ニセーマガイ神話
書いてみたかった。後悔はしていない。
神の誕生は突然であった。前触れもなく混沌より出で、しかしその身は秩序を表した。
神は自らをデデ・コンツ・ゴルデと号し、意味を持たせ、己を主神であると定めた。
神は辺りを見回した。その双瞳は何も映さなかった。神は己以外のものの無きことに気づいた。神は光を求め、呟いた。
「━━━━━━」。それは音を持たぬ言葉であった。光よ、とか光あれ、とかその類いの意味であった。
神の瞳は光に驚き、涙を落とした。二つの涙粒より二つの大海が生まれ、東西の区別が生じ、二人の神が生じた。
神━━主神は二人の神に名を与え、二人を女神とし、己を男とした。
西海の女神はニル・シシル・フアル。東海の女神はヒエル・カガリ・シアク。主神に名を受けた二人は、彼女らの主たる彼を大地へと導いた。主神は大地ヘ降り立ち、大地を統べるものを求め、念じた。土塊が盛り上がり、人形を作った。魂が宿り、彼は大地の神となった。
その時、次元を裂いて一つの生命体が世界に現れた。それは邪であった。すでに滅びさった世界の、生物の悪意の顕れたるものであった。それは老獪にして狡猾であり、幾多の世界から甘い汁を吸い、己の糧とし続けた。それは自らを邪なる神ワエライワエラクと号した。それの知識では「偉大なるもの」ぐらいの意味であった。そして、それは世界の闇ヘと潜み、獲物を待ち始めた。
大地の神はダイア・イアリカ・タタルの名を受けた。そして、主神や双女神と共に世界を作りに立った。
彼らは、邪なる神の出現に気付くことはなかった。それは彼らの若さ故であった。邪なる神は、それほど老獪だったのである。
彼ら━━主神たちは、川を引き、山を作り、疲れはてた。主神は眠るために、雲でカーテンをかけ、草を寝床とし、眠りについた。主神たちの力に一晩あたった草花は急速に育ち、種を付け、一夜にて大森林を成した。中でも、主神の枕であった草は仰ぐ程の巨木となっていた。
巨木より落ちた身が弾け、森の女神となった。眠りから醒めた主神は、森の女神にカタル・ソウ・カモユと名付けた。彼女を加え、彼らはまた世界を作り始めた。
太陽が十四度巡った。それだけで、彼らの世界は完成した。しかし、未だ彼ら以外の生物は存在しなかった。彼らは、はじめに己の分け身を作らんとした。主神の眷属は翼持つ人間、翼族。西海女神の眷属は岸辺に生きるもの、魚人族。東海女神の眷属は川辺に暮らす竜人族。大地の神は土中に住まい、山を愛する土塊族。森の女神は森中に分け入り木と言葉を交わす樹人族。
彼らは己の眷属を引き連れ、共に住まわせた。全ての種族は己の長所を生かし、睦まじい生活をした。
しかし、彼らの平穏な暮らしは、心無き存在に阻まれた。邪神である。それは、彼らの眷属が賢く育つのを待ち構えていた。それは、眷属たちの村を襲い、暴れまわった。主神たちは己の愛するものたちを殺した邪なる神に怒りをあらわにした。彼らは邪なる神に戦いを挑んだ。主神の空と雷の力、双女神の知恵と水の力に、大地の神の剛力と土の力、森の女神の直勘と癒しの力を以てすれば、邪なる神など敵ではないはずであった。
しかし、彼らは敗北した。邪なる神。それは、世界を滅びに導くにたる力を持っていた。彼らは決死の覚悟で邪なる神を次元の間へ放り込み、固く封をした。封印は一時的のものでしかない。彼らは、己の眷属を、邪なる神に敵しうる強者に育て上げることを決めた。
翼族は飛空能力と雷を扱う力。魚人族は高い知能と水を操る力。竜人族は知恵と剛力。土塊族は鉄壁の防御と剛力。樹人族は高い直勘と癒しの力。それぞれ、主の力に似た特徴があった。
神たちは喜んだ。土塊族の鍛えた武器を握り、魚人族の作った鎧に身を包み、樹人族の編み上げたマントを羽織り、竜人族の作った盾を持つ戦士を見て喜んだ。
いずれの日にか、戦乱は来るであろう。