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異世界生活の日常  作者: テンコ
第6章 彼女の日常
96/99

6-11

「シズねぇ、あ、あたし、初めてだから」

「緊張しないで、大丈夫ですよ。これでも、経験だけはあるつもりですから」

「そ、そう、だよね。大丈ふぁっ」


 獣人だし、慣れてきた身体は、より力を発揮できる。

 羽の様にと形容できそうな軽さのメルカちゃんを一息に布団まで運び、慎重に、けれど逃がさないように押し倒す。


「し、シズねぇ……」


 先程までの勢いは何処にいったのやら、瞳を潤ませてこちらを見上げる様子はまさに、肉食動物に捕まった憐れな贄のようだった。

 どうやらメルカちゃんは、押し倒した拍子に両手を上にやってしまっていたようで、私はそれを左手で掴み、より逃げられないように固定する。彼女の長い尻尾は、その綺麗で躍動的な両脚の間から下に垂れ下がり、怯えているのかフルフルと可愛く震えていた。


「あふっ……っ」


 私はそっと、右手でそのふさふさの尻尾の先端を撫で擦り、そのまま尻尾の形に沿って上に進んでいく。


 漸く到達する、という前に私は手を止めた。そして前に私自身やられたように彼女が無防備にも晒してしまっている、その細く白い、そして柔らかそうな首筋に軽く噛み付いた。


「くひぃっ……!」


 よもやいきなり首を狙うとは思ってなかったのか、声が上がってしまう。この部屋自体は防音構造になっており魔術も掛けているので、声は漏れないだろう。 この部屋の仕様はアリエルさんから勧められたものだったけれど。


 突然の刺激に溜まらず、しかし生物として上位者へ逆らえない性なのか、全身を竦ませるメルカちゃん。掲げている両手はきつく握りしめられ、両の脚は内股気味になって己の尻尾を挟んでいる。

 これか、もうどうにでもしてって格好って……。


 ああ、私はこんな、美味しそうな、格好を、皆に晒していたのか……。


「何て恥ずかしい」


 口の中で小さく呟きながら、噛み付いた歯を浮かせ、ちろちろと首筋を舐め上げる。


「ひっ、ひぃっ、あふっ……んっ、ふぁ」


 止まらない声を上げ続けるメルカちゃんは、感極まった様子で首筋を更に曝け出す。

 その様子に堪らず舌を動かし、首筋から這い上げ、小さな顎先を舐め取ってからその赤い果実の様に瑞々しい唇に齧り付く。


「んっ……んんんっ……ぷはぁ……し、しずねぇ、なんか……こ、こわくない?」


 眼を白黒させながら、入れた舌を弾きだしてメルカちゃんは息を整えつつ喋る。


「そ、そうですか? ちょっと、当てられたかもしれません」


 据え膳っていうのかな、こういう場合。

 お腹が空いた狐の前に差し出される、鼠の様な感じになっていることに、メルカちゃんは気が付いているのだろうか。





「大丈夫。父さんと母さんには、もう言ってあるし。手紙でも伝えてあるから」


 何やかんやで私の腕を枕に眠っているメルカちゃん。先に目が覚めたので、彼女を見ながらその尻尾を撫でて弄ぶ。すると彼女が目を覚ましてしまった。

 目覚めたメルカちゃんの第一声がこれだ。


「そ、そうですか。ご夫妻が……」


 あれ、何かすごい情けない事になっている気がするぞ?

 知らぬは私ばかりなり、だったのか。


「ここ最近不自然だったのは、何て言うか、その……」

「うん、誘ってたんだよ」

「……何時からです?」

最初(・・)からだよ。物心ついた時には、もうシズねぇが好きだった」


 ありゃ、まったくもって気が付かなかった。

 有難いやら情けないやら、色んな感情で微妙な表情になっていたのだろう。メルカちゃんはくすっと笑うと、仕方ないなぁと言いながら私の首に手を回してきた。会話の途中で互いに向き合っている状態になっていたから、彼女がその腕に力を込めると、より近づいてしまう。


「シズねぇは私の事、妹くらいにしか見てないって、分かってたから悲しかったんだけどね」

「それは悪い事をしました」

「ううん、いいの。ほんとはシズねぇから誘って欲しかったってのはあるけれど、妙な所でカタイしね。シズねぇは」

「そうですか? そんなつもりはないんですけれど」

「他に3人も囲ってる部分はまぁ、ちょっとだけフシダラだけどね?」


 図星を指されて、うぐっと変な声が出てしまった。


「最近ちょっと、凹む事言われてねー。事実だったから、ちょっと悲しくて。で、ほんとは卒業まで伝えない気でいたんだけど……」

「凹む事? 嫌な言葉とかですか?」

「うーん……」


 歯切れが悪いメルカちゃん何て珍しい。何時もハキハキと言葉を紡ぐのに、やっぱり嫌な事言われたんだなぁ。


「うーんとね……女同士は、不毛だって……」

「え」


 あ……。

 言われた言葉がストンと落ちて来て、意味がしっかりと理解できた。理解できて、しまった。


 ……こんな子がそんな事を言われたら、そりゃ気にするだろう。

 いくら女性同士の恋愛にそこまで忌避感が無い世界でも、自然の摂理に反するってのは、まぁ確かになぁ。獣人なら猶更、子を生すって事に対して敏感だろう。恋愛は女性同士でも良いが、けれどしっかり世継ぎを生むように躾けられる子が普通の筈。

 そしてメルカちゃんが悩んでた事実に、私自身まったく気が付かなかった事に愕然とした。


 自分では保護者だと、思ってたんだけどな……。


 もちろん、悩みなんて言われないと分からないってのは分かる。けれど、親役失格って思うのは止められない。


「ごめんなさいね、気が付かなくて」

「ううん、謝らないで」


 彼女をしっかりと抱きしめ、自身の胸に押し付ける。何故って、安心させるにはこれが一番だと思うから。

 スクィール種しかり、やっぱり獣人ってのは体温をヒト以上に求め合う。モエが良い例だし、私自身アリエルさんにやって貰って落ち着くから……いや頻度はそんなに多くないですけれどね!


「シズねぇ、落ち着く……ありがとね」

「大丈夫です。大丈夫ですからね」


 情けないけれど、こればっかりは"普通"解決出来ない。

 彼女の、まだ小さな身体を抱きしめてその背筋まで伸ばした髪を撫でながら、震えてしまっている身体を慰める。


 あ、今日も私とメルカちゃん休みだから、昨晩を狙ったのか……抜け目ないな、と思いつつ。





「昨晩は、大人しめでしたのね」


 何時もの、頬に手を当てて微笑むポーズをとったアリエルさんがリビングで出迎えてくれた。

 そりゃ昨晩はお膳立てをされていたし、言い訳も何もする暇もなかったし、そのまま部屋に行ったから皆にはバレてるだろうけれど。


 アリエルさんの率直な台詞を聞いて、メルカちゃんは恥ずかしそうに俯いて私の背に隠れてしまった。

 初々しいな……。


 他の2人は用事で出かけてしまったらしく、今は家に3人と召喚獣の皆だけだ。あ、ちなみに召喚獣は姉さまにもモエにも懐いており、彼女達の言葉に従うか否かは自由にさせている。

 姉さまはよくディアとソラを伴ってギルドに行くし、モエはタマやシロクロと仲が良い。メルカちゃんは相変わらずロッテ、最近ではアルルとも交流を深めている様子。


「小さい頃の夢が、漸く叶いましたのね。おめでとうございます」

「あ、ありがと……」


 昨日、テーブルを叩いた時のテンションは何処に行ったのか、メルカちゃんは小さな声でアリエルさんに返していた。何でも、昨日は何時までも靡かない私に対して、変なテンションになっていたから出来たらしい。

 色々終わった後にそう説明された。


 それにしても……。


「小さい頃って、何時くらいからアリエルさんはお気づきに?」

「それはもう、メルカさんを初めて見た時からですの」

「!?」


 4、5歳の時に初めてアリエルさんの家に連れて行ったはずだから……そこからか。

 やっぱり獣人の子の成長はすごいと改めて感じながら、頬が引きつるのを感じた。だって、そんな昔からアリエルさんは知っていて、黙っていたのだから。


「落ち着くべき所に落ち着いて、良かったですの。最近メルカさん学園で人気者のようですから。獣人の方や鼻が良い種族の方なら、メルカさんに相手が出来た(・・・・・・)と分かるのではないでしょうか?」

「あ、そんな意味もあったんですか」

「色々相談されてましたので」


 メルカちゃんは恥ずかしいのか、私達の会話を聞きつつもじもじと身体を震わせていた。

 何か、可愛いな……。


 あれ私、好意を向けられてるって分かったら、すごい簡単に好きに……?


「あ、あのね、シズねぇ。私じゃ、嫌?」


 服の背中を小さな手で摘まみながら、背中越しにメルカちゃんが弱々しく聞いてくる。


「そんな事はありませんよ。むしろ、私で良いんですか?」

「シズねぇじゃなきゃ、嫌だよ」


 まぁまぁと笑いながら昼食の用意しますと言って、台所へ行ったアリエルさん。

 私とメルカちゃんは少しだけそのまま、そしてちょっとだけ、軽く啄むように顔を近付けた後、アリエルさんのお手伝いをしに台所へ向かった。


 そういえば、朝食も食べない程自室にいたのだと、二人でくすくすと笑いながら。





 不思議なんだけれど、私以外の皆はそれぞれとまったく何もしない。

 言い方がアレだったかな……仲は良いんだけれど、それ以上にはならないみたい。不思議だ。


 ……結局、私は都合4人と、あれだ、こう、言わなくても分かるかな。

 結婚というか、契りを結ぶって習慣はこの世界にもあったみたいで、けれど女同士は書類上それは出来ないから事実婚みたくなっている。


 メルカちゃんが爆発した翌日以降、それまでのハイテンションが収まって落ち着いたメルカちゃんは、しっかりと地に足を付けて学業に邁進している。何でも、学園での目標があるから、気が抜けていた分盛り返したいと言っていた。


「待っててね、シズねぇ」


 だってさ。

 何の事かは教えて貰ってないけれど、楽しそうに笑う彼女をみたらもう大丈夫と思ってしまった。


 ――さて、問題は、あのスクィールの夫妻に何て言おうかな。





 特に何も起こらない、平和とはまた違うけれど、穏やかな日々が続く。

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