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第五話

 時刻は午前0時過ぎ、周りを畑で囲まれた小学校の前に、一台のバイクが停まる。

「すいません、人を探してるんですが……」

 バイクの男はヘルメットを脱ぎ、校門の前に立っていた20代ぐらいの男性に話しかけた。

「もしかして113さん?」

「お!やっぱり!よかったぁー!じゃああなたが91さんですか?」

 二人はすっかり意気投合し、楽しそうに話し始める。そこにもう一人、男が歩いて来る。

「す、すいません……人を……」

「あ、平太さんですか?」

「そ、そうです!」

 三人はしばらく自己紹介をして、その後校門から校舎を見上げ、少し真剣な顔になる。

「ほんとに行くんですよね?」

「じゃなきゃここまで来ませんよ」

「や、やばい……緊張してきた……」

 男達の目的は、ネットに書きこまれたある噂の真偽を突き止める事。三人が持つリュックの中には蝋燭や人形など、儀式に使う道具が入っている。

「全員揃うんなら、一組でよかったですね」

「まあ、備えは大切ですよ」

「誰が来るかなんてホントのとこは分かんないですからね」

 男達は周囲を見回し、人がいない事を確認すると校門を上って敷地の中に入っていく。

「調べたんですけど、この学校が廃校になったのって三年前らしいですよ?」

「意外と最近ですね」

「でもこの校舎……滅茶苦茶古いですよ?」

「確かに……」

 校舎の前まで来た三人は、その威圧感に少し後退る。入れる場所を探し、たまたま開いていた窓から校舎の中に入っていく。

「こ、この教室が行き成り例の教室ってことは……無いですよね?」

「それなら儀式の道具が残ってるんじゃないですか?」

「確かに……」

 男達は書き込みにより、つい数日前にここで儀式が行われたのを知っている。そしてそこで、女の子の幽霊を見たことも。

「えっと……幽霊が出たのは3年1組ですよね?」

「ここは1年2組みたいですね」

 教室から出て、廊下にある表札を確認する。二階建ての校舎はあまり広くはなく、一学年に二つずつ割り当てられたクラスが並んでいる。

「じゃあ、あっちですか……」

 91が懐中電灯で指し示す方向と逆にあったのは1年1組だけ。行くべき方向は決まった。

「く、暗いな……」

 校庭側に面する教室内はまだ足元が見える程度には明るかったが、廊下の外は樹木に覆われており、こちら側は本当に暗い。

「ひいいい!」

 突然、前を照らしていた91が悲鳴を上げる。

「な!なんですか!?」

「す、すいません……なにか……動いたような気がして……」

「ちょっと……怖いこと言わないで下さいよ……」

「で、でもあそこに……」

 91が光を向けたのは3年1組では無く、順番的には2年2組がある場所の扉。そこは少しだけ開いており、今にも誰かが出てきそうな雰囲気を醸し出している。

「ちょっとだけ見てみますか?」

「え、ええ……」

 2年2組の扉を開けて中を見る。教室内は先ほどと同じ、月明りが差し込んでおり少しだけ明るいが、光を当てなければよく確認は出来ない。

「なにもいませんね」

「ま、まあ……そりゃそうですよ……」

「帰れ……」

 教室に入ろうとした時、三人の動きが止まった。小さく、けれど良く透る女性の声。その声の先には、真っ赤なワンピースを着た少女が、鎌を持って立っていた。

「あ、あああ……」

 先頭を歩いていた91には、その姿がしっかりと映っている。髪をだらんと前に降ろした血塗れの少女は、教室を入ってすぐ隣に立っており、手に持っていた鎌を大きくもたげて91に振りかぶる。

「ぎやあああああ!」

「ふひっ!ひええええ!」

「逃げろおおおお!」

 初めに叫んだ91が後の二人を押して廊下に戻り、そのまま元来た道を駆けていく。残された二人も教室から出てきたその少女を見て、もつれる足をなんとか動かして逃げ惑う。

「や!止めて!」

「ひいい!ぎやあああ!」

 我先にと1年2組の教室に入り、窓から飛び出して校庭を走り抜ける。息はとうに切れ、どんどん減速していく。校門に差し掛かり、最後の力を振り絞ってそこをよじ登る。

「ぐえ!」

 落ちるように飛び降りた男たちは、そのままゆっくりと後ろを向く。

「もう追ってきてないですか!?」

「そのようですね……」

「走ってる途中、後ろを見たら窓からこっち見てましたよ……」

「とにかくここを離れましょう」

 三人は学校を離れ、落ち着いた後に成果を書きこんでいった。

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