天翔エイチャー、孤独のラグナ。
ううっ、もう走れない…………。
サエキアカネ、体力あり過ぎ…………。
「…………どうやら、少々まずい状況になってきたな…………」
「Mr.サンクスマン、もう来ていたんですか…………」
「ああ。君を探していたら、空を炎が飛んでいくのを見つけてね。鹿追君、あれを見たまえ」
「…………あれは!?」
僕が目の当たりにしたのは、戦場跡のような凄惨な光景だった。
数えられないほどの人らしき物体が燃え上がり、爆発の発生源と思われる場所には一際大きな炎の塊が“立っていた”。
「うわっ、何よコレ…………」
一足先に到着していたサエキアカネが思わず本音を漏らした。
「ううっ、一体何が…………?これ、どういうこと…………?」
「あなた一般人?だったら、さっさと逃げるのがオススメよ」
サエキアカネが、現場で倒れていた少女に向かって忠告した。
しかし、少女は聞く耳を持たなかった。
「ううん。確かに一般人だけど、関係者ではあるから、ここで逃げるわけにはいかない」
「関係者?」
疑問を口にするサエキアカネだったが、少女の腰に巻かれている園芸用プランターのようなバックルが備わったベルトを目にすると、何かを察したかのように苦笑いした。
「まあ深くは聞かないでおくわ。それより、アレをどうにかするのが先みたいね」
二人が見つめる先では、既に異変が起き始めていた。
「コイツノチカラ、ツカウ!」
「余は、余はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」
炎の中から二つの声が聞こえてきたかと思うと、それはどんどん肥大化していった。
「「アァァァァァァァッッッッッ!!」」
やがて、それは50メートルをゆうに超え、レジスターと杉の木をごちゃ混ぜにした、という形容しかできない巨大な怪物と化した。
「いくわよ」
「ヤクソーン、取らないでよね」
「何のことか知らないけど、薬草なんか取りゃしないわよ」
二人は巨大魔人を見上げたあと、変身シークエンスらしき動作を始めた。
“レッツ・フィニッシュ・ユア・ライフ!”
“チェィンジ・エナジー!”
“ショウサンッ!ゼッサンッ!ジダイノマクアケ・ワレハココニアリ!”
“愛の、神託!ダンダンダン・ダダン・ダン!ダン・デ・ライオォォォォォン‼︎ダンダンダン・ダダン・ダン!ダン・デ・ライオォォォォォン‼︎”
「変…………身っ!」
「変身!」
“プリンスアイデンティティー!カーテン・オープン!”
“タンポポ・ラァァァンド!”
“皆ノ為ニ!私ノ為ニ!白馬ニ跨リ駆ケテ行ク!”
騒音ともとれる二重の変身音が鳴り止み、二人の戦士が並び立った。
「「アァァァァァァァッッッッッ!!」」
二人の戦士は融合怪物に殴りかかるが、巨体はびくともしなかった。
「かたっ!…………しょうがないわね、今宵はスペシャルクライマックスよ!」
「え、何するつもり?」
少女が振り返るのとほぼ同じタイミングで、サエキアカネはベルトのレバーを2回引いた。
“オージウインク!”
「なあに、ちょっと主役チート使うだけよ」
サエキアカネがひとつウインクした途端、二人はふわっと浮かび上がり、あっという間に怪物の眼前まで到達した。
「これあんまり長くもたないから、さっさと決めるわよ!」
「よし!」
“リボース・マキシマム!プリィィィンス!”
“デッドリー・エナジー!”
“グローアップ!タ・ン・ポ・ポ!”
二人は必殺技発動シークエンスを行い、顔面へ同時に飛び蹴りを打ち込んだ。
「「アァァァァァァァッッッッッ!!」」
怪物は、悲鳴を上げて木っ端微塵となった。
「やったわね…………あら?」
「ヤクソーン、ヤクソーンってどれ!?」
◇
怪人たちの死骸の山からやっとのことでヤクソーンを見つけ出し、閻魔の手によってチヅルは順調に回復している。
一緒に戦ったあのお姉さんにはお礼も言えないまま、彼女はどこかへと去っていってしまった。
いつか、また会えた時に改めて言おう。
たぶん悪い人ではないと思うから、もしパラレルワールドに私みたいな人がいたら、あのお姉さんに協力してあげてほしい。
クリートシードリングは閻魔に返した。もう、私には必要なくなったから。
それよりも、今はチヅルの体温が、とても愛おしい。
◆
薄暗く、広さも判別できないほど壁が黒く塗られた空間。そこでは、デスクの上の照明だけが、二つの人影をほのかに浮かび上がらせていた。
そのうち一人は中年男性のようだ。威厳を感じさせる低い声が、空間の中でその存在を示していた。
「そういうわけで、今回は少々想定外の事態が頻発したよ。ま、結果論だが、ほとんどは解決したよ」
その言葉に、少女らしき人物がタブレット端末から顔を上げて答える。
「どうやらそうみたいだな。しかし、サエキアカネは凄いな。今報告書と動画を見たが、まるで生きている人間のような動きだ。とても死体とは思えない」
「そうだね。やはりあの装置にはとてつもないテクノロジーがあるようだ。是非ともこの技術は我々の組織に組み入れたいね。そうすれば、いずれは君の後継者も…………」
「悪いが、俺の跡継ぎはもう目処を付けているんだ。お前も、俺がずっとリーダーを続けるのは嫌だろう?」
「そんなことはないさ。君はこの組織を牽引するにふさわしい人間だ。私も、君のような百合っ娘の下で働けることを誇りに思っているよ」
「…………お前には感謝の気持ちしか出ないな。いずれ、借りは返そう」
「ノープロブレム。私は百合が見られれば、それだけで満足だよ。ところで、鹿追君の処遇はどうしようか?」
「そうだな…………。今回の任務は彼女には刺激が強すぎたみたいだ。他の部署に入れられないか、部長達と協議しておこう。彼女は少し休ませた方が良い…………っと、すまない。メールだ」
すると、中年男性は何かに気がついたらしく、静かに笑いだした。
「…………フフ。もしかして、メールの相手は事務部長だね?」
「…………正解だ」
「いいのかね?三股を掛けるなんて」
「さっきのお前の弁をそのまま返そう。ノープロブレムだ。それに、お前はこういう状況が大好物なはずだ」
「…………やれやれ、君には参ったよ。早く彼女の所へ行ってあげたまえ」
「そうだな…………急がないと、あいつの責めがきつくなる」
「巨大組織の長は忙しいね。…………そうだ。君のような、変身する百合っ娘諸君をこれから『グロリアス・リリー』と呼ぶことにしようか。燦然たる、栄誉ある百合の花、という意味だ。良いだろう?」
「…………反対はしない。勝手にそう呼べ」
そうぶっきらぼうに言い残して、少女はその場を去っていった。
あとがき
✳︎イメージボイス一覧✳︎
・ミコト/エイチャー|上坂すみれ
・閻魔|日笠陽子
・サエキアカネ|伊藤静
・鹿追凌子|白石涼子
・Mr.サンクスマン|中田譲治
・大三日月流勿|大坪由佳
・監察部長|高山みなみ
・一人称が「俺」の少女|種田梨沙
・蜜弓青葉/密為碧葉|日高里菜
・那緒ミノタウロス変貌態|諏訪部順一
・レジスターキャラスター|玄田哲章
・スギノキスピリンテント|日野聡
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どうも、壊れ始めたラジオです。
今回、仮面ライダーの劇場版が公開されたことを記念して、と銘打ってありましたが、最終回が少し遅れてしまい、すみませんでした。
また仮面ライダーの映画が公開された時に続編でも出せたらなと思います。
上のイメージボイス一覧について。
私が執筆中に頭の中でアテレコしてもらった方々です。今後の展開次第では何人か変わるかもしれません。なるべく声優さんやファンの方々に失礼のないように考えていきたいと思います。
とにもかくにも、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
また別の作品でみなさんにお会いできるのを楽しみにしております。
それでは。