学園祭編12
「お前、もう勝ったつもりなのか?」
祐は顔を顰めた。それは相手の文言のせいだけではない。相手の声に聞き覚えがあったからだ。
「その2人はただの当て馬だ。本命はこの俺ただ一人だ。」
男は黒ずくめのマントから一つの武器を取り出した。
男の手には長い槍、その穂先は5つになっている。
「その武器は…ブリューナク。」
後ろ居た凛の身体がビクッと震えた。
「そう、ブリューナクだ。それがわかるなら俺が誰かわかるよな?」
男はマントを取り払って後ろに放り投げた。
「俺の名前はヨハン・アルフォードだ!」
ヨハンはブリューナクを天高く掲げた。
ブリューナクから光の光線が放たれる。光線は頭上から4人それぞれに向かって放たれた。
4人は各々がそれを受け止めている。光は光線のごとく放たれ続けているので止めることはできても消すことが出来ない。
(ブリューナクの穂先は5つ。だが光線は4つ…)
「まさか!」
祐は右手に持った光剣で攻撃を防ぎながら後ろを見た。
後ろでは3人がそれぞれ光線を受け止めていた。
そして凛の後ろにはもう一つ光線が迫っていた。
「凛!」
祐は必死に叫んだ。走り出そうともした。だが走り出すことはできなかった。祐の真後ろに凛はいる。つまりここで祐が動けば凛は3つの光線を受けることになる。検定の時のように氷結空間を使っていれば防げるだろうが、今は発動していない。その状態で3つもの光線を受けることはできないだろう。
凛は急に名前を呼ばれて前面に惹きつけられていた意識を周囲に一部拡散させ、横目で後ろを見た。するとそこには高速で迫るもう一つの光線があった。
凛はその光線を何とかしようとした。だが凛が使えるデバイスは一つ。そしてそのデバイスは正面の光線を防ぐのに使っている。ルーの力を借りれば何とかなるかもしれないが、検定以後ルーと会話をしたことはない。
ヨハンもこれで凛を仕留めたを思っているのだろう、顔には満面の笑みが浮かんでいる。
光の光線が凛に迫る。その距離はあと30センチ。あと20センチ。
(もうダメだ…)
凛は覚悟した。あの光線は何度も屈折させているので心臓には狙いは定まっていない。だが腹部を貫通すれば出血多量で重賞は免れられない。
光線との距離残り10センチを切った。
「凛!」
祐はもう一度叫んだ。今の自分にはどうすることもできない。それでもただ見ていることはできなかった。
そして凛に光線が命中した―――――と誰もが思った。
だが実際には光線は凛との距離わずか数センチを残して止まっていた。
そこにあったのは白い物体だった。
「…何とか間に合いましたね。」
祐の少し後ろでクーデリアが苦しそうな声色でそういった。
「白い…光剣。」
祐が凛を守っている剣を見てそう言った。
(あれはクーデリアさんの光剣だ。だが彼女の手にはそれがあるはず、だったらあれは…?)
(あの光剣の名称は『イリュージョン』幻想を生み出す光剣です。)
祐の頭の中に声が響いた。この声はサリーのものだ。
「イリュージョン…幻想、つまり凛を守っているあれは実物ではないってことか?」
「そうとも言えますが、そうでないとも言えます。」
「どういう意味だ?」
「イリュージョンが創り出す幻想は使用者によって強度が変化します。適正が高ければ高いほど幻想は現実へと変化していきます。」
「つまりあれは現実に存在しているということか。」
「その通りです、マスター。あの方はイリュージョンの力を7割は引き出しているようです。」
思考でサリーと会話をしていると唐突に外界から声が聞こえてきた。
「ありえない…このブリューナクの光線を遠隔魔道で防いでいるだと…」
ヨハンの顔色が驚愕へと変化していた。
ブリューナクは9つの神話武装のうちの一つだ。その攻撃を咄嗟の魔道で防ぐのはかなり熟練のウィザードでも不可能だ。
祐たちはブリューナクの攻撃を防ぐことには成功した。だが戦況はヨハンが有利だ。
(これを打破する方法は…)
(私を使え)
読んでいただきありがとうございます。
前回最後に登場した人物はヨハンでした。彼は検定のときに凛に負けて大会委員に連れていかれたはずなのですがここでもう一度登場しました。なぜ登場したかはこのあと書くと思いますが皆さんも想像してみてください。
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