検定編11
槍はヨハンの言葉に反応するように光り輝いた。
客席では「まさか…」という学者たちの声や「なにあれ?」といった学生たちの声で溢れている。
そして相対する凛はこの名前を知っていた。
神話武装。それは神々が使ったとされる武器をモチーフに創られたものだといわれている。だがその実は未だ多くのことが分かっておらず、ヨハンの言った9つというのさえ本当かどうかわからない。それでも9つの神話武装と言われているのは神話に残っている武装が9つだったからだ。今まで確認されているのは第一学校校長の持つ『クラウ・ソラス』という名前の神話武装だ。(これも知っているのはごく一部で、凛が知っていたのも東峰ということで親から教えられていたからだ)それに今回のブリューナクもこれからは追加されるのだろう。
校長のクラウ・ソラスが実際に使用されたという記録は残っていない。言われている限りではそれを持ったたった一人で戦略兵器にも達する武装だといわれている。
つまり凛の目の前にある『ブリューナク』も戦略兵器になりえる。それに対して凛の使う氷結空間は未だ戦術兵器に達するかどうかといったところだろう。
戦術と戦略の差は言うまでもない。ブリューナクを使いこなされてしまえば凛には勝ち目がないということだ。
(どうしよう…でも無様に負けるのだけは嫌。やれる限りはやってやる!)
ヨハンが光り輝いていた槍を右手持ちから両手持ちに変え、攻撃態勢を取った。
「まさか君がここまでやるなんてね…ブリューナクを使うのはこれが初めてだよ。だから。」
突如ヨハンの姿が消えた。
実際には消えたわけではない、速すぎて誰も認識できていないのだ。
そのヨハンは遥か30メートル上空、障壁ギリギリにいた。そこには飛行魔法は含まれていない。もちろん跳躍でもない。跳躍でこんなことをすれば急激な衝撃に体が耐えられず失神する。
だがヨハンはそれをも上回る速さで上空へと消えていった。それを可能にしているのがブリューナクなのだろう。
「…殺してしまったらごめんね!」
ヨハンは槍を両手で頭の横に持ってきてそれを振り下ろした
ブリューナクは「貫くもの」の意味だ。そして分かれた5つの穂先から放たれた光は一度に5人の敵を倒したとされている。
この槍はおそらくこの説からきているのだろう。ヨハンの振り下ろした槍の穂先からは5つの光線が地上に向かって放たれた。そしてその光線は地上の凛目がけて一直線に迸る。
凛はほかの防御を一切やめて氷結空間に全魔力を注いだ。
今までの比ではない魔力量が注がれた氷結空間は凛に影響の出ない辺りに液体窒素すら発生させている。そして氷結空間にブリューナクの光線が激突した。今までの炎や氷の矢のように一瞬で消えることはなかった。だがブリューナクは氷結空間を貫通できていない。
実はヨハンはブリューナクを使えるというだけで使いこなすの域まではまだ達していない。
それでも威力は戦術級だと思われた、それを防いでいる凛はかなり魔力をコントロールできているということが学者たちにはわかった、無論ヨハンにも。
「…くっ!」
それでも凛は苦しそうだ。歯を食いしばっていないといつ氷結空間が崩れ去るかわからない。
一方ヨハンは槍を前に出しているだけでそれ以上の負荷はかかっていない。だがこの距離から攻撃する手段をヨハンは生憎持ち合わせていない。
「…なんだと、ブリューナクで貫けないだと!?」
ヨハンが初めて声を荒らげた。もちろん槍を握る力も強くなる。
そしてそれがキーになりブリューナクにヨハンの魔力が注ぎ込まれた。
光線の太さが倍になる。
それに比例して凛の氷結空間にかかる負荷も増大する。
(…このままじゃやられる!)
凛は自分にはもう限界のはずの魔力をさらに求めた。
そのとき凛には時間が停止したように感じられた。
読んでいただきありがとうございます。
今回は短くてすいません。最近多忙なもので書く時間がうまく取れません…
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