天界来訪編13
祐は自分の部屋がある1階の奥へと向かった。
そうして祐が部屋に帰るとそこに愛花の姿はなかった。おそらく同級生の部屋にでもいるのだろう。
そこで祐は手に入れたソウルをもう一度見てみることにした。
手に取るとそれは剣としては十分な重さを持っていてそのまま武器としても使えることがよくわかるものだった。
「ふふ、あまり見つめられると照れますよ。」
剣から声が聞こえた。
「そうか?それはすまない。」
少し間が空いて、
「…驚かないんですね。」
「まぁ慣れてると言えば慣れてるからな。」
「そうですか。では周りに人もいないようですし、私についての話をしましょうか。」
「あぁ頼む。」
「私の名前は先ほど申した通り、ラグエルです。あなた方の中では七大天使と言われているものの一人になります。」
祐は七大天使という言葉に聞き覚えはなかったが、それは後で愛花に聞けばいいということでスルーした。
「見ての通り今はこの剣に宿っています。まぁ実体化はできますが。」
「実体化できるのか。それはラグエルの力を使うのか?」
「いえ、ほとんど使いません。ただ、現実に天使が現れたらいろいろと面倒になりそうなので隠れています。」
「そうか。今は周りに誰もいないし実体化できないか?話している本人が見え名と言うのは色々理解しにくい。」
「そうですね。話をしているのにいないのは失礼でした。それでは。」
祐の目の前が白く輝いた。そしてその光は徐々に形作られていき、祐があのとき見た天使の形になっていった。
「お待たせしました。」
「あぁ、ありがとう。」
ラグエルはスッと祐の横に移動した。
「それでは話を再開します。」
「あぁ。」
「その前に一つ質問をしてもいいでしょうか?」
「あぁ、別にかまわないが。」
「私と初めて会ったとき、あなたは『また別世界か』と言いましたよね?」
「…言ったな。」
祐は思い出しながらのため答えに時間がかかった。
「それは私のような天使に会ったことがあったということですか?」
「いや違う。俺があったのは俺の中に居たルシファーという男だ。」
「ル、ルシファーですか…」
ラグエルの顔が曇った。
「どうかしたのか?」
「その顔…どこかで見たことがあると思ったら彼だったのですね…」
「どういうことだ?」
祐が不思議そうにラグエルを見た。
「あぁ、すいません。そのルシファーという方に覚えがあったのでそれを思い出していました。」
「ルシファーに覚え?あいつは俺の魔力が意志を持ったと言っていたが。」
ラグエルは驚いた顔をした。
そしてその顔だけで祐にはルシファーがいっていたことが違うと理解できた。
「ルシファーはいったい何なんだ?」
「…彼は、彼の本当の名前はサタン。悪魔王サタンです。」
「悪魔王…」
祐は驚きと共にその実感が湧いていた。
それは祐をこの世界に飛ばした時のことからだった。
(やはりあんなことが出来るのは悪魔王というのだったからなのか)
「ですが、彼にその意識はないでしょう。あなたと一緒に居たルシファーとはサタンと同一にして別なるものです。」
「同一にして別…?」
「サタンの本体はあなたの居た世界、こちらで言う魔界の奥底に幽閉されています。」
祐にはそんなことを聞いたことすらなかった。サタンの名前すら聞いたことが無かった。。そのため不思議そうな顔をしていた。
「そのような顔をするのも無理ありません。
このことを知っているのは私たち7人と魔界と天界にそれぞれ1人の観察者を含めた9人だけですから。」
驚いた。観察者なる人物がいることもそうだが、自分に幽閉されたものに近いものがあるということにも驚いた。
「それで、同一して別とはどういうことなんだ?」
「これはあなたの今後に大きな影響を与えます。それでも聞きますか。」
ラグエルが祐の目を見据えた。いや、目と言うよりも祐の心を見ているようだった。
祐はラグエルの目を見返した。祐も相手の目の奥、相手の心を見ているようだった。
「それでもいい。聞かせてくれ。」
「…わかりました。」
ラグエルは一度目を瞑ってから祐を見て話し始めた。
「まず端的に結論を言います。あなたのあの膨大な魔力はあなたのものではありません。もちろんそれを除いたとしてもあなたの魔力は多いです。ですがそれでも多いというだけでほかの人たちとそこまでの差はありません。」
祐は黙って聞いていた。
「そしてその膨大な魔力はサタンの因子と言えばいいでしょうか。そういったものです。」
「因子…そんなものが俺に埋まっていたってことなのか。」
「はい。あなたの身体は生まれつき魔力の圧に耐えられるものでした。そう言った人間は稀に生まれます。そしてその人間には共通点が存在します。」
「共通点?」
「はい。少しあなたの記憶を見せていただいてもいいでしょうか。」
「あぁ、構わないが。」
ラグエルは祐の額にそっと手を当てた。
そして手を当てること数秒。
「ありがとうございます。」
「いや、どうといったことはないが、どうして記憶を?」
「今の時代と私が知る名前は違っているものもあるかと思いまして。」
「なるほど。そのためわざわざ合わせてくれるのか。ありがとう。」
祐は素直に感謝を示した。
「いえいえ、それでは続きです。あなたの記憶からたどったところ…古代剣ですかね。おそらくそれを使える者たちが膨大な魔力の圧に耐えられる人たちのようです。」
「古代剣…?」
祐は自分の記憶を必死に探した。
そして探すこと数十秒。
「斉木の言っていたあれか…」
「ですが、Thunderという名前は聞いたことがありません。もしかするとその一部なのかもしれませんね。」
「なるほど、それで俺が魔力の圧に耐えられたからどうなったんだ?」
「はい。あなたが生まれたとき、それはちょうどサタンの力が強くなった時期に重なっていました。そのためサタンは自分の魔力を外に飛ばすことが出来たのでしょう。
ですが、幽閉され封印された状態ではそれも完全ではなかったため記憶が無い魔力だけがあなたに宿ったのだと思います。」
祐は少しの間黙っていた。それは理解する時間だけだ無く、自分のなかで整合性を合わせてもいた。
「…つまりルシファーは記憶を失ったのではなく元々ないから同一だけど違うということなのか。」
「はい。そう言うことになります。ですが、このことをあなたが知ってしまい、あなたのルシファーがもう一度一つになった時、そのことがルシファーに伝わることになります。」
「そうなればあいつが敵になることが考えられると…」
「そう言うことになります。」
「…わかった。話してくれてありがとう。」
祐は感謝を示した時には冷静な顔に戻っていた。
読んでいただきありがとうございます!
大変おそくなりましたが13回目です。