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検定編15

そしてその後すぐに第二試合、藤谷祐対オーロ・フェルダの試合が開始された。

フェルダは今まで遠距離系の魔道を多用していた。

だが彼の魔道は近接系だけではない。彼の魔力は中の上程度だった。それではランキング6位になることはできない。それなのにもかかわらず彼が6位になっている理由はひとえに彼の魔道特性だ。

普通ウィザードは何かしら得意とする魔道分野を持っている。凛なら氷系、祐なら振動系といったような感じだ。だが彼“オーロ・フェルダ”は生まれつき得意魔道というものが存在しない。それですべての魔道が使いこなせないというわけではない。むしろその逆だ。彼はすべての魔道を下手すると得意とするウィザード以上に使いこなすことが出来る。万能マルティブルという通り名がついているくらいだった。

つまり祐には自分の得意分野の近接戦闘に持ち込んだからといって有利な状況に建てるという保証はないということだ。

戦闘開始直後に祐と観客たちはそれを身をもって思い知ることになった。

開始の合図と同時に祐は加速し相手の懐に入り込んだ。

祐は今試合初めから光剣“Suction”を使っている、それほど相手が強いということを理解していた証だ。

それでも相手にダメージを与えることはできなかった。

フェルダは今まで通り遠距離系の魔道を使用した。

それは標的の祐を失ったことで不発に終わり、そのままフェルダは祐に切られる、誰もがそう思っていた。

そしてそうなるはずだった。

しかし実際は祐が切り込んだ位置ちょうどに障壁が展開され祐はその障壁に阻まれた。

その障壁が硬いだけの障壁だったら祐の実力ならばそのまま切ることもできただろう。

だが実際にその障壁は硬いだけではなかった。

その障壁は祐の剣が触れるまでは硬い障壁だったが当たった直後に柔らかくフィットした。

そして次に弾性を増し、剣ごと祐を吹き飛ばした。

さらに祐が着地した場所にはフェルダが初めに使っていた魔道により圧縮された空気による乱気流が発生していた。

祐はそこに入るギリギリのところで跳躍しその乱気流を何とか避けた。

(4つも連続して魔道を断続感をほぼ全くなしに発動させるのか…これがマルティブルか。)

祐は苦笑いを浮かべていた。フェルダはあのときのヨハンほどの力はない。だが祐の実感ではヨハン以上の強さを持っていた。

そして苦笑いを浮かべているのは祐だけではなかった。

フェルダも同じように祐を一点に見ながら苦笑いを浮かべていた。

(ここまでやって無傷か…あのヨハン・アルフォードに簡単に勝つだけあるか。)

祐が剣を中腰で構える。普通に見れば突撃の態勢だ。

それを見てフェルダは今まで右手に持っていた端末型のデバイスを左手に持ち替え腰から短剣を取り出した。

だがその短剣は少し形が変だった。

刃は普通のものと変わりはない。だが柄の部分が刃の幅に比べてかなり大きい、さらに円形になっている。これではただ持ちにくいだけに見える。

つまりこれはただの短剣ではなかった。指で見えないがフェルダの右手人差し指はスイッチに掛かっている。

フェルダがそのスイッチを押した途端に会場中の観客は酷い耳鳴りに襲われた。

「…まさかそれは空気振動剣バイブレイトエアロ!」

フェルダは少し驚きその後笑った。

「さすがだね、藤谷祐君。この空気振動剣バイブレイトエアロのことを知っているなんて。」

耳鳴りが障壁によって抑えられたことで観客たちはフェルダの言葉から聞くことが出来た。

だが観客全員、(もちろん学者たちも)空気振動剣の事を知らなかった。

それは当然のことだった。このデバイスは未発表のものだった。

「これはこの検定後に発表する予定だったデバイスだ。これを知っているのは凄腕のハッカーか軍レベルのデータベースにアクセスを許されている人間だけだ。

君がハッカーではないことは誰でもわかる。なにせ今の時代ハッキングは殺人よりも思い罪に問われる、そんなことをして得た情報を口にすることなんてないからね。

つまり君は軍レベルのデータベースのアクセス権を有しているということだ。一学生が持っているとは到底思えないものだ。

ウィンガルドのような富豪の一家でもそのアクセス件は手に入らないね。

ということは…」

祐はその言葉を聞いた瞬間に攻撃を開始していた。

(こいつは俺と西城の関係を知っているというのか!?今ここでそれを言われるのはまずい。一刻も早く倒さなくては。)

祐はもともと突撃の構えから突っ込み、相手との距離を詰めた瞬間に跳び、相手の背後から切ろうとしていた。

祐がそれをしていれば攻撃はヒットしていたかもしれない。だが祐はフェルダの言葉に動揺して普通に突っ込んでしまった。

それを見たフェルダは口元に笑みを浮かべた。

右手の空気振動剣を振りかざす。

それを見て祐は気が付いた。

自分が完全にフェルダのペースに乗せられてしまったことに。

すでに祐とフェルダの距離は1メートルを切っている。今の段階から跳躍しても相手の剣の届く範囲から抜け出すことはできない。

「くっ!」

祐は右手にかかる圧力を全力で振りほどき相手に向いていた切っ先を相手の剣に合わせた。

キンッという甲高い音が会場に響く。

祐は衝撃で後方に5メートル以上飛ばされた。

着地の際に受け身を取らなければ大ダメージを受けていただろう。

会場から歓声が鳴り響く。今の攻防をすべて見切れたものはほとんどいなかっただろうが、その攻防に驚かなかった者はいなかったようだ。

祐は片膝をついて息を切らせている。

フェルダからはさっきの笑みが消えていた。

「あの状態から間に合わせた…だと。」

フェルダは目を見張っていたが、次第にその顔は笑みに変わっていった。

「はは、すごい反射速度だ。剣先を変えるのには魔力を使ったみたいだが僕の切っ先を見抜いたのはお前本来の力だろ?」

祐も立ち上がり笑みを浮かべてフェルデを見て言った。

「よくそこまでの解析が一瞬でできるものだ。お前みたいなやつは初めてみたよ。」

「僕も初めてだよ。久しぶりに戦闘が楽しいと思えるよ。さぁ次はどう来るのかな!僕をもっと楽しませてくれよ!」

言っていることは悪役のセリフだがその顔には悪の類いは全くなくただ純粋にこの戦闘を楽しんでいる様子だった。

そして祐の方もそれは同じだった。祐はこの後、まだ“やること”が残っているので全力を出しているわけではないがこの戦闘は楽しんでいた。

フェルデは祐に向かって走り出し左手のデバイスを操作した。

フェルデの速度が急激に上がった。今度は加速の魔道だ。

2つのデバイスの同時操作だ。ヨハンもやっていたがやはり彼にもできたのだ。

だが彼の速度は祐ほどの速さはない。それは2つのデバイスを同時操作しているというのもあるかもしれないが、一番の理由は祐と同じ速度を出したところで反応速度が追いつかないのだ。魔力の使い方や強さを考えれば凛やアリシア、権堂、クーデリアにヨハンといった人たちも祐と同じかそれ以上の速度を出すことも可能だろうが彼らも反応速度が追いつかないのだ、だから加速の魔道を使わないしそれ以外にも使える魔道があるというのも理由だろう。

自分が反応できる速度だからほかの人間がそれ以下の速度を使ったとしてそれを見抜けるかというとそういうこともない。

だが走ることによって乱れた気流から走っている位置を判断することはできる。

それにより祐はフェルデが自分の左側に回り込もうとしていると判断した。

ちなみにこの判断も祐とフェルデの距離、(約5メートル)だと1秒程度しかないためほぼ普通のウィザードには不可能な芸当だ。

祐は光剣を持った右手を左側を守るように動かした。身体を動かさなかったのは言うまでもなく動かす時間が無かったからだ。

剣を斜めにしていたことが幸いしフェルデの剣を祐はなんとか受けることが出来た。

(くっ…このままじゃ埒が明かない…サリー!)

「お呼びですか、マスター。」

「モードを変更してくれ。あいつの魔力を削ぐ。」

「わかりました、吸引モードに移行します。」

祐の光剣が不気味に光った。

フェルデは自分の魔力が徐々に減っていることにすぐ気が付いた。

すぐさまその場を離れようとしたがフェルデは自分の身体が動かない。

「なっ!」

フェルデは自分の足元を見て愕然とした。

地面がぬかるみ足がとられていたのだ。

これは祐が仕掛けたものだった。

祐はフェルデと剣がぶつかるとすぐに振動の魔道でフェルデの足元を振動させ液状化現象を引き起こし足を止めたのだ。

フェルデはその場から抜けようとするがなかなか足が動かない。

そうしているうちにも魔力は吸われていく。

「なら!」

フェルデは左手でデバイスを操作した。

すると突然フェルデの身体が宙を舞った。

祐は目でそれを追った。そして

「加速の魔道ではなく、移動の魔道で無理やり動かしたのか。」

加速の魔道は人を対象として動く速度を速めるもの。

移動の魔道は対象物をそのものの意志に関係なく動かすもの。

魔道は使う人の精神状態に大きく影響される。

加速の魔道は自分が動かないとわかっている状態だとかかりにくくなるということだ。

だが移動の魔道は対象を物として扱うのでたとえ自分が動かないとわかっていてもその意志に関係なく自分の持てる魔力の限りに移動できたということだった。

その分自分の身にかかる衝撃は加速の魔道の比ではない。今フェルデの身体中の骨がきしみ声を上げていることだろう。

フェルデが祐から10メートルほど離れた場所に着地する。その顔は少し歪んでいて骨へのダメージが残っているように見えた。

「はは、強いね。」

「お前の方こそな。まさかあのぬかるみから抜け出すとは思わなかったよ。」

「僕もだよ。君の剣に魔力吸収の能力があるなんて知らなかったよ。その剣はやっぱり古代剣なんだね。」

そういうとフェルデは右手の剣を腰にしまい、また別のデバイスを取り出した。

「君と近接戦闘はもうあきらめるよ。」

少し残念そうに言うとフェルデは両手のデバイスを同時に操作した。

1秒にも満たない時間で操作を終えると両手を斜め前に出した。

そのあとすぐに祐は自分の頭上が急激に冷えているのを感じて後ろに飛び去った。

すると祐の元いた場所に氷の弾丸が降ってきた。

さらにその場所に左右から肌を切り裂くほどの突風が襲った。

祐はとりあえず回避したことに安堵しようとしたがそうもいかなかった。

祐が避けた先にまた氷の弾丸が降ってきたのだ。祐は上に目をやりながらもフェルデを視界にとらえている。その手は動いていなかったのは確かめている。つまりフェルデは新しい魔道を発動していないということだ。

祐はその弾丸も躱して見せた、だがフェルデの攻撃はまだ終わっていなかった。

フェルデが次の魔道を発動しようとデバイスに指を伸ばした瞬間に祐を再び氷の弾丸が襲った。

祐はフェルデが指を動かしたのに気を取られて反応が一瞬遅れた。

そのおかげで1発の弾丸を左足にかすった。

その弾丸はかすっただけで祐の足に凍傷に近いダメージを与えた。

そして祐が再び着地したとき、その場所にはすでに氷の弾丸が降っていた。

(やられる!)

そのとき祐は無我夢中で剣を振っていた。

そして祐は自分の触れていない部分である剣先50センチメートルに魔力を込めていた。

魔力は自分に触れている部分でしか意味を成さない、これが今までの学説だ。

だから地雷系のデバイスが無いのだ。戦闘では確かに直接攻撃も大きな意味を持つが、そうなる前に敵を減らすことが出来るならばその意味は直接攻撃よりも大きい。だが魔道にはそれが出来ないとされていた。なぜなら魔力とは血と同じように自分の中を流れるものだとどのウィザードも生まれつきわかっていたからだ。自分の血を狙った場所に噴出させることなどできるわけがない。そう言うことで地雷式のデバイスは開発されていなかったのだ。(無論、発動者の決めた時間で発動する魔道は存在するがいつ来るかもわからない敵にそんなものは役に立たない)

(ちなみに遠距離系の魔道はデバイスが狙った地点まで不可視の光線を伸ばすことで触れているのと同義を意味的に作り出し放っている。その光線は機械で測定可能だがそんなことをしてる間に攻撃が命中するためその技術は発展していない。)

だが祐はそれをしてしまった。その結果起きたことは誰もが驚愕した。

祐の剣先50センチメートルの位置に祐の振るった軌道と同じように紫色の線が走る。

そしてその幅は祐を覆うようになっていた。その線に触れた氷はなんと砕けて霧散したのだった。

「なに…!?」

フェルデは驚愕の表情だ。そしてそれを行った祐も驚きで声すら出ていない。

(ほう、お前魔力の放出までできるようになったのか。)

祐の頭に男の声が響く。ルシファーだ。

「これが何か知ってるのか?」

「あぁ、それは言った通り魔力の放出だ。ウィザードは生まれつき魔力が血と同じものだという認識の中にいるのでそれを放出するということを無意識に拒否してしまう。そのため放出はできないことが多かったのだがお前はその無意識すら超えて放出できたようだな。」

祐はさらにいろいろ聞きたかったが前を見てそれをやめた。今フェルデは自分の仕掛けた技が全て破られ驚いている、今なら懐に入り込む隙があることに気が付いたのだ。

祐は雑念を振り払いフェルデの懐に向かって加速した。

フェルデが気が付いたのは祐が動き出した後だ。それでは祐の速度には追いつけない。

祐はフェルデの懐に入り込み光剣を振るった。

「くっ!」

フェルデは辛うじて体をそらすことには成功したが剣を避けきることはできなかった。

祐の剣がフェルデの腹をかすめる。

(かすめるにとどめたか…流石だ。)

だがかすめるにとどめたからといって光剣“Suction”の威力を相殺できることはない。

フェルデは後方に吹き飛ばされた。

だがその顔は痛みにこらえていながらも笑っていた。

祐はそれを見て気が付いた。

(くそ、これでまた距離を取られた!)

フェルデは片足をつきながら着陸した。そしてすぐさま右手のデバイスを操作した。

「さぁ、今度はこちらの番だ!」

祐はフェルデがどこを対象に魔道を発動したのかわからなかった。

そしてその理由を身をもって理解させられた。

突如祐の周囲を高温の熱風が吹き荒れた。

祐は顔をかばうようにしながらしゃがみ込んだ。こうしなければ肌が焼け焦げていただろう。(ちなみにさっきので少しなら魔力を意志で放出できるようになっていたのでそれでも守っている)

「まさかこれは…火炎空間ムスペルヘイム。」

「その通りだよ。これは火炎空間ムスペルヘイム。君の仲間が使った氷結空間ヘルヘイムに対を成す魔道だ。」

実際には凛よりもフェルデの方がやっていることは上だ。凛は氷結空間ヘルヘイムを自分周辺にしか発動できなかったのに対しフェルデは離れた祐に対して発動できている。つまり単純に見てもフェルデは凛より支配力が上ということだ。

(このまま出し惜しみしてても勝てはしないぞ?)

祐の頭に声が響く。

「そうみたいだな。本当は夜のために力を温存しておきたかったのだけど仕方がない。ルシファー力を貸してくれ。」

「いいだろう。ただしこれは貸しだからな。」

「あぁわかった。」

祐はルシファーと思想で会話を終えると立ち上がった。

「フェルデだったか、お前は本当に強い。このままじゃ俺の負けだ。」

フェルデは笑みを浮かべている。

「だが、俺は負けない。凛と同じ舞台に立つと約束したのにこんなところで負けてはいられない。すまないが本気で行かせてもらう。」

そういうと祐は顔をかばっていた両腕をどけ中腰で剣を構えた。

火炎空間ムスペルヘイムの中で動けるだと…?」

祐の目が一層厳しくなった。その瞬間祐はその場から消えていた。

そして次に祐が見えたのはフェルデの後方だった。

「な…に…まだこんな…力があった…のか。」

フェルデはその場に倒れ込んだ。

しばらく会場が静寂に包まれてから勝利のファンファーレが鳴り響いた。


読んでいただきありがとうございます!

4日も開けてしまい申し訳ありません…

なかなか書く時間が取れませんでした…

前回の後書きの通り今回は戦闘シーンが主となっています。

そしておそらく思ったと思いますがこれだけ派手に戦ったのですからフェルデ君はこれからも登場します。

コメントや評価よろしくお願いします!


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