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第1話 モフモフ転生

初投稿となります。

拙い文章で恐縮ではありますが、宜しくお願い致します。

ストックのある限り連日投稿予定です。

 目を開けると、そこは森の中だった。


 温かな木漏れ日が落葉樹の透き間から降り注ぎ、辺り一面の地面に縞模様を描いている。

 世界はまるで色褪せた写真のようなセピア色に染まっており、とても幻想的な光景が拡がっていた。


 (ここは……?)


 何故だろう。

 独り言を呟こうとしたが声が出ない。

 混乱する気持ちを落ち着かせ、全神経を集中させて声帯を震わせる。

 その結果、やっとの思いで声を絞り出すことが出来たが……


 「ミュー!」


 それはまるで仔犬のような可愛らしい響きだった。


 自由にならないのは声だけではない。

 歩けない。

 立ち上がることすら出来ない。

 そもそも身体に力が入らない。

 思うように動かない身体を捻り、なんとか自らの体躯を視認するとそこには――


 柔らかな被毛に包まれ丸みを帯びた、まるで毛玉のような手足があった。



 どうやら俺はモフモフの何かに、生まれ変わって・・・・・・・・・・・しまったらしい。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 「お待たせしました。こちらの診察室へどうぞ。」


 ついさっきまで、俺はいつも通り仕事をしていた。

 シャツの上から白衣を羽織り、カルテ片手にクライアントとその小さな家族を診察室へ案内する。


 「こんにちは。その後、具合はいかがでしたでしょうか?」


 物を言えない動物たちの症状、病状をクライアントの目と言葉を介して把握してゆく。


 この愛すべき小さな生命たちは、人間のように言葉を発しない。

 いつからしんどい、どこが痛い、何が辛い。

 彼らなりに伝えたい思いがあるはずなのに、それを伝える手段に乏しい。

 それらのサインは、『言葉』という便利な道具に頼り切った人間の目には非常に曖昧だ。

 だから小動物診療は難しいと俺は思う。



どうして今日は元気がないの?

大好きなご飯を食べないのは何故? 

『動物たちと言葉を交わすことができたらな』

この仕事をしている人間ならば誰もが一度は考えたことがあるはずだ。




そんな仕事の帰り道、俺は病院前の道路脇で倒れている犬を見かけた。

片道2車線の幹線道路の植え込みの向こう。

思わず駆け寄り、状態を確認する。

うん、まだ息はある。車かバイクに撥ねられたのかもしれない。

胸腹部に重度の外傷、左大腿部あたりに皮膚の挫滅とおそらく複雑骨折。呼吸促迫に低体温。高度削痩で首輪無し。済票や鑑札も無し。



「迷い犬かな。ひとまず出来るだけのことをしてみるか」



肩と腰の下に両手を入れて抱きかかえる。

と、その時。後ろから強烈なライトを浴びた。

さらに続いて響くクラクション。

ドンっと体全体に響く衝撃と宙にポーンと投げ出されるような感覚。



 暗転しながら傾く視界の中、最後に目にしたのは……



 悲しみに彩られた2つのつぶらな瞳だった。







◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇









 失敗したなぁ……まさか俺まで撥ねられるとは思わなかった。


 こりゃあのコも一緒には巻き込まれちゃっただろうな。

ちくしょう、可哀想なことをしてしまった。


 怒りと後悔の入り混じった何ともやり切れない気持ちを押し込め、再度辺りの様子を伺う。


どう見ても病院じゃないもんな……


 見渡す限り広がるのは落葉樹の古木たち。

 豊かな木々の香りと野鳥のさえずりを風が運んでいる。

 地面は鮮やかな緑の苔と下草で覆われ、無数の生命の息吹を感じ取ることが出来る。


 それらの片隅にある俺たちの寝床は、落ち葉のクッション包まれていた。

 耳を澄ますと周りからは複数の寝息が聞こえる。


 意識を向けてみると、俺の他にも2頭のモフモフの何かがいることが分かった。

 毛の色は皆それぞれ違う。

 俺の毛色は薄いブラウン。

 後の2頭はそれぞれ黒毛と白毛だ。

 手前にいる黒毛は俺よりひと回り大きく、毛足も短くスッキリとした印象を与える。

 対称的に奥にいる白毛は俺以上のフワフワのモフモフで何とも愛らしい。



 (あのモフモフ良いなぁ……スリスリしたい)


 他に何も出来ることがないのでそのまま銀色のモフモフを見続けていると、視界全体が少し暗くなりぼんやりと文字が浮かんできた。



【名前】

【種族】銀狼(幼生)


(……!? なんじゃこりゃ)



 前世では起こり得なかった現象に思わず平静を失う。

 視野に重なって現れたのは日本語の文字列。

 まるで一人称の洋ゲーRPGみたいな表示と言えば、多少は伝わるだろうか。

 情報量は少なく、名前と種族だけ。

 名前の欄は空白で、種族には銀狼とある。


(凝視すると対象の情報が視界に表示されるのか?)


 それにしても銀狼ね――

 てっきりイヌだと思い込んでたけど、オオカミだったようだ。

 オオカミなんて動物園でしか見たことないからね。

 思わずちょいとテンションが上がる。

 (となると……)

 続けて黒毛にも視線を向けてみた。


【名前】

【種族】黒狼(幼生)



 うん?

 種族名が違ってるな。

 でもやはりオオカミのようだ。

 状況からしてこの2匹と俺は同腹だと思ってたんだが……別種族が混在して産まれるなんて面白いこともあるもんだ。


 じゃあ毛色がライトブラウンの俺はさしずめ茶狼ってとこかな?

やだな、なんかダサい。

 どうせなら地狼なんてどうだろう。響きがいささかアレだけど茶狼よりゃマシだ。

 まるで食玩を開ける時のような期待に胸を膨らませ、自分の前肢を注視してみる。


 その結果は――



 【名前】リヒト

 【種族】雑種(幼生)


 (Oh……マジか……)


 どうやら俺には血統書が出ないらしい。




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