検定出場編4
突如窓が轟音と共に砕け散った。
この学校では式典などをするように上段にも席が設けられており、そこから窓までの距離はほぼゼロと言っても過言ではない。
そしてその窓が割れたのだ、上段に居た生徒たちの動揺は計り知れないものだ。
そして窓を割ったのはおそらく睡眠ガスの入った手りゅう弾の改造品だろう。
しかし、全方向の窓から投げ入れられた手りゅう弾からのガスを吸い込む者はいなかった。
「ガスを吸い込まないようにね。」
校長が壇上から言った。校長はデバイスもなしに生徒約200人が入るほどの大きさの気流をコントロールしてガスを一点に凝縮しているのだった。
その技にほぼ全員が気を取られていた。いや、校長と祐以外と言った方がいいかもしれない。
そして下段部分のドアが勢いよく開けられた。
開く瞬間、祐すでに壇上から勢いよく飛び出していた。
壇上に居た者は祐が飛び出した瞬間驚いたが、その理由をすぐ知る羽目になった。
全身をプレートアーマーで包み、機関銃を持った兵テロリストが4人入り込んできたのだ。
祐は一直線にテロリストの元へ向かう。
まず、戦闘に居た兵士を右手の警棒ではなく左手の手刀確実に昏倒させる。
そして2人目に掛かろうとしたとき
「安全確実に始末していいからね。」
祐の耳にはこう聞こえた。もちろん校長の声で、だ。
しかし、この講堂の大きさから考えても校長の声が祐に届くとは考えにくい、何かの魔道なのだろうが、今はそんなこと関係ない。
手加減しなくていいなら全力で倒す。もちろん殺すこともいとわない。
祐は一般家庭で育ったとなってはいるがその実はかなりの軍事色の強い家庭だ。母親が重役を勤めている会社もデバイスだけでなく戦争兵器も扱う会社で、今はもういないが父親は軍の次期総帥とまで言われて居た人間だ。そんな家庭の子供が戦闘訓練を受けていても不思議はないのがこの時代だ。祐が今まで戦闘に勝てていたのはこの訓練のたまものだった。
いくら戦闘訓練を受けてるとはいえ、銃火器持ちの相手に剣で挑むのは死にに行くようなものだ。しかし祐はこの状況を悲観していなかった。自分が新たに身に着けた技を使えばこれくらいの敵は難なく倒せると思っていたからだ。
そして祐は新しい技を使った。振動を停止させる魔道。
これが祐の新しい技だった。祐はこれを相手にではなく銃に対して使った。
銃とはいえ弾を発射するには火薬を爆発させ熱エネルギーを運動エネルギーに変換している。そして祐の魔道はその爆発するという運動を完全ではないが抑制した。
しかし、抑制だけでもできれば相手の懐に入る隙はある。祐は魔道が効いているか確認せず一番近い敵の懐に入った。右手の警棒を容赦なく叩き付ける、そこには振動の魔道が付随していた。その振動は相手の心臓にかなりの負荷をかけショック状態に陥れた。
敵がその場に倒れたことを確認せず祐は次の目標に向かった。
敵も黙っていたわけではない。2人目を倒した時には敵の銃口はすべて祐を捕らえていた。しかし銃口が火を噴く前に祐によってあと2人のテロリストが倒された。
そのあと、講堂は少しの間静寂に包まれた。ほとんどの生徒の視線は祐に向いている。その視線は恐怖と畏怖だった、数名を除いて。その数名のうちの凛とアリシアは急いで祐のもとに駆け付けた。
「祐!」
「祐さま!」
少しの差で凛の方が着くのが早かった。
「大丈夫?どこかケガしてない?」
「うん、大丈夫だよ。」
2人はほっと胸をなで下ろす。その間にも祐はその場で尻もちをついていた風紀委員から手錠を取り、(この学校では違反者を風紀委員がとらえるので手錠などを持っている)テロリストを拘束していた。
拘束し終えると祐は壇上の校長の方を見た。
校長は一度笑みを浮かべるとマイクを手に取った。
「みんな大丈夫かな?どうやら講堂に侵入したテロリストは祐くんが全て倒してくれたみたいだ。」
周囲から「おお。」という声が聞こえる。生徒の顔はほっとしていた。この言葉が出るまでは。
「でも。テロリストがこれだけだとは思えない。これから僕は校舎に戻る。みんなは安全が確保できるまでこの講堂から出ないこと。いいね。」
一瞬にして場が凍り付いた。この学校に実戦経験があるものはほとんどいない。祐もなかったのだ、ただ本能のまま戦ったに過ぎない。
しかし、祐の心は決まっていた。壇上から降りてこちらに向かってくる校長を見る。
校長はまた笑みを浮かべる。
そのやり取りを見ていた凛は顔をハッとさせた。
「祐!まさか行く気なの!?」
「こういうときは人手がほしいからな。なぁに俺なら大丈夫だ。」
凛が祐の両手をつかむ。
「もしかして気にしてる?みんなだってわかってるよ。」
祐は首を左右に振った。
「気にしてないよ。俺はただ行きたいから行くんだ。もう俺の許容範囲を超えたからね。」
そういうと、祐はゆっくり凛の手をほどいた。
「…なら私も行きますわ!」
そう言ったのは今まで黙っていたアリシアだった。
「私なら遠距離から祐さまを援護できます!」
祐はまた首を左右に振った。
「アリシア、君はここの皆を守ってあげて。君と凛が居たら安心できると思うから。」
アリシアは「ですが…」と言いかけたがそれを押し殺して「わかりました。」と笑顔で祐に答えた。
最後に2人に笑顔を見せると祐は講堂から出ようとした。
すると後ろから肩を掴まれた。明らかに凛やアリシアではない。
後ろを向くと居たのは権堂だった。
「てめぇばっかにかっこつけさせるかよ。俺も行くぞ。」
祐はふっと笑い前を向いていった。
「勝手にしろ。お前を守る余裕はないからな。」
権堂もその言葉に笑い、
「はっ、お前に守られようなんて考えちゃいないよ。自分の身は自分で守る。」
その言葉を機に2人は加速の魔道で駆けていった。
魔道の使い方の関係で祐の方が校舎に着くのが早かった。
着いた途端に待っていたのは大量のテロリストからの銃撃だった。
祐は咄嗟に避けようとしたが、この距離では間に合わない。
しかし、祐に弾丸が当たることはなかった。
後ろから雄たけびをあげて権堂がやってきて魔道を発動させたのだ。
祐の目の前の地面が陥没する。
権堂が発動したのは加重の魔道だった。ある一定の範囲に決めた方向から圧力をかける魔道。それを約50立方メートルにかけたのだ。それだけもすごい技量だが、その空間には秒速340メートルの弾丸が数十発あったのだ、それを地面にたたきつけるだけの圧力を出せる人間は祐の知る限りいない。この男、権堂は自分が思っていたより強いようだ。この前自分が勝てたのはまぐれかもしれないと祐は思った。
「ありがとうと言っておこうかな。」
「お前を助けたわけじゃない。ただ目の前の敵を倒しただけだ。まだ敵は居るぞ。」
祐が素直に言ったのを見て少し照れながら権堂は足早に校舎に向かった。
校舎の中は酷い有様だった。
1階部分の窓はほぼすべて割れていた。壁には銃弾の後も見られる。祐は凛やアリシアを連れてこなくてよかったと心底思った。
「ひでぇ有様だな…」
「うん、そうだな…」
2人は周囲を見ながら敵を探していた。
すると、目の前に人影が見えた。それは敵ではなかった。
教師だった。幸い息はあるが結構な傷を負っていた。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ何とかな…君たちは…なぜここに?」
「校長が行ったのですがそれでも足りないと思いまして。」
「そうか…なら校舎よりも図書館へ行ってくれ…あそこには貴重な文献がたくさんある…」
「わかりました。」
最後に「頼んだ。」と言ってその教師は意識を失った。
「こいつ大丈夫か?」
権堂が尋ねたのに対して、祐は脈を測りながら答えた。
「死んではいない、ここで安静にしてるのがいいだろう。それよりも図書館に急ごう。」
「あぁ。」
2人はもと来た道を引き返し、図書館へ急いだ。
またしても図書館に着くのは祐のほうが早かった。
少し遅れて着いた権堂が尋ねた。
「お前どうしてそんなにマクロの実行が早いんだ?」
「ん?俺は処理能力を一瞬だけマクロの実行にすべて使うことが出来るからな。その分早いんだろう。」
現代のウィザードは魔力量の多さで判断されることが多い。デバイスによってマクロの発動は高速化され、発動の速さが問題にならなくなった今日ではそうなってしまうのだろう。祐はこの尺度から見るとかなり低ランクのウィザードだ。しかし、祐は稀に現れる能力を有していた。それは思考をすべてマクロ発動の処理に充てることが出来ることだ。この能力を持つ者はデバイスを使うよりも早くマクロを実行することが出来る。祐にはデバイスなしで魔道を発動することが出来ないなぜなら、祐の魔力量ではデバイスにあるマクロを使わなければ魔力量が圧倒的に足りない。デバイスなしで魔道を発動するとマクロが短くなりそれだけ、魔力を消費する。(ふつう文章などは短いほど楽になるが、魔道に関してはデバイスにマクロを入れる時に消費効率を上げる項目をマクロに書き込むことが出来るため少ない魔力消費が実現できる。消費効率を上げることもデバイスなしで試みられたことはあるが何せ読み出すもともとマクロよりも情報量が多く今のところ誰も成功していない。)
そのため権堂との差は少しになっている。こういう人間を“カリキュレーター”という。(計算機のように早いというところからきている)
「おまえカリキュレーターだったのか。」
「まぁな、おっと敵が来たぞ。」
やはり敵の狙いは図書館だったらしく、図書館の周りにはたくさんのテロリストがいる。
その一人が見回りだろうか、祐たちの方に来た。
「さて、こうなったら強行突破しかないな。」
もう逃げ道はなかった。うしろに後退したところで敵にみすみす時間を与えるだけだった。見た限りテロリストたちにはウィザードはいないので何とかなるという考えだ。
「そうだな。」
「権堂、周りのやつを加重で押さえてくれ。その隙にほかのやつは片づける。」
「お前に命令されるのは癪だがそれが無難か。」
祐が手でカウントを取った。
3、2、1
祐が飛び出した。
テロリストは慌てて銃を向けたが祐の方が早い。すぐに倒される。周りのテロリストも気づき銃を向けようとするが権堂の加重によって地面に叩き付けられて身動きが出来なくなりすぐに意識を無くす。祐は周りの敵には目もくれず一直線に目の前にいる敵は倒しながら図書館を目指す。たった10分たらずでそこらにいた数十名が倒された。
すぐに図書館に入った2人は異様な静けさに疑問を持った。
「静かすぎる…」
「あぁ、ここまでやるテロリスト共がさっきのやつらだけで守り切れるとは思わないだろう。」
2人は息を殺しながら先へ進む。テロリストの親玉はおそらく特別閲覧室にいるだろう。そこには魔道に関する持ち出し不可の機密文献が大量にある。もちろん外に出ると社会の基盤が変わるかもしれない代物も。
「最初のテロリストが講堂に来てからどれくらいたった?」
「ん、おそらく1時間くらいだ。」
祐の質問に権堂が答える、その瞬間祐の顔が引きつった。
「どうした?」
「テロリストの目的はおそらく機密文献。そして一時間もあれば…」
「暗号の解読もできる、か。それはまずいな。急ぐぞ。」
祐は権堂の言葉にうなずきで工程を示した。そして先に権堂が物陰から出たそのとき、
「権堂!伏せろ!」
権堂が何事かと後ろを向いた。祐は咄嗟に飛び掛かり、権堂ごと倒れる。
それと同時に2人の上を何かが通り過ぎた。その何かはコンピュータ一台に当たり、粉々にした。
ちなみにこの時代において紙の書籍はほぼなくなった。この図書館でもコンピュータ内にほとんどの文献、書籍がデータでどのコンピュータからでも見られるようになっている。一部は特別閲覧室のみだが。
閑話休題、権堂は目を見張っていた。今のが当たっていたらおそらく死んでいただろうから無理はない。
「今のは…ドライアイスか。」
「ドライアイスだと?二酸化炭素の個体物のあれか?」
「あぁ、この魔道はおそらく、この図書館内部の空気の二酸化炭素を偏らせドライアイスとし、それを放っているのだろうな。」
これは権堂も驚きを隠せなかった。図書館の広さは講堂ほどはなくともそれに匹敵するくらいはある。その二酸化炭素を偏らせているのだ、かなり高度なウィザードがいると確信できた。まぁこれは空気中の二酸化炭素だけなのに対して校長はそれより上の空気すべてを掌握していたのだが。
それでも祐の知る限り図書館ほどの大きさの空間の二酸化炭素を集めることのできる人間はいない。
ここで祐はあることに気が付いた。
「図書館の二酸化炭素をすべてコントロールしているのか…?」
考え込んだせいで反応が遅れた。権堂が飛び込み、何とか回避する。
「何戦闘中に考え込んでるんだよ!」
「あ、あぁすまない。でもわかったぞ、相手の魔道のからくりが。」
「本当か。」
「この魔道は図書館内部すべての二酸化炭素を支配していると思っていた。だが違っていた。そんな高度な魔道じゃなかったんだ。」
「どういうことだ?」
「もし一部でも二酸化炭素をドライアイスにするとその部分の二酸化炭素がなくなる。しかし、地球というものはそれを無理やりにでも補てんする。つまり、一部を支配するだけでそこでドライアイスを作るとそこに二酸化炭素が供給される、その二酸化炭素を使ってさらにドライアイスを大きくするのを繰り返しているんだ。だから攻撃のテンポが遅いんだ。
手の内がわかれば怖くない。敵はこちらを視認しなければ攻撃できないはずだ。見えてない場所に作ればどれだけ二酸化炭素が供給されているかわからなくなるからな。」
そういうと祐は今まで居た場所から階段裏に飛び込んだ。権堂も慌ててそれに続く。
すると敵の攻撃がやんだ。
「やはり攻撃がやんだか。」
「これで相手の攻撃はかわせるようにはなったが相手の場所はわからないままだぞ?」
祐が表情で笑った。
「いや、わかる。今まで攻撃を受けていた場所を考えると二階の階段上あたりだろう。そして俺たちが階段裏に入ったとこを見たのなら…」
「二階の階段の向こう側か。」
祐はうなずいた。実際には一階に降りてくる可能性もあったがそれなら初めにドライアイスを飛ばして俺たちが転んでいる間に来ていただろう。
「そうと分かれば簡単だ。俺が前に出る、その隙にお前が敵を倒せ。」
「囮なんて大丈夫か?」
「お前よりはできるさ。といっても長くは持つかわからんから早く仕留めろ。」
「わかった。」
祐と権堂はたがいに笑みを交わし行動に出た。
権堂が正面に出たとたんドライアイスの弾丸が二方向から飛んできた。権堂は少し驚いたがその程度ならさっきの加重で対処できる。権堂は自分の周囲に加重の魔道を発動し、ドライアイスを地面に叩き付けた。そして、その魔道を継続的に発動させた。
祐は権堂が派手に魔道を使っている間に迅速に二階に上がっていた。敵はすぐに見つかった。完全に権堂に気がとられている。
祐が約5メートルの距離まで近づいたときやっと敵は祐の存在に気が付いた。
しかし、時すでに遅し、だった。祐にとって5メートルなど無いに等しい。
祐は相手の懐に入り、振動の魔道で敵を昏倒させた。
権堂も二階に上がり、2人は特別閲覧室の前まで来た。
「ここからが問題だな。」
特別閲覧室の扉はそこらの物とは違う。とてつもない強度を誇る。ただ殴ったりする程度や中程度の魔道では壊れることはない。祐たちにこれを破る手立てはなかった。
「どうする。俺たちじゃここは破れないぞ。」
「うーん、敵が出てきたところをやるしかないか…」
そのとき不意に声が聞こえた。
「いえ、私が破りましょう、その扉。」
祐たちが振り向く、するとヒールの高い足音が聞こえた。
階段から上って、祐たちの前に現れたのは生徒会長だった。
ここで気が付いた、祐と権堂が校舎に向かったとき壇上には“誰も”いなかった。そう生徒会長は居たはずなのに。
「クーデリア…お前が何でここにいる…」
「あら、居てはおかしいですか?学校の危機なのです。生徒会長が前線で力を振るうのは当たり前でしょ?」
彼女の名はマリー・クーデリア。2年生ながら3年生を差し置いて生徒会長になっている特殊な人物だ。彼女は今までワンコーラムになったことすらない。さらに言うと目立った成績も残していない。なのに生徒会長についているのを不思議に思うものも多い。
「マリーと呼んでくださいと言ってますのに。」
彼女の顔は笑っていた。というよりほほ笑んでいた。戦場の真っただ中にいるとは思えないほどに。
権堂が目をそらすと、少しクスッと笑い、前に出た。
「今壊しますからね。壊してからはお願いしますね。私も戦いますが倒しきれるともわかりませんので。」
そういうと彼女は剣の柄だけの剣のようなものを取り出した。
それを彼女が自分の前に出すと、白い刀身が伸びた。
祐は驚きが隠せなかった。
この世界においてこのような剣を光剣という。(俗称としてはビームサーベルやライトセイバーなどがある)光剣は自分の魔力を刀身として具現化するものだ。しかし、この技術はかなり高度なもので上級のウィザードでも使えるものはほとんどいない。それを一生徒が使っているのだ。驚かないほうがおかしいというものだ。
「…これがあいつの本気だ。でもこれをあいつは使おうとしない。理由はわからないがな。」
すっとクーデリアが振り返る。
「あら、簡単なことですわよ。圧倒的な力で下のものが上のものを倒せば周りを支配するのに簡単ですから。そのためにはもっと力がいるので普段は使わないだけですわ。」
こいつはかなり危険だ。そう判断をせざるを得なかった。
「ではいきますわよ。」
クーデリアが軽く剣を振る。その瞬間扉に直線の亀裂が走った。
扉は奥に倒れ、轟音を上げた。
敵はどうやらいま逃げるところだったようだ。扉に潰された奴がいる。残ったやつの目も驚きで満ちていた。
敵はすぐに片付いた。そして片付けた後周りを見るとクーデリアの姿はすでになかった。
敵を縛り上げたところで校長がやってきた。
「いやぁ、これは君たちがやったのかい?」
「いや、生徒会長の力だ。」
「あぁ、クーデリア君か、彼女らしいね、この場にいないのは。」
そのあと、校長がひょいっと指を上げるとテロリストたちが空中に持ち上がった。
これも恐ろしいほどの技量なのだが、この男ならやりそうだと思ってしまった。
このあと講堂に戻るとクーデリアは何事もなかったかのように役員と話していた。
場は俺たちが戻ったことで解決した雰囲気に包まれ和やかになっていたが、祐と権堂はまだ引っかかっていた。ここは学校とはいえ魔道を学ぶ学生しかいないのだ。そんなところに乗り込み重要文献を盗もうとした連中の親玉が弱いわけがなかった。
そこでとにもかくにも校長のところに向かった。本当は一人で行くつもりだったのだが凛やアリシア、権堂までもがついてきた。
「やぁ、四人とは珍しいねぇ。どうかしたのかな?」
「簡潔に聞こう、敵の本拠地はどこだ?」
その言葉に三人は驚いたようだった。
校長はやはり笑みを浮かべて言った。
「さすがだねぇ、一応わかってはいるけど行く気なのかい?」
「もちろんだ。」
「ちょっと祐!なんで祐がそこまでするの?」
凛が祐の目の前に立ち言った。その顔は心配で満ちていた。
「僕もそれは聞きたいかな。」
校長はあくまで笑みを浮かべている。
「相手はテロリストだ。おそらくこの学校から逃げかえられた奴はいないだろう。そんな場所を放置しておくとは思えない。捕まったやつらから情報が漏れる可能性もあるしな。」
「そんなの…警察に任せればいいじゃない!」
「それで、検定自体を無くすのか。」
「なるほどねぇ、確かに魔道学園にテロリストが侵入したとなればここよりたくさんの魔道学生が集まる検定なんて開こうとは思わないだろうね。」
「俺は検定に出る。」
「それは…私が一緒に出たいって言ったから…?」
祐は凛の方を向いて笑みを浮かべた。
「それもあるけど、出てみたいんだ。権堂と一緒に行動して分かった、俺はあいつに一度勝った、でもあれは偶然だ。そしてあいつよりも強いのがたくさんいる検定に出てみたいんだ。」
「いいだろう、敵のアジトの所在を教えてあげるよ。」
「校長!?」
凛とアリシアが同時に言った。
「ただし、一人ではいかないこと。」
校長は真面目な顔で祐を見た。祐は後ずさりしそうになった。祐はもともと一人で行こうとしていた、校長はそれを見抜いたのだった。
「ふん、なら俺が行ってやるよ。乗りかかった船だ、最後まで付き合ってやる。」
「なら私だって、祐が行く理由は私にもあるんだから。」
「私も行きますわ。祐さまにだけ危険な思いをさせてはいられません。」
校長が立ち上がった。
「じゃあ、君たち4人に課外活動の任を与えよう。現時刻よりテロリストのアジトに向かい、それを殲滅せよ!」
祐が地図を受け取り、アリシアが車を、(オフロードでも使える軍事車両だった。)用意した。
意外なことに権堂は運転もできた、権堂の運転する車で敵アジトである廃棄施設に向かった。
「祐、作戦はどうする。」
権堂はこの短時間で祐と呼ぶようになっていた。
「俺と凛で正面から突破する。権堂は裏から、アリシアは表で隠れながら出てくる敵を殲滅してくれ。」
アリシアは祐と凛が一緒なのに少し眉を動かしたが、この4人の得意魔道から見てもこの布陣がベストだった。
廃棄施設前のフェンスをアリシアが遠隔魔道で壊す。その実力はあのドライアイス使いの比ではなかった。
施設入り口で車を降りた4人は計画通りに足を進めた。
祐とアリシアは正面の扉に向かい、権堂は魔道を使って裏手に回り、アリシアは近くの林に隠れた。
正面から入った2人はすぐさま2人の敵に襲われた。しかし、一瞬で、(祐は凛のことを少し心配していたが)一人ずつ片付けて先に進んだ。
進むたびに数名の敵に襲われる。敵は戦術というものをあまり理解していないようだった。少人数で細かく攻めたところですぐに対処される。それならいっそ大量の兵士を一点にまとめて大量の兵士で相手したほうが効率よく敵を倒せる。
まぁ、少人数で襲ってくれるのはあとあと楽なのでよかったのだが。
数百メートル進んだとき、目の前に今までとは違う両開きのドアがあった。おそらくここに敵のボスがいるだろう。
祐と凛は同時にうなずき、扉を開けた。
そこにいたのは銃で武装した武装した兵士10人とその親玉らしき白衣の男だった。
「やぁよく来たね。ここがわかったってことは君たちが魔道学園の生徒さんだね。そっちは東峰凛さんでもう1人は…だれかな。」
「お前のようなやつに語る名前はない。」
男は笑っていった。
「そうかいそうかい。でも僕が名前を知らないってことはワンコーラムにも名前のない雑魚だね。そんなやつがよくここに来たものだ。」
周りの兵士からも笑い声が聞こえた。
「そうだ、東峰くん、君が僕たちの仲間になるならその男はここから逃がしてあげよう。賢いきみならどうするべきかわかるよね?」
再び兵士から笑い声が聞こえた。
「なっ!」
祐の横で凛が怒りで肩を震わせている。
このままでは凛が先に攻撃して隙が出来ると判断した祐は凛が手を出す前に行動を開始した。
加速の魔道と振動の魔道さらに体術を使い一気に敵を3人片付け相手の背後に回る。
敵は驚いたように全員が後ろを向いた。
「ほう、君もなかなかやるようだね。でもこの距離で銃弾をかわせるかな?」
男が手を振り下ろす、その瞬間銃が火を噴いた。
しかし、祐には当たらず、祐はさらに二人の敵を倒した。
「なぜだ…なぜ当たらない。いくら魔道とはいえこの距離で銃より早いわけがない…貴様!なにものだ!」
男の顔に焦りが見えた。
祐は冷静だった。
「さっきまで君って言ってなかったか?もう化けの皮が剥がれたのか?」
「くっ!やれ!」
そういったときにはもう遅かった。
凛が魔道を発動していた。なんとドライアイスの弾丸を放っていた。祐は少しばかり驚いていた。今まで凛が加速、加重、風圧の魔道以外を使っているのを見たことがなかった。しかし、ドライアイスは祐が見た凛のどの魔道よりも洗練されていた。テロリストたちは一瞬で残りの5人が倒れた。
「ば、ばけもの!」
そう言って白衣の男は猛スピードで、(加速の魔道だ)奥へと逃げていった。
今回は殲滅なので確保する必要はない。よって祐たちは倒した敵を放置し、(むろん、起き上がれないダメージは負わせてある)先へと進んだ。
「それにしても凛、ドライアイスなんて使えたんだな。」
「ええ、今まで人前で使ったことはなかったのだけど、これ“ドライバレル”っていうそうよ。」
魔道に固有名称がつく。それはその魔道が確実な性能を持つことを意味する。戦闘において固有名称のある魔道をつかえるものとつかえないものでは勝負にならないとまで言われるほどだ。しかし、固有名称の付くものが使えるのは本当にごく一部だ。それが出来るということは凛は8位どころではなくもっと上にいけたのではないかと思える。
そして明らかに人の気配のする扉の前に着いた。
「凛、合図で扉を開けてくれ、一気に片付ける。」
凛は頷いた。
3,2,1
扉が開くと同時に祐は駆けだした。
なんと中にはまだ数名の兵士がいた。
祐は少し驚きながらも確実に残りの兵士を銃を使わせる前に倒した。
「ば、ばけものめ!」
さっきと同じセリフを吐いた男が右手を前に向けた、腕には腕輪がついている。それはデバイスだった。そして男の手から火の玉が放たれた。祐は内心「おまえもウィザードじゃないか、それなのに俺たち化け物呼ばわりか。」と笑っていた。しかし、表情には出さず、祐は火の玉を警棒で吹き飛ばした。
祐がゆっくり近づく、そのたびに男は火の玉を放つ、しかし、それが祐に当たることはない。
男はついに倒れ込んだ、そのとき凛の姿が見えた。
男は咄嗟に凛に火の玉を放った。
祐は凛の目の前に立ち日の玉を振り払った。
そして侮蔑の表情で男を見た。
「お前は俺の逆鱗に触れた。もう少し情報を引き出そうと思ったがもういい。」
祐の顔には明らかな怒りがあった。
祐はいつも以上の速度で男に突進し、そのまま男を蹴り飛ばしたその衝撃で男の当たった壁が崩れた。その奥には権堂がいた。しかし祐は権堂に目もくれず男に警棒を突き刺した。その瞬間直に振動が男の中を走り、男は目を見開いて絶命した。
「お前…何があった?」
権堂の言葉に反応した祐の顔は恐ろしいものだった。
警棒を持ち上げた。
そのとき後ろから凛の声が聞こえた。
「祐!」
祐は我に返った。
そしてそのまま、祐に何があったのかは誰も触れず廃棄施設を後にした。
廃棄施設を出たところでアリシアと合流した。
合流したところに数人の敵が転がっていたのを見ると逃げ出した奴はアリシアが対処してくれたようだった。
アリシアは3人の微妙な雰囲気に気が付き「どうしたのですか?」と聞いたがそれにこたえるものは誰もいなかった。
そして事件から5日後
ついに検定への出発日となった。今年は授業と被るため公欠扱いとなる。出発日も平日のため学校に来ているたくさんの生徒たちが見送りに出ていた。
「祐、ついに始まるね。」
「うん。そうだね。」
2人は笑顔で言葉を交わした。
読んでいただきありがとうございました!今回で検定出場編は終わりとなり、次回から検定編(仮)になります。
今回で終わりと前回書いたので無理やりでも終わらせようとした結果、1~3までで3万字無かったのに4だけで1万字を超えましたw
少し無理やりに終わらせたので矛盾が生じているかもしれませがご容赦ください…
そして今回祐がなった怒り状態ですがこれは今後のキーとなる予定の状態です。
その辺も次回から注目してみてください。
コメントや評価お待ちしています。ぜひよろしくお願いします!