つかの間の休日2
この周辺にショッピングをできる場所はない。
つまりどこに行くにもとりあえず駅に行かなければならない。
祐にとっては遅め、凛にとっては少しばかり早めの速度で2人は駅に向かった。
駅に着いた祐が立ち止まった。
「祐?どうしたの?」
「今日はサークルに行こうか。」
凛は驚いて固まってしまった。
祐たちの住む“セパレイ”という町は大きく分けて3つの場所がある。
まず祐たちの通う第一学校やそのほかの小中学校、高校や大学に専門機関が立ち並ぶ学園街、通称キャンパル、さらに住宅街、そして商業施設などが多く、そのすべてが駅を中心に同心円状に作られた場所、通称サークルの3つだ。
キャンパルと言っても学校が並んでいるだけではない。その生徒たちをターゲットとした洋服店や娯楽店は多く存在する。凛は今日はそちらに行くと思い込んでいたのだ。
さらに付け加えるとサークルにある店はどちらかというと大人向けの高級店が多く、学生からもデート向けと言われる場所だった。凛はこれを少なからずデートと思っているが祐がデートだと思っているとは考えてもいなかった。
その結果固まったのである。
「…凛?」
「…あ、サ、サークルだよね。わかった行こう!」
凛は恥ずかしさをごまかすようにサークル行きの個別車両乗り場に向かった。
祐には凛が固まった理由が全く理解できなかった。
個別車両に乗ってからも凛は外を向いたままだった。
祐は何か「怒らせたのか」とか思ってどうにかしようと話しかけたりしたが凛から返事はなかった。
ちなみに凛は真っ赤になった顔を祐に見せないようにすることで頭がいっぱいだった。
約30分間、祐と凛は別々の方向に努力した。
そして、個別車両はサークルの中心である駅に着いた。
着くころにはようやく凛の顔も元に戻った。
「それじゃ行こうか。」
「うん!」
(原因はわからないけど凛も元に戻ったしいいか)
そこから2人はショッピングを楽しんだ。
2人とも細かな計画をしていたわけではなかったので多くの時間をウィンドウショッピングに使い凛が気になった店に入るということを2時間ほど繰り返していた。
その多くが洋服店さらに言うと女性ものの店だったので店にいた多くの時間が凛のファッションショーだった。
そしてこれは凛が気に入った男女両方の服が売っているある店で凛が試着室で着替えているときのことだ。
たしか凛はこの試着室に3着ほどの服を持って入っている。
今さっき1着目を着て出てきたのであと2着だと思われた。
(それにしても視線が痛いな…)
これは祐を目標とした視線ではない。凛は誰が見ても綺麗と言われる女の子だ。そして今回の検定では2位と言うことになっており、その検定もテレビ中継すらされた。
つまり凛はかなり有名人なのだ。祐も同じようなものなのだが顔は普通だし試合時間も短いし、なによりカメラでは追いつけない速度で試合をしているのでテレビ中継がほとんどされていない。知っていても名前だけだろう。その点凛は大規模な魔道を使っていたのでテレビ映えもしたのだろう。この2つが重なって凛を見つけた人たちが「あれ、検定で2位になった子だろ?」とか「テレビで見るよりかわいい!」などと言われていた。そしてその隣にいる祐に目が行くのも当然だろう、「あんな綺麗な子があんな普通のやつとね…」とか「不釣り合いだ。」などといった中傷の言葉や視線がさっきから大量に送られていた。
だがそれも凛が試着室にいる間だけだ。
「お待たせ!」
試着室から出てきた凛の格好は膝までの水玉模様のワンピースだ。
周りからも「おお。」という声が聞こえる。
「…どうかな?」
固まっている祐に凛が上目遣いで尋ねる。
「に、似合っているよ。綺麗だ。」
祐が慌てて笑顔で答える。
「ホント!ありがとう!」
と言って凛はまた試着室に入っていった。
そのときだ、
「すいませんお客様。」
その店の店員だろうか、おしゃれな格好の女性がやってきた。
「なんでしょう。」
祐はさっきまでの笑顔とは打って変わって真顔で返答する。
店員はその顔に少し引き攣ったが言葉をつづけた。
「良ければうちの商品を着て頂けないでしょうか。お値段はこちらも頑張りますので。」
つまり凛を広告に使いたいということだ。
祐には悪い話ではなかった。もともと何か買ってあげる予定だったが祐の財布にも余裕があるわけではない。さらにこの辺の店はどこも高いのだ。だが、
「写真とかはダメですよ。」
祐は少し目尻を上げて言った。
「いえいえ、ただ着て行っていただければいいんです。」
(まぁ、それならいいか。さっきの服は今までで一番似合っていたし)
「わかりました。彼女とも検討します。」
「ありがとうございます!」
店員はそういうと去っていった。
「祐?」
凛が試着室から尋ねてきた。試着室の中には今の会話が何を言っていたのかは聞こえなかったのだろう。
「なんでもないよ。それよりも次のは着たのかい?」
「うん。」
そういって凛が試着室から出てきた。
「うん、似合ってる。」
「うふふ、ありがとう。」
そういうと祐は凛を下から上まで全部見た。
「ゆ、祐…恥ずかしい。」
凛は顔を真っ赤にした。
「ご、ごめん。」
祐は慌てて目をそらした。
「…凛、どれが一番気に入った?」
「…え?さ、さっきのワンピースかな。」
凛が答えると祐は凛の方を向いた。
「じゃあそれを俺からのプレゼントにしようかな。」
「ええ!?プ、プレゼント!?」
凛が驚いて一歩前に出る。
「うん。ほら凛は今回の検定で2位になったんだから。」
「う、うん…」
「それでいいかな?それともほかに何かあるかな?」
「ううん。これでいい、いやこれがいい!」
「そっか、どうせなら着て行かないか?」
そういうと凛は少し迷った様子だったが、
「そうだね、せっかく買ってもらうんだし着て行こうかな。」
凛がそういうと祐は店員を呼んだ。
「すいません、これ買います。それとこれ着て行くので今着ていたやつを家まで送ってください。」
凛がほかの店員に服の手入れをしてもらっている間に祐は支払いと今まで来ていた凛の服の輸送の手配を済ませた。
そうこうしている間に凛の用意も終わったようだった。
「じゃあ行こうか。」
「うん!」
祐と凛はその店を後にした。
そのあともショッピングを続けたが心なしかさっきよりも視線の量が増えたような気がしたのは祐の勘違いではないだろう…
読んでいただきありがとうございます!
今回は日常編のパート2です。
ここでようやく祐たちの町の名前が登場しました。
今まで登場させるにもなかなか機会が無く、10万字も書いてようやく登場させられました。
そして申し訳ありません!どうやら私は日常編がうまく書けないようで文章が拙くなっております…ご容赦ください…
コメントや評価よろしくお願いします!