とあるギルド職員の独り言
「それじゃあ、また来ますね。」
そう言って、真っ白な少女は建物を後にした。
先ほど見たカードに間違いは無い。偽装も隠蔽も何も無かった。
私も長い事、このヘイズのギルドで働いていたが、あんなに若い、銀の冒険者を見たのは初めてだ。
この街にいる冒険者なんて、ほとんどが銅だ。
銀の冒険者なんて、この街には3組しかいない。
「・・・なぁ、間違い無かったのか?」
「間違いなんて、無かったわよ。」
手元に残された、移動届け。そこには以前、彼女が訪れたのであろう、各国のギルドからの申し送り、否、注意事項が、これでもかと、書き連ねられていた。
曰く、何処そこの貴族と揉めた際、完膚無きまでにその貴族を叩きのめした、問題冒険者。
曰く、迷宮の大氾濫を最前線で押しとどめた、辺境の英雄。
曰く、太古に失せた大魔術を復元させた、大魔導師。
曰く、とある国の戦争で、敵対した軍を壊滅に追い込んだ、大虐殺者。
突拍子が無いにも程がある。しかし、そのどのエピソードにも最後には
『とにかく彼女と敵対するような真似はするな。』
そんな一文が書き殴られているのだ。
一見して、優しげで、純心そのものといった少女の評価としては、物騒すぎる。
「とりあえず、ギルド長に報告して、周知徹底するしかないわよねぇ・・・」
深々とため息をついて、私は席を離れた。
願わくば、あの真っ白な少女が何事も無く、この街で過ごせるよう・・・何処かの馬鹿が、少女に手出しして、この街が滅びる事がなければ、と・・・