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迷宮主が行く!  作者: かな
6/11

魔石

 


 クリーム色のフリルシャツ。フワリと広がる、明るいグレーの膝丈スカートにも、ふんだんにフリルがあしらわれている。腰に巻かれているのは、火鼠の皮に、精巧な紋様が刻まれた、見事なコルセット。足下を彩る編み込みのブーツにも、火鼠の皮が使われていた。

 真っ白な頂きを飾るのは、歯車をモチーフにした髪飾りとオマケにともらった、煙避けの魔術が付与されたゴーグルだ。


「うんうん、やっぱり可愛いねぇ!!」


 私は案内された鏡の前で、クルリと一回転する。


「サイズもばっちりだし、着て行っちゃおうかな?」


「そう言うと思ってたんで、今、お店の人に、前に着ていたワンピースと髪飾りを包んでもらっていますよ。」


「流石コボちゃん、分かってる~!!」


 既に、会計を終わらせたコボちゃんがスーちゃんを抱えてやって来た。

 良く見れば、コボちゃんもこの街の人達が着ているようなジャケットとズボンに着替えている。

 スーちゃんは、まぁるい身体に、ちょこんとゴーグルを乗せていた。


「2人とも似合うね~!!」


「いえいえ、主程ではありませんよ!」


「えへ~、僕可愛い?」


「うんうん、すっごく可愛い!!コボちゃんだって、いつもよりすっごくカッコイイよ!!」


 ポヨンポヨンと腕の中で跳ねながら、体全体で喜びを表現するスーちゃんに、口では謙遜しながら、尻尾をブンブンと勢い良く振っているコボちゃん。ホントに2人とも可愛いなぁ。


「あ、ゴブさんのは?」


「彼のは僕が適当に見繕っておきましたよ。」


「そっか、じゃ、皆同じ服が着られるね。」


 仲間外れは良くないよね。


 本来なら、この街の迷宮に、生息する筈のないゴブリンが、ゾクリと背筋を震わせたのは、本人以外が知る術は無い。





「図書館にも行きたいけど、それは明日でいいかなぁ?」


 商業区にある服飾店を出て、露店の集まる区域に移動する。


「図書館なら、やっぱり1日使ってゆったりしたいしねぇ。」


 若干、後ろ髪を引かれながら、露店で売られている様々な魔導具に視線を向ける。

 色とりどりの魔石が嵌め込まれ、鈍い光を放った。

 私はその露店の前にしゃがみ込む。

 いらっしゃい!と、お兄さんが威勢の良く挨拶してくれた。

 目に付いたのは、種類別に分けられ、キラキラと光る、沢山の小さな魔石だ。


 こういった魔石1つとっても、その街の特色がよく分かる。

 小さいながらも透明度が高く、中に炎を宿した、純度の高い魔石が多い。

 逆に、水の魔石は、殆ど無いと言っても過言ではない。ちらほらと、あるにはあるのだが、透明度は皆無で中を見る事は叶わない。

 手にした時に、僅かに水の魔力を感じる程度の、屑魔石だ。それなのに、火の魔石よりも値段が高い。


 魔石の純度は、透明度と中に閉じ込められた魔力で区分される。

 透明度が高く、石を覗いた時に、閉じ込められた魔力が鮮烈であればある程、その魔石の純度は高いとされる。


 適当に摘んだ火の魔石を覗き込めば煌々と燃え盛る炎が、そこにはあった。


「良い魔石ですねぇ。」


「まぁな、此処は炎と煙の街だからなぁ。迷宮にも、炎の特性を持った連中が多いのさ。」


 魔石は、魔物の心臓部分に宿る、魔物の核とも言える物。故に、その魔物の特性が、強く反映される。

 他にも、その地に、多くの精霊や魔力が集まった場合に産出される事もある。


「まぁ、土や風の魔石もある程度は賄えるんだが、水の魔石だけは駄目だな。」


「でも、ここの街にある魔導機械は、水の魔石も使うんじゃなかったの?」


「おう、その魔導機械に回す為に、街では、常に水の魔石が不足してるのさ。」


 まぁ、そのお陰で、安定した生活を送れるんだがな、とお兄さんは肩を竦めた。


「ふぅん・・・じゃ、この魔石全部頂戴。」


 無造作に箱に詰められた火の魔石を示す。お兄さんは、ポカンとした表情で私を見つめていた。




 金貨10枚で売ってもらえた。この純度の魔石にしては、だいぶ安い。


「後で皆で分けようねぇ。」


「わぁい!!!」


 その触手で器用に沢山の荷物を運びながら、スーちゃんがポヨンポヨンと跳ねる。


「これで、少しはレベルが上がれば良いんですけどねぇ。」


「私とスーちゃんは、難しいと思うよ。」


「後は、彼の成果次第ですかね?」


「大きめで、純度が高ければ、辛うじてって所かなぁ?」


 そろそろ夕方に近い。途中途中にある屋台で買い食いしつつ、街の真ん中にある迷宮の入口に向かう。

 すると、行き交う人々が若干、変化を見せる。

 商業区や露店街等では、女子供や老人等、一般的な街の住民達で賑わっているのに対し、この迷宮に近い通りでは、武器や防具を扱う店が殆どで、道行くのも冒険者然とした、屈強な人族や亜人族が多い。


 つまり、私達は、だいぶ場違いな場所に居るように見えるのだ。


「よぉ、姉ちゃんよぉ。」


 そして、こうやって勘違いする人種が、どこの街でも一定数はいる。

 私は聞こえない振りをして、その場を少しだけ早足で歩き去る。モチロン、コボちゃん達も一緒だ。


「な、ちょっと待て!!!・・・って、もう居ねぇ!!??」


 遥か後方でまだ何か言っているようにも聞こえたが、ゴブさんを迎えに行く方が重要に決まっているので、割合、どうでも良かった。





「お待たせー、待った?」


「おう、待ちくたびれて、根っこ張る所だったぜ。」


 迷宮の入口付近では、死屍累々と言った、地に伏した冒険者達を前に、憮然とした様子で重斧を担いだ、ゴブさんがいた。


「ごめんねぇ、お土産あるから許して?」


「しょうがねぇなぁ。」


 良かった良かった。

 それじゃあ、宿に帰ろうと、踵を返した時、足首をがっしりと掴まれた。


「ま、待ちやがれ・・・お前が、そのゴブリンの主なのか?」


「む?そうだけど、なんなのかな?」


 地面に転がっていた冒険者の1人が、意識を取り戻したようだ。


「そいつが、俺達を攻撃したんだ!!魔物使い(テイマー)なら、これがどういう意味なのか、分かるよなぁ!!!」


 うわ、めんどくさい。


「あ〜、揺すり集りなら、他にしません?どうせ、貴方達がうちのゴブさんにちょっかい掛けて、返り討ちにされただけでしょ?」


「なっ!!??ち、違ぇよ!!そいつが急に襲って来たんだ!!そいつが俺達を襲って、俺達の魔石を奪ったんだぜ!?」


「なに?魔石欲しさにゴブさんを襲ったの?馬鹿ねぇ、ゴブさんに敵う訳ないじゃない。」


 遠くから、恐らく迷宮入口担当のギルド職員が走り寄って来るのが見える。あぁ、本当にめんどくさい。

 私は肩を竦めながら、面倒を起こしたであろう、足下を這いずる冒険者を、新品のブーツで蹴っ飛ばすのだった。



予約投稿してたつもりが忘れていましたm(_ _)m

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