オーク串の屋台前
「お待たせ〜」
「主~、遅いよぉ。」
ポヨンと、ゴブさんに抱えられていたスーちゃんがその腕から飛び出し、私の胸に飛び込んでくる。
「ごめん、ごめん。一応、カードのチェックとか、色々あったんだよ。」
「大丈夫だったのか?」
「大丈夫だったよ・・・多分。」
プルプルツヤツヤのスーちゃんをムニムニしながら、そっと目を逸らす。
別になんにもなかったよ?
重ねがけしていた隠匿の魔術を解除する。
すると、カードに刻まれた真の情報が浮かび上がった。
名前:アイン
年齢:1017歳
種族:迷宮核
職業:迷宮主
レベル:359
技術:迷宮創造、魔術、魔法、体術、槍術、治癒術
賞罰:迷宮踏破者、迷宮殺し、大虐殺者、魔物の天敵、人族の天敵、失せし秘法の体現者、治癒師、奇跡を起こす者、超越者
やっぱり、見せられないよねぇ。
種族なんて迷宮核だよ?迷宮核。もはや、人の形をした歩く魔石だ。
いや、確か、私にはちゃんとした種族があったハズなのだ。コボちゃんがコボルトであるよう、私だって、迷宮核などという、種族なのかアイテム名なのか、よく分からない不思議生命体ではなかったハズなのだ。
「ほらほら、主。そんな難しい顔してないで、街を見に行きましょう?」
「そうだよぉ、主~。僕、もうお腹空いちゃったんだからぁ。」
コボちゃんに背を押され、腕の中ではスーちゃんがプルプルと空腹を訴える。君、さっき朝ごはんを5人前は平らげていたよね?
「あんなのは朝ごはん前のお茶漬けなの〜。」
訳の分からぬ自論を展開し、あっちあっち、と屋台の集まる方面を示す。
しょうがないなぁ、と、ゴブさんじゃないけど、欠食スライムの為に私達は屋台から流てくる、美味しそうな匂いを辿るように、その場を後にした。
「くださいな。」
スーちゃんを抱えたまま、オーク肉の串焼きを買い求める。普通に飼育されている家畜の肉より、値段は高いが、魔物肉の方が断然味は良い。
「おう、いらっしゃい!何本だ?」
「ん〜、23本、すぐ出来る?」
「出来合いので良ければ直ぐに出せるぜ!」
屋台のおじさんはニコニコしながらとりあえず、と言って2本の串焼きを差し出してくれた。スーちゃんが体から伸びた触手で受け取り、待ってましたと1本目の串焼きを取り込む。
「嬢ちゃんの従魔かい?スライムが従魔なんて、珍しいな。」
「あら、これでもすっごく強いのよ?ワイバーンにだって勝っちゃうんだから!」
「ははっ!ワイバーンにだって?そいつは凄い!」
私は大銅貨を7枚、おじさんに手渡す。すると、おじさんは大銅貨を1枚返してくれた。
「強い従魔を従えた、可愛い魔物使いのお嬢さんにサービスだ。またご贔屓に。」
「ふふっ、ありがとうございます。」
残りの串焼きを包んでもらい、おじさんにペコリと一礼して、少し離れた所て待っていた、コボちゃんとコブさんに合流する。
この短いやり取りの間、既にスーちゃんは串焼きを13本、食べ切っていた。
「はい、2人の分。」
串焼きを2人に1本ずつ手渡して、私も1本、齧り付く。
赤身の部分はしっとりとした弾力が、脂身の部分はあっさりとしているものの、脂の甘味がしっかりと感じられる。これで銅貨3枚は安いよね。オマケしてもらったけど。
人族達の使う貨幣は、銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、白金貨、紅貨の6つだ。
銅貨10枚で大銅貨1枚に、大銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚、金貨10枚で白金貨1枚、白金貨10枚で紅貨1枚になる。
因みに、平均的な4人家族の一月の収入は金貨2枚程だ。
「やっぱり、オーク肉はウメェな。」
「歯ごたえもしっかりしてますしね。」
「俺はもうちっと、がっしりした歯ごたえの方が好みだがな。」
「歯ごたえも何も、貴方は岩だって齧るでしょうに。」
「スー程じゃねぇよ。」
もう食べ切ったのか、2人はそんな事を言いながら、残った串をスーちゃんに渡す。スーちゃんはその串すらも取り込んで消化していた。
「ごちそうさまでした。」
私もスーちゃんに串を渡す。清浄の魔術を使い、手に僅かに付いていた脂を洗い流し、未だ舌戦を繰り広げる2人に向き直る。
「ほら!喧嘩しないの!今から、新しいお洋服買いに行くんだからね!!」
「げっ!この前、新しく買ったばっかじゃねぇか!」
「あぁ!この街の服も主によく似合いそうですねぇ!」
「僕もお洋服見る〜!ヒラヒラした主、すっごく可愛いもん!!」
あからさまに嫌な声を上げるゴブさん。コボちゃんとスーちゃんはウキウキと行く気満々だ。
「じゃ、ゴブさんだけここの迷宮潜ってる?夕方に迎え行くよ?」
「俺としても、そっちの方が有難いな。どうも、女の買い物は肌に合わねぇ。」
それじゃあと、ゴブさんに従魔の証を渡す。これさえあれば、魔物と言えど、無碍な扱いを受ける事は無い。ただし、その魔物が何かしらの問題を起こした際の責任は魔物使いが負うことになるのだ。
それ故、従魔の証を持っていたとしても、従魔と魔物使いは共に行動するのが一般的だ。まぁ、私達は色々、例外だからね。
「じゃあ、後でな。」
ゴブさんは少しだけ背伸びをして、私の頭をポンポンと撫でると、一瞬で、その姿を消した。
恐らく、宿に戻って装備を整えてから、迷宮に向かうのだろう。流石に、小さな迷宮とはいえ、装備も無しに潜れば、擦り傷位は出来るだろうし。
「じゃあ、私達はお洋服屋さんに出発だぁ!!!」
「「おー!!!」」
可愛いお洋服があるといいなぁ・・・あ、アクセサリーも!!!
鼻歌も高らかに、私達は商業区へ足を向けるのだった。
簡易キャラ紹介
アイン:オーク肉よりコカトリス肉の方が好き。食べ道楽より着道楽。
コボちゃん:肉なら割となんでも好き。しかし玉ねぎ、お前は駄目だ。
ゴブさん:口に入るならなんでも食べる。毒も無機物も関係ない。
スーちゃん:この世で消化出来ぬものなぞ無い。