学園祭編15
(私は何もできない…足手まといだ…)
凛は祐が目の前で戦っているのを見ているだけだった。
ヨハンの攻撃をうまくはじきその間隙に攻撃を加える。その攻撃は次第に強くなっていき祐が優勢であることを示していた。
(祐はあんなに強い…なのに私は…)
客観的に見て祐よりも凛の方がウィザード、魔道を使う者としては上だ。だが戦闘力の面で見れば祐は凛の数段上だ。さらに凛には実戦経験が乏しい。今の状況で自分に何ができるか、凛には全く分からなかった。
だが凛がずっと優勢だと思っていた戦況が急に変化した。
祐の動きが一瞬だが止まったのだ。2人は毎回いろいろな位置から攻撃を仕掛けていた。そのため一瞬の隙が出来るだけで次の相手の攻撃への対応がしにくくなる。その結果祐は大きく後ろに跳んで距離を取ってしまっている。
(祐が対応しきれないなんて…私じゃ何もできない…前のは本気じゃなかったんだ…)
凛はその祐の行動によって立ちすくんで動けなくなってしまった。
だが祐は違った、距離が開いたことでヨハンが次にする行動を考えて相手が行動する前に距離を詰めた。そして祐の考えた通り光線を放とうとしていたヨハンの槍を弾く。すると、
「凛!」
予想だにしない自分を呼ぶ声が聞こえて凛は理解が一瞬遅れた。
自分が呼ばれたと遅れて理解した凛は祐が何を言いたいのか考えた。だが祐の考えはわからず祐にそれを聞きたかったが、祐は未だヨハンと戦闘中だ。会話などできるわけがない。
(会話できない…?そっか!)
凛は祐が言いたかったことがヨハンに隙を作り自分に何かを伝えるためだと理解した。そして祐が望んでいたのもそれだった。
凛は自分のデバイスを取り出し先ほどまで立ちすくんでいたとは思えない手早さで魔道を発動させた。
凛が発動させたのはヨハンの周囲に氷の礫を降らせる魔道。急に辺りに氷の礫が降ってきたヨハンの気がそちらに一瞬行ってしまうのは当然のことだ。そして祐がその一瞬を見逃さずヨハンの槍に大振りで光剣を振った。ヨハンは槍を手放すことなく保ったが慣性によって数秒の隙が出来た。その隙に凛は大きな氷を祐とヨハンの間に落とし、その氷の温度を一気に上げ辺り一面に霧を発生させた。さらにその場所から数メートルの範囲に不純物を含んだ氷の壁を設置した。
祐はその霧に乗じて凛のそばまで駆け寄った。
「凛、ありがとう。」
「ううん、こちらこそ祐にばっか戦わせちゃってごめん…」
凛が目を下に下げてそう言うと祐は凛の頭に手を当てて
「でも凛は俺の意図に気づいてくれた。おかげでこの時間が取れたんだ。」
祐がそういい頭をなでると凛の顔に笑顔が戻り頬が赤く染まった。
「さて、これからなんだけど。」
祐が頭から手を放し凛を真剣な眼差しで見た。
「ヨハンの武器はどうやらブリューナクじゃないらしい。今の俺じゃあいつを倒すことはできない。」
凛は今祐の言ったことの両方に驚いた。検定後にヨハンの使った武器の特徴で調べたがブリューナクという名前しか見つけることが凛にはできなかった。だが祐はそれを今の戦いだけで見抜いたのだ。だがそれよりも自分よりも数段強いと思っていた祐があっさりと自分だけでは勝てないと認めたことに驚いていた。
「そこでなんだが凛、君にも手伝ってほしい。」
「私に?祐が勝てない相手に私なんかがすることなんて…」
凛が「なにもない。」と言おうとすると祐はそれを首を振り声をかぶせて遮った。
「いいや、凛には俺の持っていないものがある。」
「祐になくて私にあるもの?」
「うん、遠隔攻撃の技術と魔道だよ。俺は確かに前から見てかなり強くなったと思う。でもそれはこの光剣があるからだ。」
祐は光剣を見つめてそういった。
「でもこの光剣も俺の魔道の資質を上げてくれるわけじゃない。つまり俺は未だ遠隔攻撃系の魔道を使えないんだ。そしてヨハンを倒すにはそれが必ず必要になる。だから凛、君に手伝ってほしい。」
「わかった。私にできることは協力するよ。」
凛は力強くうなずいて承諾の意志を示した。
祐はそのあと作戦の内容を手短に伝えるとすぐにヨハンの元に戻っていった。
本当はもっと詳しく話すはずだったのだが思いのほかヨハンの行動が早く祐たちの話している後ろで氷が崩れる大きな音が聞こえたのだ。まだ霧は消えていないのですぐにこちらに来るというわけでもないが祐の作戦は位置取りが重要なので凛の位置がばれるわけにはいかなかった。
祐は大きな音のした方へ一気に加速し距離を詰めた。ヨハンはまだ祐たちの場所を掴めていないようで次の壁を破壊しようとしていた。
祐はその隙をついて横から攻撃をするべく光剣で横に薙ぎ払った。だがヨハンはそれに気づき、祐の攻撃を槍の柄で受け止めた。
「やるじゃないか。霧だけじゃなくここまでの氷の壁を創れるとは思ってもいなかったよ。」
ヨハンはまだ自分を保てているようだ。だがいつ壊れてしまうかわからないのはサリーたちから聞いて理解している。
「まぁな。今のお前は強い、俺も本気にならなきゃ勝てなさそうだからな!」
祐は最後の言葉と共に剣に込める力を強くしヨハンと距離を取った。その間にも霧はどんどん薄れ、祐とヨハンの距離ではないに等しかった。
(まだだ、凛の準備にはまだ時間がかかる。仕方ない。ルシファー。)
(呼んだか。)
祐は心の中でルシファーを呼んだ。
(力を貸してくれ。時間を稼ぐ必要がある。)
(いいだろう。だが先ほどといい今回といい貸しだからな。)
(わかっている。)
会話が終わりヨハンともう一度見ると祐の出方を伺っているようで隙なく槍を構えていた。
「なにっ!?」
ヨハンが驚愕の声を上げた。祐の姿が変化していくからだ。
祐は今まで制服を着ていた。だがそれは次第に上書きされていき、骸骨をモチーフにした黒い鎧へと変化していく足まですべてをそれが覆った。それはまさにルシファーの鎧そのものだった。
読んでいただきありがとうございます。
今回はヨハン対祐がメーンです。
投稿はできましたが体の調子が悪いのでここまでで…