表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮主が行く!  作者: かな
7/11

迷宮入口のイザコザ

 遠くから走って来るギルド職員のお兄さんを横目に、隠匿の魔術を行使する。

 チラと見れば、3人も何食わぬ顔で、隠匿の魔術を行使したようだ。


「これは何事ですか!?」


 周囲の惨状を見たギルド職員は声を荒らげる。


「ど、どうもこうもねぇよ・・・そこの魔物使い(テイマー)の従魔が、俺達を襲って、魔石を奪いやがったんだ!!」


 ちっ、まだ息があったか。

 先程蹴っ飛ばした冒険者が、今度はギルド職員の足下に縋り付いて主張する。


「えっ・・・この方の従魔が、ですか?」


 今まで私が目に付かなかったのだろう、冒険者に言われ、私に気が付いたギルド職員の顔色が、見る見るうちに青白くなっていく。


「そうだ!その小娘のゴブリンが、俺達を襲ったんだ!!しかも、その小娘も、俺の事を足蹴にしやがったんだぜ!?」


 我が意を得たりと、冒険者は顔を赤くして息巻く。しかし、それとは反対に、ギルド職員の顔色は蒼白いを通り越して、土気色に変化していく。

 やがて、ギャーギャーと騒ぎ立てる冒険者の胸倉を掴み上げ、ギルド職員が地の底を這うような声色で喋り出した。


「・・・貴方がた、あのゴブリンに襲われたのですか?」


「お、おうよ。そこのゴブリンが俺達を襲ったんだ・・・それよりも放せよ!俺達は被害者だぜ!?ギルド職員が、こんな事して良いと思ってんのか!?」


「黙りなさい。」


 ぴしゃりとギルド職員は言い捨て、冒険者を地面に放り投げる。うわ、痛そう。


「大変申し訳ありませんでした。」


 見事としか言いようのない土下座とは、この事を言うのだろう。

 ギルド職員のお兄さんは冒険者達になど、目もくれず、私達に謝罪し始めた。


「別に、ギルドが悪い訳でも、ましてや、貴方が悪い訳でもないじゃない。」


 悪いのは、ゴブさんにちょっかい掛けた冒険者達だ。


「いえ、彼等はヘイズ所属の冒険者。であれば、責任はギルドにも及ぶ物。何卒、ご容赦願いますよう・・・」


「いや、別に取って食べる訳でも無いし、そんなに謝られる事でも無いんだけど・・・」


 第一、ゴブさんには、なんの被害も無かったのだ。本人も大して気にしているようには見えない。


「な、なんで、そんな小娘なんかにペコペコしてんだよ!!被害者は俺達だぞ!?」


「黙れと言ってるでしょう!!貴方がたは死にたいんですか!?」


 再び声を上げた冒険者にも、土下座させながら、ギルド職員は何度も頭を下げ続ける。


「そんなに私、危険人物に見えるのかなぁ?」


「どうせ、他のギルドから今までやらかした事の通知でも来てるんだろ?」


「ギルドに見付かってる事だけでも、相当数ありますからねぇ。」


 ゴブさんとコボちゃんは遠い目しながら、土下座を続けるギルド職員を見やった。


「あのねぇ、別に怒ってる訳じゃないの。ただ、不当な扱いを受けたくないだけなのね?」


「はい、それはもう・・・」


「とりあえず、今回の事は、私達は何も知らない。倒れてる冒険者さん達は、迷宮で魔物に襲われたか何かして、ボロボロになってしまった。て、事で良いかな?」


「はい、それで大丈夫です。ご温情に感謝します。」


「はい、じゃあ、これで全部おしまい!!さぁ、野次馬も散って、散って!!」


 まだ、冒険者は何か言いたそうにしてたけど、どうせ、自分は被害者だとしか言わないだろう。一応、釘は刺しておこう。

 立ち上がるギルド職員を通り過ぎ、未だ立ち上がれない冒険者の耳元で囁く。


「今は、コレで許してあげる。でも、次に私達に手を出したら、こんなモノじゃ、済まないからね?」


 言の葉に乗せるのは、幻夢の魔法。

 魔法は、魔力を魔術式に当てはめ、世界の理を読み解き、現象を引き起こす魔術とは違い、正真正銘、己の魔力と引き換えに、奇跡を起こす。


 私がにっこりと笑うと、冒険者は奇声を発し、体の穴という穴から、様々な体液を流し始めた。うん、汚い。


「ひっ、ひぃあぁぁぁぁ!!!!!」


 今の彼は、目に映る物全てが恐ろしくてたまらないだろう。常に死の瀬戸際の状態で、ともすれば、いっそ、死んだ方がマシと思えるような、そんな状態のハズだ。


 幻夢の魔法は、夢、幻をより、現実的に見せる魔法。

 似たような魔術はあるけど、抵抗レジストされやすく、冒険者と言えば、耐性は高い。

 でも、逆に言えば、そうそうそんな状態になる事も無いから、1度幻夢の魔法掛かってしまえば、対処のしようがない。


「彼は、一体・・・?」


 唐突に発狂しだした冒険者を前に、ギルド職員のお兄さんはまた、顔色を悪くさせる。


「ちょぉっと、悪い夢を視ているだけだよ?まぁ、起きられるかどうかは、分からないけど。」


「幻惑の魔術ですか?」


「さぁ?どうだろうねぇ?」


 貴方も、試してみる?

 そう言って笑えば、ギルド職員のお兄さんは、首が取れるんじゃないかというほど、目一杯、首を横に振るのだった。





 発狂しっぱなしの冒険者と、先にゴブさんが叩きのめした冒険者達を応援に来た衛兵と、ギルド職員のお兄さんに任せ、私達はようやっと帰路に着いた。


「あ〜、あの程度で終わって良かったぁ。」


「もう少し、どこかの誰かさんが、上手く立ち回っていれば、騒動自体、無かったでしょうけどねぇ?」


「俺が悪いってか!?」


「わざわざ叩きのめしたりしないで、さっさと逃げれば良かったでしょう?」


「いや、だってよー・・・」


 ゴブさんは、売られた喧嘩はもれなく買っちゃうからなぁ。

 ゴブさんとコボちゃんの何時ものじゃれ合いを背後に聞きながら、いつの間にやら眠ってしまったスーちゃんを胸に抱き、すっかり暗くなった空を見上げる。


「この街の空には、星は見えないんだね。」


 昼も夜も関係無しに動き続ける、巨大な鉄の塊。濛々と立ち上る煙が、街の空を覆い尽くしている。


 今日も色んな事があった。


 楽しい事ばかりでは無かったけれど、そんな日もあるだろう。

 本当は、まだやりたい事もあったけど、それは、また明日でイイや。


「今日の夕飯は何かなぁ?」


 今日はもう、ご飯を食べて、お風呂に入って、フカフカのお布団に包まれて、ぐっすり眠ろう。



 明日はどんな素敵な事があるかなぁ?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ