天界来訪編4
「まず、ここで戦闘だけど基本的に“ソウル”っていう鎧みたいなのを使うの。」
「みたいってことは攻撃性能も持ってるって感じかな?」
「その通り、ソウルは基本的に左腰に実剣、左手に盾を持ってる。」
「剣に盾ね…さながらナイトって感じか。」
「そうね。最初は騎士たちが使ってたものだからね。」
「大きさは?」
「その人のサイズに合わせて作るから人のサイズのままね。」
祐はそこまで聞いて考え始めた。
(人間サイズのままなら今までと戦い方に大きな差はないな。あとはあの炎の能力をどうするかだな。)
祐は戦闘の構図を考えていたが、クリスティナの言葉がその思考を遮った。
「ただ、彼女のソウルは少し違うの。」
「違う?」
「うん、私が今まで言ったのはソルジャーソウルっていうものなんだけど、彼女の、アイリスのソウルはそれじゃない。ヴァルキリーソウルっていう全く別物なの。」
「ヴァルキリー…天使か。」
「そう、彼女のソウルは主装備からして違う。剣も実剣じゃなくてマナ…これは人に流れる力の事ね、これを使った光剣。マナを弾丸にすることもできる。」
「つまり、能力からして別格ってことか。」
「そういうこと。生身のあなたがその攻撃を受けたら致命傷だわ。」
「なるほどね…わかった、ありがとう。」
話しているうちに校庭らしき場所についていた。目の前にはすでにそのソウルを身に着けたアイリスが腕を組んでいる。そのソウルには羽がデザインされていて本当に天使のようだった。
(まさかここでも光剣を聞くなんてね。さてどう戦おうかな…)
「よく来たわね。」
「まぁ、呼ばれましたから。」
「ふーん、まだそんな口を利くの。この場で土下座でもしたら重症だけは免れる攻撃をしようと思ったけど、それもなしね。」
アイリスは腕組みをやめて右手を横に伸ばした。すると手の甲の上から白の光剣が伸びた。
「へぇ、それがここの光剣か。」
(俺の魔力も減っているみたいだし、ここは短期決戦を狙いに行きますか。)
祐は腰から警棒を取り出してそれを引き伸ばした。
「そんな弱そうな武器でいいのかしら。言ってくれたら剣くらい貸すわよ?」
アイリスだけでなく周りに居た女子たちも笑い始めた。
だが祐はそれに動じることなく、
「これでいいですよ。これのほうが慣れてますから。」
「そう、じゃあ行くわよ!」
アイリスが足を蹴って飛び出した。
右の光剣を振り払う。だがその速さは今までの相手よりも遅く祐には感じた。
祐はそれを屈んで躱す。そしてその隙に警棒のスイッチを押して振動の魔道を発動させ、それをソウルの腹に叩き込んだ。
「うっ!」
アイリスが苦しい声を上げた。
(どうやら予想より防御力もあるみたいだ)
祐の発動した振動の魔道は生身の少女に使えば骨が簡単に折れる威力だった。
だが目の前の少女は苦しんだだけだ。
アイリスは後方に飛んだ。
(なるほど、ソウルとやらは飛ぶこともできるのか)
周りが騒めく、どうやらアイリスの攻撃が躱されるとは思ってもみなかったようだ。
「この!」
もう一度アイリスが正面から突っ込んできた。
避けることもできたが、同じ手をしてもダメージにならないと思い祐はその剣を受け止めてその腕に攻撃することにした。
ガンッ!という大きな音が鳴る。振動の魔道を発動させて警棒を衝撃に耐えさせたが、それをしていなければ折れていたかもしれない。
2人はつばぜり合いになる。
「お前…さっきからどんな手品を使ってる。」
「大したものじゃないよ。」
祐は剣を弾き飛ばしてその腕に警棒をたたき込んだ。
「うぐっ!」
うめき声をあげてアイリスが後方に飛ばされた。
周りが騒めく、「アイリス様が負ける?」「あんなに自分が強いって言ってたのに?」
(ん?あいつは権力を持っているわけじゃないのか?)
そんなことを考える間にもアイリスは飛び掛かってきていた。
祐はそれを難なく警棒で受け止める。
「くそ…!私はこんなところで負けられないのよ!」
(こいつあのときの炎も使わないのか)
「お前…無理してないか?」
「へっ?」
アイリスの顔が急に変わった。今まではなにか無理をしているように見えたが今の顔には驚きしかない。
「自分が強くなくちゃいけないって無理をしているじゃないのか?」
「なっ!!」
アイリスの顔が赤くなる。
「どうやら図星のようだな。」
「…お前に何がわかる。有名一家に生まれて、強いことを決めつけられて、それにそぐわない結果を出すたびに蔑まれる私の気持ちがわかるか。」
アイリスの口調が怖いものになる。彼女にもかなり暗い過去、いや今がありそうだ。
「そうだな。お前のことは俺にもわからん。だが俺も今まで最下位だと決めつけられてきたからな。」
「そんな強さがあるのに!?」
一度祐は剣を弾いた。そしてもう一度つばぜり合いに持ち込む。
「俺はどうも試験というものに弱くてな。実戦で使えても試験では役に立たないものばかり使えるのさ。」
「ふうん。…それでもあなたと私は違う。」
「そうだな。」
今度はアイリスが剣を弾いて距離を取った。
そしてもう一度切りかかる。
祐は辺りを見回した。そこには懐疑的になる少女たちがいた。そしてその奥に祐を見ているクリスティナがいた。目が合ってしまった祐はクリスティナに笑顔を返した。
クリスティナはそれを見て苦笑を返してきた。どうやら祐が何をしようとしているかわかったらしい。
「はぁ!」
アイリスが切りかかる。祐はそれを後ろに下がって躱すふりをして受けた。
祐はさらに加速の魔道を発動し自分を跳ばす。そして途中で魔道を切って地面に落ちた。
少しの間静寂が生まれたが、すぐに歓声が辺りを包んだ。
祐はほとんどダメージを受けてはいなかったが立ち上がろうとはしなかった。
倒れたまま薄目で辺りを見回すとどこかでみたような少女を見つけた。
(あれは…まさかな、面影はあるけどあいつは10年前に消えたんだ)
「大丈夫?」
声のした方に顔を向けるとそこにはクリスティナがたいして心配もしていないような顔で笑っていた。
「わかってるんだろ?」
「まぁね。でもどうして?」
「あいつのように強くいなきゃいけないって強いられているやつが負けたときの末路を見たことがあるからな。」
「ふーん、あなたっていろんな人に優しいのね。」
祐にはクリスティナがあきれた表情をしているように見えたがその理由がわからなかった。
そしてそこに、
「あなたなかなかやるわね。」
勝ちを譲ってやったアイリスが祐のもとにやって来た。
スッと差し伸べられたクリスティナの手を握って祐は立ち上がり、
「それはどうも。」
「あなたのその力に免じて今回の件はなかったことにしてあげる。その代わり、この学園に入りなさい。」
「それはありがとう…ってこの学園にはいる!?」
「ええ、そうよ。」
祐だけでなく周りの生徒たちも騒がしくなった。
「この学校は今強い人間を求めてるからね。」
クリスティナが横から口元を綻ばせて続けた。
(さっきの顔はこういうことか…)
実際にはそれ以外の意味も含まれていたのだが祐にはそれがわかることはなかった。
読んでいただきありがとうございます!
またいつも読んでくださる方、更新が遅くなってしまい申し訳ありません…
今回はしばらくぶりの戦闘シーンです。あまり書くのは得意ではないのですがお楽しみいただければ嬉しいです、