追跡ゲーマー
ハアハア…………。
や、やっと追いついた…………。
「ようやく見つけたわよ。レジ野郎」
サエキアカネは、さっきの怪人に対して全く怯むことなく向き合っている。
僕は、事の顛末を建物の影から見ていることにした。
「オマエ、ダレダ。ナゼオレヲオウ」
地面に降り立ったレジスター怪人は問う。
「決まってんでしょ。アンタを倒すためよ!」
そう言うと、サエキアカネはジャージのポケットから昼間の携帯ゲーム機を取り出した。
ゲーム機?
一体何を…………?
すると、もう片方のポケットから薄水色に輝く乾電池のようなものを取り出し、ゲーム機中央部にある透明な筒の中に挿した。
“レッツ・フィニッシュ・ユア・ライフ!”
ゲーム機からガイダンスボイスが鳴ると、次はファスナーを下ろした。ジャージの中には銀色のバックルをもつ、その接続部が赤、黄、白の三色になっている黒いベルトが巻かれていた。
彼女がバックルにゲーム機を合体させると、変身待機音声が鳴り響いた。
“ショウサンッ!ゼッサンッ!ジダイノマクアケ・ワレハココニアリ!”
「さあ、ゲームの始まりよ」
そう言って、ゲーム機の左手側の持ち手を根元を軸にして外向きに動かした。
“プリンスアイデンティティー!カーテン・オープン!”
“皆ノ為ニ!私ノ為ニ!白馬ニ跨リ駆ケテ行ク!”
彼女の頭上にカーテンレールが円を描くように出現。そこからクリーム色のカーテンが下りて勢いよく回転した。
直に遠心力によってカーテンが浮き上がり、やがて消滅した。
変身を完了した彼女は、背中に剣を携え、童話に登場する王子様のような格好をしていた。
頭部には白い仮面を被っていた。
「いつでも来なさい」
「ウオオオオッ!」
彼女の挑発に乗り、レジスター怪人が向かってきた。
“オージサーベル!”
「ハッ!」
「グッ!」
彼女は再びゲーム機の左手側の持ち手を根元を軸にして外向きに動かし、剣を背中の鞘から抜いて斬りつけた。怪人は体から火花を散らし、苦しみの声をあげた。
「さあ、クライマックスよ」
「オレハタオセナイ。ナゼナラオレハ、ツヨイ!」
「そのままほざいて死に逝きなさい」
“リボース・マキシマム!プリィィィンス!”
右手側の上端に備わっているボタンを押してレバー操作を行うと、バックルのゲーム機から最大出力発揮を知らせる電子音声が鳴り響いた。
長剣「オージサーベル」でXの字を描くように斬ると、さっきまで軽口を叩いていた怪物は悲痛な叫びをあげて爆発した。
爆炎が小さくなったのを確認すると、彼女は変身を解除した。
「ただの雑魚だったわね。…………ん?」
「オレハツヨイ。ダカラマケナイ、タオセナイ!」
わずかな残炎から怪人の声が聞こえたかと思うと、その炎はどこかへと飛んで行ってしまった。
「ったく。しつこい男は女に嫌われるわよ!」
彼女はその炎を追って駆けて行った。
…………ま、また移動?