検定編2
時間は2回戦の時間になった。凛たちも次は試合なので現場で試合を見るとのことだった。
祐は2回戦第五学校との試合だ。
会場入りして、控室に入る。そこには誰もいないはずなのに、人の気配がした。
「誰だ。」
祐が殺気を放つ。
すると「ふふっ」と笑い声と共に女性が出てきた。
「そんなに殺気を出さないでくださいな。私は敵ではありませんよ。」
「生徒会長マリー・クーデリアさんでしたね。」
クーデリアは笑い「ええ。」と答えた。
「どうしてあなたがここに?あなたも試合なのでは?」
「そうですが、少しあなたにご忠告を差し上げようと思いまして。」
「忠告?」
祐は訝しげな目を向けた。
「はい。今回祐くんが戦う相手は第五学校です。」
祐は無言だった。
「1回戦の第三学校の生徒さんと同じだとは思わないほうがいいですわ。」
「どういうことです?」
「戦えばわかります。」
クーデリアは笑っていた。そして祐に近づき、祐の目をしっかりと見た。
祐は少し後ずさりし、
「な、なんでしょう…」
「これを。」
クーデリアは右手に光剣を持っていた。それは前見た彼女のものではない。漆黒と言っていいほどの黒色だ。
「それは…?」
「あなたのお母さまからです。」
祐は驚いて固まった。
「な、なぜあなたが母のことを?」
クーデリアは真剣な顔で
「それはまだ知らないほうがいいことです。」
そういうとクーデリアは控室を後にした。
クーデリアが部屋を出て祐はすぐに後を追ったが、扉を開けた先にクーデリアの姿はなかった。
祐は待機時間いっぱいをクーデリアの言葉を考えるのに当てた。
そして試合の時間となった。
ステージに上がってまず祐は驚きを隠せなかった。
観客の数が違いすぎるのだ。1回戦の時、祐の試合を見に来たのは10や20もいなかったはずだ。だが今は100人規模しかもマスコミ関係までがいる。
これは祐が開始5分という超短期決戦で試合を終えることが出来たという事実がマスコミや研究者たちの興味をそそったのだった。ほかにも「超強い男の子がいるらしいよ!」などの女子の話のタネにもなっていたのだが。
祐はこの雰囲気にのまれていた。しかしそれも第五学校の生徒が出てくるまでだった。
「明らかに違う。」
これが祐の感想だ。第四学校の生徒が放っていたのは試合に勝ちたいという願望。
しかし、今目の前の第五学校の生徒が放っているのは狂気。敵を倒そうとする、いや、倒さなければならないという意思の表れだった。
「こういうことか…」
祐は顔を引き攣らせた。
祐が右手にデバイスを構える。相手は右手首に左手を添える。
相手の第1回戦での戦闘パターンは頭に入れてある。原子より電子を取り出しそれを雷撃として放つ魔道を基本として、気流操作による突風で戦っていた。
祐のことを研究しているならおそらく初撃は雷撃だ。風では祐の加速には対抗できないからだ。
観客が静まった。
会場に静寂が生まれる。
試合開始のベルが鳴った。
祐はその瞬間、自己加速をかけ相手に向かう。
相手が放ってきたのは予想通り雷撃だ。
いや、だったというべきだ。確かに放ったのは雷撃だった。しかし対象は祐ではなかった。
本人だった。相手は自分自身に雷撃を浴びせたのだ。
会場にどよめきが生まれる。
祐も驚きで一瞬の隙が出来る。
その瞬間、相手が高速で近づいてきた。
祐は咄嗟に回避行動をとったが、加速魔道で近づいていたため十分な距離が無かった。
相手の放つ右ストレートが祐の右わき腹を捕らえる。
そのとき祐の体を電流が走った。
祐は跳躍の魔道、(加速、重力の減少の複合魔道。)を発動し、距離を取った。
複合魔道とは、その名の通り2種類上の魔道をマクロ段階から合わせ、発動するものだ。魔力使用は二つを個別に発動するのと変わらないが、デバイスに組み込むのが高度なだけでなく、それを処理できるウィザードもまた少ない、高等魔道だ。普通のウィザードなら加速の魔道を斜め上方にかけるだけになる、その場合加速がゆったりとする。逆に跳躍は重力を減少させているのでいきなりトップスピードで跳ぶことが出来る。
祐はこれをあの特訓の際に教師が使っているのをみて自分が使えるようにチューニングした。だがこれはまだ使う予定ではなかった。次の3回戦でのワンコーラム戦で使用する予定だったが出し惜しみをしていられる相手ではなかった。
なんとか相手、(いやもうすでに敵と言った方がいい)から距離を取った祐は自分の服を見て驚愕した。
今回検定を行うにあたって、肉体に損傷が残ることが無いようにと耐斬撃、耐熱、耐衝撃の付いた防護服が支給されている。無論、ダメージが蓄積しないと決着がつかなくなるので頭上のボードと選手に支給された防護服のヘルメットにバイザーがあり、そこにHPとでもいうべき値が学校での体力測定をもとに表示されている。しかし、その防護服が破れていたのだ。HP自体はそこまで減っていない、297/300と表示されている。相手は200/200となっているので祐のHPが多いことがわかる。
祐は汗をかいていることを実感した。熱いなどからくる汗ではない。強敵や恐怖と対面したときに来る冷や汗だ。
「…お前、何者だ?」
祐は第五学校の生徒に向かって言った。
しかし、返事が返ってくることはなかった。
その代わりに今度は祐目がけて雷撃が飛んできた。
祐はそれを回避する。しかし、この障害物のない場所では横に回避しただけではまた狙われる。祐は回避直後に相手に攻撃を仕掛けた。
その攻撃はかすりはしたが大きなダメージにはならなかった。
そのまま距離を取る。
このままでは祐が不利だ。祐はもともと魔力量が少ない。それにもかかわらず先ほどから魔道を連発している。まだ大丈夫だが、もってあと15分というところだろう。
祐は防護服のポケットに手を当てて考えていた。
「これを使うしかないのか…」
そこにはクーデリアから渡された光剣が入っている。そしてあのあと光剣の裏を見ると母親からの手紙が貼ってあった。
「それはあなたがどうしても勝ちたいときに使いなさい。ただしそれを使えばあなたは普通の生徒ではいられなくなるでしょう。その覚悟があるなら使いなさい。」
こう書かれていた。
祐には普通の生徒でいられなくなるというのがわからないが、ここで負ける訳にはいかなかった。この敵はおそらく命を狙ってきている。そしてこいつに負ければ死にはしなくとも重症を負う。そうなれば凛やアリシアが悲しむはずだ。凛に至っては何をしでかすかわからない。
光剣は使う人間によって強さが変わるのでデバイスのチェックは必要ないとされている。
つまりこの光剣は今使うことが出来る。
祐は悩んだ。そしてそれが隙になっていた。
敵が加速魔道で接近していた、その腕に雷撃を纏って。
祐はなんとかいなしたが、かなりのダメージを受けた。HPは残り100ほどだ。
「ええい、迷ってなんていられない。勝つんだ俺は。」
そう言って祐は右手の警棒を右腰に付けた。そして左のポケットから光剣を取り出し右手に持った。
なぜかしっくりくる感触だ。俺は以前にもこいつを持ったことがあるのだろうか。
読んでいただきありがとうございました。
今回は2回戦です。しかし、2回戦は祐の力の開放において重要なため少し長くなります。なので一度ここで切らせていただきました。申し訳ないです。
コメントや評価よろしくお願いします。