天界来訪編7
そして授業終了後、祐は約束通り、玄関エントランスで愛花を合流した。
「兄さん!お待たせしました。」
「いいや、俺も今来たところだよ。」
そうして2人で学校を出ようとしたそのとき、
「西城、ちょっといいか。」
後ろから声を掛けてくる女子生徒がいた。
祐が後ろを振り向くとそこに居たのはアイリスだった。
「アイリスか。何の用だ?」
「姉…理事長が呼んでいる。理事長室まで来い。」
「兄さん…」
愛花が少し心配そうに祐を見る。祐は異色の転入生だ。いろいろ心配することがあるのだろう。
「兄さん?」
アイリスが不思議そうに2人を見る。
「こいつはここの1年の藤谷愛花。俺の従妹だ。」
「そうか、それはちょうどいい。藤谷、君も一緒に来てくれ。」
「わ、わかりました。」
愛花は驚きながらも祐と一緒にアイリスに連れられて理事長室に向かった。
アイリスが理事長室のドアをノックする。
「どうぞ。」
アイリスは慣れた作法でドアをくぐり、一礼した。
祐もそれなりの作法で一礼した。一方愛花は歩いているうちに驚愕も薄れたのか慣れた作法だ。
「何度も呼び出してごめんなさいね。」
まず理事長が祐たちに言う。
「ところで…横の1年生かしら、は誰かしら?」
「この男の従妹だそうです。名前は藤谷愛花です。」
理事長の疑問にアイリスがすぐに答えた。
「従妹…それは良かったわ。知り合いがいるなら話が早い。」
「西城君、あなた住むところはないわよね?」
「そうですね。」
「来客用をいつまでも貸すわけにはいかなかったのだけど、従妹ちゃんがいるなら話が早いわ。あなたたちに寮の一部屋を与えるから一緒に暮らしなさいな。」
「わ、私と兄さんがですか!?」
愛花が驚いた様子で一歩前に出て言った。
「そうよ。従兄妹なら問題もないでしょ?部屋も大きめだからお互いのスペースも確保できるし。」
「は、はぁ…」
祐にも今の愛花が言いたいことはよくわかった。祐は男、愛花は女だ。いくら従兄妹だからと言っても同じ部屋に住むのは良いことではない。
「というよりそれしか部屋が無いわけだけど。どうする?」
祐と愛花は絶句するしかなかった。このどうする?は祐が野宿して暮らすか一緒に暮らすかという果てしなく酷い二択だった。
祐と愛花は一度お互いを見て軽くうなずき合うと
「わかりました、そうさせていただきます。」
祐がそう答えて3人は理事長室をあとにした。
「それじゃあ、藤谷さん。寮はわかるわよね?」
「はい、わかります。」
「私は鍵を持っていくから、2人は先に行っていて。」
「わかりました。」
祐と愛花は先に寮へ向かった。
そしてその道中、
「ごめんな、愛花。」
「何がですか?」
愛花は不思議そうに祐の顔を覗き込んだ。
「いくら従兄妹とはいえ男と同室なんて嫌だろ?」
愛花は驚いたような顔で
「何を言ってるんですか。兄さんなら何の問題もないですよ。」
笑ってそう言った。
「そうか?それならいいんだけど。」
「さ、それよりも着きましたよ。」
愛花は祐の一歩前に出て振り返ってそう言った。
祐は寮の全貌をみて絶句した。
規模が想像をはるかに超えていたからだ。その規模は縦には3階建てほどしかないだろうが、横が明らかに大きい、1キロメートルはあるだろう。
「…これが寮なのか。」
「はい。かなり大きいですが、その分住んでいる人も多いですから。」
祐が今だ呆気に取られていると、
「何を呆気に取られている。今日からお前が住むところだぞ。」
後ろからアイリスが声を掛けてきた。
「さぁ、お前たちの部屋に行くぞ。ついてこい。」
祐は置いて行かれそうになってやっと意識を取り戻してついていった。
アイリスに連れられて寮内を歩いていると愛花の言ったようにかなり多くの人を見た。初めは男女同じ比率くらいだったが、次第にその比率というよりすべてが女子になっていた。
そこで祐は気が付いた。
「…もしかして俺が行くとこって…女子寮なのか?」
祐が恐る恐るアイリスに聞くと、
「ん?そうだが、残念ながら男子側は空いていない。この学校は御曹司やお嬢様が多いからな、男は寮に居れても女は入れたくないのだろう。それに、こんな幼気な少女を男子の中に入れることなどできるわけがないからな。」
「…俺が女子寮にいるのは構わないと。」
「そういうわけではない。お前が何かしでかせばすぐ退学、ことによってはそれで済まないかもしれないからな。」
「…肝に銘じとくよ。」
「そうしておけ。」
祐は心でため息をついて下を向きながらアイリスについて行った。
「兄さん?なんでさっきから下を向いているんです?」
「いや…な。」
さっきから視線が痛いのだ。新しい入居者が来るとは聞いていたのだろうが、それが男子だとは思ってもみなかったのだろう。それに祐は悪目立ちしている。
「さぁ、ここだ。一番奥なのは我慢してくれ。」
祐が案内されたのは本当に奥の奥、全長1キロの一番端の部屋だった。周りの部屋に人は住んでいないようだ。
アイリスが部屋の鍵を開けて先に中に入る。
「一応ここが一番広い部屋だ。何かあれば私の部屋に来てくれ。」
アイリスは自分の部屋の書いた紙を机に置くと部屋を後にした。
アイリスがいなくなると祐はもう一度部屋を見渡した。
部屋は12畳はあるだろうか。両端にベッドがあり、その奥に机、そのさらに奥に窓があるだけなので間の空間がやけに広い。
愛花は左側のベッドに腰かけると、
「改めてよろしくお願いしますね、兄さん。」
「あ、あぁ。」
祐は慌てて言葉を返した。
読んでいただきありがとうございます。
これから寮で生活する祐ですが、まぁ平穏無事ということは…
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