プロローグ
空は高く、肌撫ぜる風は未だ僅かに冬の名残をはらんでいる。それでも、足元の大地には春の訪れを告げる、小さくも力強い、名も知らぬ花々がその姿を現していた。
「これが、外の世界・・・」
空なんて、初めて見た。
その身に纏う白き薄衣の、なんと美しい事か。その頂きに輝く金冠の、なんと清高な事か。
肌を撫ぜる風すら違う。
私が知るのは澱んだ空気の流れだけだ。
こんなにも暖かな物だったのか。
こんなにも冷たい物だったのか。
足元の花々に愕然とする。
万病に効くとされる花を知っていた。
人族の矮小な寿命すらも延ばす事が出来る霊薬とされる草も知っていた。
しかし、足元の弱々しくも生命力に満ち溢れた小さな存在を、私は知らない。
「もっと、知りたい・・・」
私は、今しがた出てきた、真っ暗な洞窟を振り返る。
私がこの地に生まれ、1000年の時が過ぎた。
私がこの迷宮に縛られ、1000年の時が流れた。
1人ではなかったけれど、それでも孤独は嫌だった。
皆は居てくれたけれど、それでも迷宮主は1人だった。
「ごめんなさい・・・」
もう一度、空を見上げる。
私は、知ってしまった。
もう、知らない私には戻れない。
もう、暗い迷宮の奥底になんて、戻れない。
戻れないなら、進むしかない。
もう、迷いなんて、何も無かった。
「いって、きます。」
人族は、そう言うんだって、聞いた事があった。なんだか少し擽ったくて、知らず知らずに私は少し笑った。
駄文ながらチマチマ書いていきたいと思います。よろしくお願いします。