検定編13
銃口から白い弾が放たれる。それは決して大きくはないがそれが膨大なエネルギーの塊であることは見ているものほぼ全員が理解していた。もちろんヨハンもだ。
「このぉ!」
ヨハンもただ見ていたわけではなく、ブリューナクで応戦する。
ブリューナクから出た光線は5つそのすべてが白い弾に向かっていく。
速度は光線の方が少しばかり早いようで、あとから撃ったのだが二つが衝突するのは2人のちょうど中間になる、と思われた。
だが光線が弾に当たる瞬間、
弾ははじけるように前方に散らばり、その一つ一つがバラバラ動き始めた。
その数は10だった。そのうち5つはブリューナクの光線に向かい、残り5つはヨハンに向かって行った。
いつしか散らばったものはそれぞれが矢のような形になり、各々の目標に向かう。
ヨハンは自分に向かってきた5つの矢を迎撃できなかった。ブリューナクはヨハンには両手で持たなければ扱うことができなかった。膨大に必要な魔力を供給するには片手では追いつかず、光線を出すこともできない。つまりヨハンは今両手がふさがっている。ヨハンのデバイスは銃形態だ、ブリューナクを持ったままでは迎撃できない、だからといってブリューナクを放せばその5つは迎撃できるかもしれないが、今光線とぶつかっている矢には対処しきれない。どのみちヨハンはすべてに対処することはできなかった。
「くそがぁ!!俺はこんなところで!」
矢はヨハンを貫くときに大きな光を放った。それは爆発となりステージ上空を包み込んだ。
その爆風はステージ全域までにわたり、観客たちを守る障壁も強化したのにもかかわらず壊れかけてしまった。
それほどの爆風だったのでステージが見えるようになるまでかなりの時間がかかった。
次第に爆風が晴れるとそこには1人が立ち、1人が膝をついていた。
立っていたのは凛、膝をついていたのはヨハンだ。
「この俺が負ける…だと。」
ヨハンは片手でなんとか持っていたブリューナクを握りしめる。するとヨハンの頭に声が響く。
「あなた方にはこのブリューナクは使いこなせません。早く元の持ち主たちの元へお返しなさい。」
「…なにが元の持ち主だ。今の持ち主は俺だ。これは俺のものだ。」
立ち上がったヨハンの目は今までのものではなかった。今の祐の目とも違うただ勝つことだけを求める獅子の目。
ヨハンが両手でブリューナクを横持ちに持つ。
それによってルーは悟った、ヨハンが何を使用しているかを。
「やめなさい!そんなことをしてしまえばあなたはどうなってしまうかわかりませんよ!」
ヨハンは自分の頭の中だけに声が響いているということにも気が付かず、声を荒らげて言った。
「うるさい!俺は勝つんだ!」
凛はその姿に恐怖していた。凛にも勝ちたいという思いはある。だがここまで勝利に週ちゃうする気持ちはない。今のヨハンの姿に今すぐこの場を立ち去りたい気持ちだった。
(でもそれはできない。こいつに勝てば祐はきっと元に戻る。だから私は勝つんだ!)
そのとき、凛の頭にもルーの声が聞こえた。
「凛、彼は限界開放を使用としています。限界開放はブリューナクの本来の持ち主たちの東家でも使えるものはいなかった技。彼が使えばただ目にはいるものを壊しつくすことになるでしょう。どうか彼を止めてください。」
「わかった。出来ることはしてみるよ。」
凛は念じるだけでルーに言葉が通じることを知らないが心の中で返した。
「もう終わりよ!自分を犠牲にしたって何も得るものはないわ!」
今のヨハンには誰の言葉も届かないが、凛の「もう終わり」という言葉だけは聞こえて言った。
「何が終わりだ!俺はまだやれる!
限界開放!」
その言葉にブリューナクは反応した。
槍は崩れていき、その破片がヨハンを包む。
破片は次第に結合していき、右手に3本、左手に2本の穂先をつけたクローのようになった。
さらにそのクローから針のようなものが出てきて、ヨハンの腕に刺さる。
「これより起動開始のため使用者の適性を確認します。」
機械音声のような声が響く。
刺された部分の血管が浮き出て血が吸われていく。
「エラーを確認。使用者は限界開放の条件を満たしていません。
これより強制起動します。」
いままで血を吸っていたものが逆流をはじめヨハンの血管という血管が浮き、そのすべてが黄緑色に光る。
それは顔にまでおよび、整ったヨハンの顔はもうすでになかった。目はすでに焦点が合っていない。
これらはたった数秒で終わり、光が消えた瞬間ヨハンは動き始めた。
その動きはさっきまでのものとは段違いで、凛には追うことが出来なかった。
右手の一撃で凛は壁まで飛ばされ、飛ばされた壁は陥没した。
凛は声すら出ない。今の一撃で気を失っていた。普通ならこれで試合終了だが、すでにさっきの攻防で判定装置の限界を超え機能していない。
ヨハンは吹き飛ばした凛を一瞥すると、再び凛に向かって動き出した。
凛はまだ動ける状態ではなく、ヨハンの二激目も躱せずなすすべなく吹き飛ばされた。
凛はステージ中央に叩き付けられ、その衝撃で目覚めたが、体が動かない。
(なに…あれ。あんなのどうしたらいいの…)
凛はおぼろげにしか見えない目でもヨハンを見ていた。
ヨハンは三度凛の方を向いた。
普通ならここで協会のウィザードが止めに入るのだろうが、そうするべきウィザードたちも腰が引けてしまっている。
ヨハンは凛に向かって動き出した。
凛は死を覚悟した。
(祐…ごめんね。私勝てなかったよ…)
凛は目を瞑っていたためそのあと彼がどこから出てきたかわからなかった。
死を覚悟し、目を瞑った凛にヨハンは容赦なく右手のクローを振りつけた。
残り50センチメートル、40センチメートルとどんどん凛に刃は近づく。
だが残り30センチメートルになるところで刃は止められた。
刃を止めていたのは黒の光剣。普段のヨハンならそれが誰のかわかったのだろうが今のヨハンは物事の判断が出来ていない。ヨハンは抑えられた光剣ごと凛を切り裂こうとするが、光剣はびくともしない。
「お前、何をしようとしている。」
光剣の男はいきなり現れた、それだけの速さで現れたのために男の姿は土煙で見えない。
ヨハンは言葉を返さない。いや返せない。
男はそれを今の段階で見抜いた。
「そうか、もう話せる状態ですらないのか。だがお前は凛を殺そうとした。その前にもアリシアをあんな目にしてくれた。俺はもうお前を許さない。」
ヨハンは未だ光剣ごと凛を切り裂こうとしている。
一つ大きな風が吹く。土煙が晴れる。
そこにいたのはやはり祐だった。
だがその目は今までの目ではなく、普段の祐だった。
今ヨハンは一番力のかかる体勢なのに対して、祐は腕を下に伸ばしている状態だ。明らかにヨハンの方が力が入っているはずなのに祐の光剣は微動だにしていない。
祐は力を込め、ヨハンを吹き飛ばす。単純な力では祐はヨハンを吹き飛ばすほどの力は出せない。つまりこれは魔力を用いていたということだ。
ヨハンは本能的に祐が力を込めたことに気が付き、後ろに跳び退った。
今だヨハンの目は焦点が合っていないが、その目は祐を見ているように見えた。
祐が剣を構える。
ヨハンは何の躊躇もなく祐に飛び掛かった。
読んでいただきありがとうございます。
どんどんみんなが頭の悪い力を持っていくような気がします。すいません、はじめの力設定を間違えたようです…
今回、最後に祐が登場しました。祐がどうやって制御を奪い返したのかは追々書くと思います…(たぶん)
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