煙の街
「んぁ~~~!!!」
窓を開け、一晩グッスリ休ませて固まってしまった身体を思いっきり伸ばす。
今日も太陽は眩しい。
眩しい、はず?
「ガスがかってて空なんて見えないよ!」
「空どころか、お隣の食事処の看板も見えないですよ。」
「てか、部屋の空気も悪くなるんで、窓閉めて貰えないっすかね?」
あ、はい。ごめんなさい。
パタン、と窓を閉めて部屋に視線を戻せば、異形の者が3人。
パリッとした白いシャツに、黒いズボンを身につけたコボルト。
少しよれたクリーム色のシャツに灰色のズボンを身につけたゴブリン。
そして、ツヤツヤプルプルとしたその魅惑の肌を惜しげも無く晒した黄金色のスライム。
はて?昨日、確かに私は個室を取って休んだハズなのに、なんで彼等はこの部屋に居るのだろう?
「なんで皆ここにいるの?」
「なんでもかんでも、時間になっても起きてこない主を起こしに来たんですが?」
「主~、お腹空いた~!」
「主、いくら宿屋っても、鍵くらい掛けとけよな?」
おぉう。原因は私の寝坊だったらしい。
いや、だってこの街に着いたの昨日の夜遅くだったんだもん。宿だって取れたの奇跡に近かったんだから。
「はいはい、髪の毛整えてあげますから、ここ座って下さい。」
部屋に申し訳程度にある、大して映りもしない粗末な鏡台の前で、コボルトのコボちゃんはニコニコしながら櫛を用意しいる。
「主~、ご飯~・・・」
何時もはポヨンポヨンと、元気に跳ね回っているスライムのスーちゃんは、お腹が空きすぎて、今は寝台の上でベターっと広がっている。
「しょうがねーなぁ、とりあえずこれでも食っとけ?」
腰に吊るしてあるアイテム袋から、どうやって入ってたの?っていうレベルの大きな瓶を取り出したゴブリンのゴブさんは、色とりどりの飴をスーちゃんに渡している。
「準備出来たら直ぐにご飯行くから、もうちょっと待ってね!」
今日はどんなお洋服にしようかな?街の人達が着ているお洋服はまだ買ってないから・・・とりあえず、前の街で買った紺色のワンピースにしよう。
「コボちゃん、前の街で買った髪飾りも着けてね!お月様の可愛い髪飾り!」
「かしこまりました、主様。」
さぁ、今日はどんな面白い事があるだろう?
ワクワクする心を抑える術なんて、私は知らない。ホントは今直ぐにだって飛び出したいんだから。
ワクワクする心を誤魔化すように、私は目の前の鏡を指先で撫でる。
一瞬で鏡は目の前の異形を明瞭に映し出した。
真っ白な髪に、黒目がちな黄金色の瞳。普段は術で隠している、ゴツゴツした木のような角も、まだその姿を晒している。
「あぁ、こっちの方がよく見えますねぇ。」
よく見えるようになった鏡に、私よりコボちゃんが喜ぶ。さっきよりニコニコしているもの。
「さぁ、出来ましたよ。お着替えはどうしますか?」
仕上げにパチン、と金色に輝く三日月を飾って、コボちゃんは満足気だ・・・綺麗に仕上げられた髪は、私には魔法にしか見えない。自分でやれと言われても無理だ。どんな編み方をすればこんな髪型になるんだろう?
「着替えは自分で出来るもん!」
「じゃあ、俺らは先に食堂行って、待ってるからな。」
ゴブさんは飴を食べているスーちゃんを抱え、ヒラヒラと手を振りながら部屋を出て行く。コボちゃんは少し残念そうにその後をついて行った。なんで残念そう?
術で角を隠した後、私は若干悪戦苦闘しながら寝巻きからワンピースに着替えるのだった。
「なんで頭出ないの~!?」
簡易キャラ紹介
迷宮主:主人公。最近脱引きこもりした為か、テンション高め。生活力は皆無。
コボちゃん:お供その1。コボルト。モフモフ肉球なお手手なのに凄く器用。皆のお母さん。
ゴブさん:お供その2。ゴブリン。謎のアイテム袋所持。一行の稼ぎ頭。
スーちゃん:お供その3。スライム。食いしん坊なお子ちゃま?皆大好きマスコットキャラ。