検定編12
「…どういうこと?」
「私、さっきまでステージにいたよね?」
凛がいたのは一面色とりどりの花が咲き乱れているところだった。
「あ、誰かいる…」
凛は奥に女性がさらに奥を見ているのを見つけた。
長い栗色の髪を風になびかせただひたすら奥を見つめる。その姿はまるで一枚の絵のようだった。
凛はそれに見とれていた、今まで戦っていたことなど忘れてしまうくらいに。
フッと女性が振り返る。その容姿はこの世のものとは思えないほど美しく整っていた。
「こんにちは、私の名前はルー・イースタ。あなたは東峰凛さんですね?」
「…はい、そうです。」
凛の返答が遅れたのは容姿に見とれてしまっていたからだ。
「そうですか。」
ルーがほほ笑む。その笑顔は同じ女性の凛すらも意識を失いそうになった。
「では、先ほどまで私と戦っていたということですね。」
だがこの言葉で意識がぐっと戻った。
凛は驚いた顔でルーを見た。彼女がヨハンなのかと。
「驚かせてしまいましたね、ですが私はヨハンではありませんよ。」
凛はすでに事態を呑み込めていない。凛が戦ったのは間違いなくヨハンだ。エントリー時に生体認証されているのだから間違いない。
(もしかして、はじめからデータが書き換えられていた…?)
しかし帰ってきた答えは凛の想像とは全く違っていた。
「私はルー、五尖槍ブリューナクの持ち主であり、それに宿る者です。」
「理解していただく必要はありません。今すぐには無理でしょうから。」
「…えぇ、そうですね。」
「私があなたに求めるのはブリューナクを奪い返していただきたいだけなのです。」
奪い返す!?凛はそう叫びそうになったが何とか抑えた。
まぁ叫びそうになるのも無理はないだろう。さっきまで戦っていたやつから武器を奪うというのでさえ大変だというのに、ヨハンは自分よりも強いのだ、そんな相手から物を奪うなんて不可能だ。
「…そのまえに試合はどうなってるの?私こんなところに来たつもりはないんだけれど。」
「ここは私の世界です。ブリューナクを通してあなたをこちら側にお招きしました。そしてその間あちらの時間は止まっています。あなたが戻れば時間はまた動き始めます。」
凛は理解できているような出来ていないような感じでぎこちなくうなずいた。
「それで、ブリューナクを奪ってほしいっていうのは?」
「そのままです。本来あれは彼らが持っていてはいけないものなのです。」
「彼ら…?」
「ええ、ヨハン・アルフォードの後ろにいる母体、西城家の中の一部の方たちの事です。」
西城家の名前に凛はついに叫んでしまった。
ルーはそれに動じた様子はなく、凛が落ち着いたのを見計らって話をつづけた。
「私の名前覚えていますか?」
「…たしか、ルー・イースタでしたっけ。」
「そうです。イースタです。そして私の名前を少し形を変えるとこうなります。
『イースト』」
「イースト…?」
イースト、East、東。
ここで凛は気が付いた。
「東…!?」
「そう、東です。あなた方東峰は私の家系から枝分かれしていったものの一つです。昔は東林や東宮といったのもいくつかあったのですがいつの間にか東峰だけになってしまいました。そしてその東家に伝わっていたのが私の武装たちです。
ですが、いつしか東の力が衰えていくうちにいくつかの武装が盗まれてしまいました。そのうちの一つがブリューナクです。」
凛は言葉を返せていない。いきなり現れた絶世の美女が自分の祖先だというのだ。そう簡単に飲み込める事実ではない。
「そしてブリューナクは私の血を引くものにしか完全な力を引き出すことはできません。つまりヨハン・アルフォードなる者では完全な力を引き出すには至らないのです。
それでも一国に壊滅的なダメージを与える程度のことはできてしまいます。
なのでそれを取り戻していただきたいのです。」
「…でも私はヨハンには勝てませんよ。ここから帰った途端にやられてしまうかもしれません。」
「確かに、今のままのあなたでは勝てないかもしれません。でもそれはあなたの持つ力を存分に発揮できていないからです。」
凛はその言葉を信じられなかった。自分は氷結空間ですでに全能力を発揮していると思っている。自分にはそれ以上のことは無理だと思っている。だがこの人、ルーは自分にはまだ力があると言っているのだ。
「…ごめんなさいい。もう時間が無いようです。
ここは私がいるためだけの世界。そこにあなたを無理やり連れてきたことで世界が元の状態に戻ろうとしているようです。」
凛の視界がどんどん白くなっていく。
「もし、あなたが私を信じてくれるなら、私はブリューナクを取り返すためにあなたに力を貸します。そのときには魔力を右手に集中させて下さい。」
その言葉を最後に世界は白一色になった。
凛が目を開けるとそこには氷結空間にブリューナクの光線が当たっているところだった。
(ルーのことはまだよくわからない。でもこのままじゃ勝てるわけない。一か八か信じてみよう!)
凛は魔力を防御に向けた。そのおかげで徐々にだがブリューナクの光線は後退している。
「はぁぁ!」
凛が叫ぶと同時に光線は消えてなくなった。
凛は光線が消えたのを確認するとデバイスを服のポケットにしまった。
そして魔力供給が無くなった氷結空間も消えてなくなった。
それには誰もが驚いた。一人は笑みを浮かべていた。
「ははは!まさかここで氷結空間を解除するとはな!それはもう使えないはず。これで終わりだ!」
今までの口調とは明らかに違う荒っぽい口調でヨハンが再び槍を振るった。
5つの穂先から光線が凛に向かって降り注ぐ。
凛はそれを見ていなかった。だが戦闘をあきらめたようにも見えない。
凛は右手にすべての意識と魔力を集中させた。
(お願い!力を貸して!)
その願いにこたえるかのように凛の右手の辺りが光り、光線がすべてそちらに向かっていった。
「なに!?」
光線は凛に当たることなく、手の周りで一つの球体になった。
(よく私を信じてくれました。さぁ、この光の中から私の銃を取り出してください。)
凛は頭に響いた声の通りに光の中に手を入れた。するとそこには光の大きさが直径10センチメートル程度なのにもかかわらず、明らかに銃の形をしたものがあった。
凛は目を大きく見開き、光の中から銃を取り出した。
その銃は全体が白く、ところどころに花の模様があしらわれていた。一見強そうではないが持っただけで大きな力を秘めているのが凛にはわかった。
(その銃の名はタスラム。今の世界では9つの神話武装というものの一つです)
「タス…ラム。」
凛は銃の名を口にした後、その銃に見惚れていた。
そのせいで上からの相手を忘れてしまっていた。
「なんなんだよ、なんなんだよ!お前は!」
ヨハンは槍から光線を放つのではなく、槍本体で凛を突き刺そうとして落ちてきていた。
凛は銃を出せた。だがここからどうしたらいいのかがわからない。こんな特殊なものが引き金を引いただけで撃てるなんて思えない。
そのとき、
(願うのです。あなたの大切なものを。守りたいものを。)
また頭の中に声が響いてきた。
(大切なもの…守りたいもの。)
凛はキッと上を見て銃をヨハンに向けた。
「…私の大切なもの、それは祐の、みんなの笑顔!」
「聖なる一撃!」
凛は引き金を引いた。
読んでいただきありがとうございました。
なかなか祐が出てこなくてすいません…
これからの話で祐以外も活躍させようとするとほかのキャラの強化(?)も必要だと思ってしまい、まず初めに凛を強くしようとした結果長くなってしまいました…
次回、(次々回)には祐を登場させます!(させたいです…)
ぜひ続きも読んでください!
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