなくて、今にも、消えてしまいそうな、儚い声。


 とても、凛としていて、酷く、心に響いて、今にも、全てを救ってしまうような、力ある声。


 ああ、行かなくては。


 此処で微睡む事は、許されない。


 あの孤独の1000年に戻る事は、許さない。


 さぁ、目を醒ませ。


 孤独な私は、もういない。






「おはよう!!今日は、図書館に行くよ~!!」


 髪もボサボサのままに、私は3人のいる部屋に突撃した。


「あ〜・・・おはよう。あと、仮にも女なんだから、身なりは整えてから部屋から出てこい?」


「おはよぉ、主~・・・。」


「あや、スーちゃんはまだおネムだった?」


「ん~・・・あとちょっとぉ・・・。」


「無視すんな?あと、ワンコが怖い顔で、主の後ろに立ってるからな?」


「うん、知ってる。気が付かないフリをしていたのに・・・。」


「おはようございます、主?」


 コボちゃんは、皆の中で1番身なりや礼儀にうるさいから・・・私がこんな格好でいれば、口も手も、出さずにはいられない。


 油の切れた魔導人形オートマタのように、後ろを向けば、満面の笑みを浮かべるコボちゃんと目が合った。おう、目が笑っていない。


 後は、コボちゃんにされるがまま、頭の天辺から、足の先まで、コボちゃんの満足行くまで、マネキンの如く、フルコーディネートされるのだった。




「おう、お疲れさん。先に食ってたぞ。」


「主、おはよぉ!!」


 ようやっと落ち着いて、御機嫌も治ったコボちゃんと食堂に降りれば、スーちゃんとゴブさんが先に朝御飯を食べていた。


「朝から疲れた~。」


「何を言いますか、自業自得でしょう?」


「ゴメンナサーイ。あ、朝御飯2人分、お願いしまーす。」


 まだ続きそうだった、コボちゃんのお説教を無視して、食堂のお姉さんに朝御飯をお願いする。

 時間を置かずして、少し固めの黒パンとオーク肉のベーコンエッグ、グリーンサラダ。それに、申し訳程度に塩で味付けされた、薄味のスープが運ばれてきた。


「じゃ、いただきます。食べ終わったら私は図書館に行くけど、皆はどうする?」


「俺は今日も迷宮だな。もう少し深く潜れば、歯応えのある相手も出て来そうなんだがな。」


「じゃあ、僕も一緒に行くよぉ?」


「おう、頼んだ。」


「なら、僕は主と一緒に図書館ですね。」


 スーちゃんとゴブさん迷宮探索で、コボちゃんが私と図書館。昨日の今日だから、流石に2人にちょっかい掛けるようなお馬鹿はいないと思うけど、ちょっと心配だなぁ。主に、ちょっかい掛ける方のお馬鹿の命がだけど。


「スーちゃん、もし、変な人に会っても、食べちゃダメだからね?」


「え~?食べちゃダメなの?」


 あ、やっぱり食べる気満々だった。


「ダメ。とりあえず、昨日みたいな人達がいたら、転移で宿まで戻って良いから。」


「良いのかよ?」


 ゴブさんが驚いたような顔で言う。

 普段は、緊急時以外は人族の前では使わないようにしているからね。


「うん、代わりに適当な魔石でも砕いといて、魔導具使ったように偽装しといてね。」


「了解。」


 さて、ご馳走様でした。

 話もまとまった所で、私達はそれぞれの目的地に向かう準備を始めるのだった。





 その建物はとても大きな、石材で作られた物だった。

 入口に立つ柱には精巧な模様が彫り込まれているし、壁のいたる所にも中の書物を守る為の魔術式が、所狭しに仕掛けられていた。


「じゃあ、銀貨4枚ね。」


「はい、確かにお預かりしました。施設の利用が終わりましたら、半分の銀貨2枚をお返ししますので、必ず、受付カウンターにお声をおかけ下さい。」


 図書館の入口にある受付カウンターで、施設利用料の2人分、銀貨4枚を払う。

 これには保険料も含まれているので、本を破いたり、汚したりしなければ、料金の半分が後で返ってくる仕組みだ。


「それでは、ごゆっくりヘイズの図書館をお楽しみ下さい。」


 受付カウンターを通り過ぎ、書架室に1歩、足を踏み入れれば、部屋一杯に広がる、本棚の迷宮だった。


「これ、1日で終わりますか?」


「ん、大丈夫。とりあえず、優先順位の高い順に、複製吸収しちゃうから。」


 そう言って、私はこの街の迷宮関連の本棚のの本から、街の歴史、伝承、文化、果ては、民話から出身者の著作まで、必要な情報を、魔法を使って、次々に吸収していく。


 こんな時は、自分が迷宮核であった事に感謝する。

 迷宮核とは、一種の記憶媒体でもある。

 もちろん、一般的には知られていない。

 その地に縛られた迷宮核は、周囲の魔力を吸収して成長する。その際、周囲の魔力を分析、その地に合った、効率の良い成長を果たそうとするのだ。


 その過程で、魔物を産み、育み、時に吸収する。この時、迷宮核は、魔物の経験した事柄や、知識も一緒に吸収して、糧にする。そして、1度吸収した経験や知識を忘れる事はない。


 今、私が行っているのも、その吸収だ。

 しかし、本ごと吸収する訳にはいかないので、本に書かれている情報を魔法で複製し、複製した本を吸収しているのだ。


「今回も外れみたいだねぇ。」


 今しがた手に入れた情報を精査してみても、求めるモノは無かった。


「と、なると、やっぱり禁書ですかね?」


「だねぇ。ただ、禁書となるとなぁ。」


 禁書とは、本自体が魔力を持ち、その本の所有者の精神を汚染していく、危険な書物だ。

 国所有の物も何冊かあるが、だいたい見付かるのはダンジョンの中だったり、大昔の廃都だったりする。


「とりあえず、必要な調べ物は終わったし、後はゆっくり読書で良いかなぁ?」


「ええ、お疲れ様でした。僕も個人的な調べ物があるので、終わったら声をかけます。」


「うん、行ってらっしゃい。」


 私は目の前に積まれたままになっている、この街の迷宮の研究資料に目を通す。

 内容は憶えてしまっているが、改めて目を通す事で、新しい発見があるかもしれないと、淡い期待を込めて。




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