学園祭編11
次の日。学園祭2日目、この日からは一般の人も校内に入ることが出来る。そのため盛り上がりは昨日の数倍に膨れ上がっている。その分もめ事も多く発生するので生徒会役員は交代で生徒会室で風紀委員や有志による警備の統括を行っていた。
そして今の時間は祐が担当だ。そのため生徒会室には祐しかいない…はずだった。
だが実際には4人もいる。
まずクーデリア。彼女は生徒会長という役職だからいてもおかしくはない。――おかしくはないというだけで祐の前まで統括をしていたというのにここにいるのは不思議ではある。
そして凛。今日はクラスに行った途端に凛に捕まり、統括のことを伝えると終わるまで待つと言われてしまったので仕方なく連れてきた。
もう1人はアリシアだ。彼女はいつの間に来たのかわからない。祐と凛がここに来たときはいなかったがそれから数分以内にはすでに生徒会室内に居た。
最後は祐。本来祐以外はここにいないはずなのだが、今は逆で祐がいるのが不思議なくらいの空気になっている。
その原因はアリシアとクーデリアだ。
「どうかなさいましたか?アリシアさん。」
クーデリアが猫を被った顔でアリシアに問う。
「…なんで会長はまだここにいるんですか?」
それに対してアリシアは対抗心を隠す気が無い。
「あら祐くんはまだ生徒会に入ったばかりですのでわからないこともあるかと思いましているだけですよ?」
クーデリアは言葉の最後に祐の方を見てニッコリ笑った。
それを敏感に嗅ぎ取ったアリシアはすぐに祐の方を見たが祐はそれに苦笑いしか返すことが出来なかった。
「凛…どうにかして…」
だが凛は何も反応しない。窓の外を見ているだけだ。
「…凛?」
「…あ、ごめん。なに?」
凛は慌てて祐の方を見た。
凛の声は驚いてなのか大きく、言い争っている?、(アリシアに言わせればそうだろう)2人も凛の方を見た。
「いや、それよりも凛はどうかしたの?」
「うん…なんか…」
凛が何かを言いかけたそのときだった。
多少のいざこざ程度なら光ることのない緊急用の通信回線がコールされた。
祐とクーデリアはそれに驚いた。祐は急いで回線をオンにした。
「どうしました?」
「正体不明の黒マントの男が校庭に現れました!」
「数は?」
「3人です!」
「了解しました。今すぐ向かいます。あなたたちは周囲の生徒を安全な場所へ。」
「わかりました!」
回線が切れた。
祐は急いで立ち上がった。
「私も行きます。」
クーデリアが動向を示した。
「私たちも行くわ。」
アリシアと話し合った凛が動向を示した。
本当ならば凛たちにはここに居てほしかったのだが今もめている時間はない。
祐は一つ返事でうなずくと校庭に走り出した。
約1分で祐たちは中庭にたどり着いた。生徒会室は校舎三階。どれだけ急いでも普通5分はかかる。それを祐が1分でたどり着いたのは窓を飛び降りるという規格外の技をしたからだ。
「お前たちは何者だ。」
祐が正体不明の男たちに放った一言目はこれだった。
「…お前が西城祐か。」
声はどうやら変えているようだ。
祐は返事をしそうになったがそれをクーデリアが止めた。
「私はマリー・クーデリア、この第一学校の生徒会長を務めております。わが校にどのようなご用件でしょうか。」
クーデリアの口調はいつもと違う、敵意をにじませた言い方だ。
「貴様に用はない。俺たちは西城祐に用がある。」
男たちは口調を変えない。ここまでだけで祐は相手がアマチュアではないと判断できた。
「俺が西城祐だ。それで俺に何の用だ?」
「祐くん!」
クーデリアは祐に向かって叫んだ。
「貴様が西城祐か…」
男たちは突然消えた。
次の瞬間、一人の男が祐とつばぜり合いをしていた。
「…ずいぶん手荒な用事だな。」
「…」
男は急に力を抜くとその場を離れた。
すると祐の背後から火炎球が飛んできた。祐は加速の魔道でそれをかわしたが、火炎球が着弾した場所には大きな穴が開いていた。
それで相手の攻撃はやんだ。
(おかしい、敵は3人だったはず。もう1人は…まさか!)
祐は凛とアリシアの方を向いた。
「凛!アリシア!」
凛とアリシアの背後に最後の1人がいた。
その男は凛たちに攻撃を仕掛けようとしていた。
だがその攻撃は凛たちに届くことはなかった。
クーデリアがそのさらに背後から攻撃を仕掛けていたのだ。
クーデリアの手に握られていたのは白い光剣。これはテロリストが学校に攻めてきたときにしか使っているのを見ていない代物だ。つまり彼女は本気と言うことだ。
「狙いは祐くんではないのですか?女の子2人の背中を狙うなんて最低ですよ。」
だがクーデリアの口調は冷静そのものだ。だがそれが相手に「相手には余裕がある」と思わせ判断を間違った方向に導くことが出来る。
クーデリアに切られた男は一度地面に倒れたがすぐに起き上がり距離を取っていた。
「お2人とも大丈夫ですか?」
クーデリアがやさしい口調で問う。
「ええ、助かりました。ありがとうございます。」
凛も笑顔でそれにこたえる。その声には恐怖が見え隠れしている。凛やアリシアならあの程度の敵に後れを取ることはない。だが実戦経験が乏しい。その結果背後を取られてしまったのだ。
「そうですか。でしたら戦列に加わっていただけると嬉しいのですが、私や祐くんは遠隔魔道をあまり得意としていないので。」
クーデリアが今度はアリシアの方をしっかりとみて言った。これはアリシアの対抗心を逆なですることで恐怖を取り除こうとしたのだろう。
「わかりました。やりますよ。」
そしてアリシアは強気の姿勢で答えた。クーデリアの思惑通りとなったというわけだ。
「ではお願いしますね。」
クーデリアはそう言って祐の方へ移動した。
「相変わらず人を扱うのが得意ですね、会長。」
「ふふ、それもお仕事ですから。」
2人は視線を相手からそらしていない。だがその顔は生徒会室で談笑しているそれと同じだ。相手にされていない。敵はそう思っただろう。
その結果。相手は何のからめ手もなく正面から襲い掛かってきた。
パキンという金属が折れる音が鳴り響く。敵の持っていた剣は中心から真っ二つに折れていた。
敵は驚きの表情なのだろう。後ずさっている。
だが周りの人から見れば当たり前のことだ。敵は祐に対して奇襲を仕掛けたのにもかかわらずいとも簡単につばぜり合いに持っていかれた。そんな相手に正面から攻撃したところで攻撃が通るはずもない。
祐は後ずさっている敵に向かって飛び掛かった。
敵は動揺のあまり回避が一歩遅れた。そんな隙を祐は逃さない。
そのとき敵の背後から火炎球が飛んできた。先ほどよりも威力が低い、おそらく速度を優先させたのだ。だが祐は火炎球を気にも留めなかった。
祐が切りかかったとき、祐に向かって斜め上方から降ってきていた火炎球は跡形もなく消え去った。
そして火炎球のあった位置には水蒸気が残っている。これは凛が火炎球を消すために氷の礫を放ったからだ。
さらにその上を電撃が走る。その電撃は目にも止まらぬ速さで火炎球を放った敵に命中し意識を奪った。
祐も一撃で敵の意識を奪っていた。敵も光剣での攻撃で死なない程度には強いウィザードなのだろう。
敵は残り1人。普通ならば撤退を考えているだろう。だが最後の1人は一番後方から動いていない。
「あとはお前だけだ。」
祐が光剣の切っ先を残った最後の敵に向けた。
「くくく。」
男が急に笑い始めた。
読んでいただきありがとうございます。
今回から戦闘がやっと入ってきます。11話もかかってしまいすいませんでした…
最後からもわかる通り次回に前に登場した人物が出てきます。良ければ予想などしていただければ嬉しいです。
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