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異世界生活の日常  作者: テンコ
第6章 彼女の日常
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6-07

 発情期が終わって自分からは特に行動を起こさなくなった。けれど何故か色々な頻度が発情期より上がっている気がする。敢えて何がとは言わないけれど、不思議だ。


 リーン姉さまの忠告通り、暫くは家に引きこもる事にした私シズナは、暇を持て余しているかと思いきやそんなことは無かった。

 決して仕事で忙しい、訳ではなく。それでいて時間が経つのが早い訳でもなく。丁度いい休暇、みたいな感じで日々のんびりと過ごしている。特出することは無いと思うけれど、若干皆とのコミュニケーション(・・・・・・・・・)の比率が上がったくらいかな。

 若干、ね。





 例えば、モエ。


 彼女は昼間よく料理を習いに行っていたようなのだけれど、今はそれもひと段落して日中家に居る事が多くなった。

 一応ギルドに所属したので完全に外出しない訳ではなく、モエ自身の寿命も相まってこちらも休暇、みたいな感じ。

 私と二人で穏やかに日中を過ごす事が多い。


「――で、捕まえたと思った兎は、実は幻惑の幻だったのよ」

「そんな事が出来るんですか」

「そ。母様はよく兄様に訓練って言いながら、遊んでたからね」

「……あのヒトなら、やりかねませんね」


 この日も、モエが育った場所での昔話を聞いていた。

 妖狐は特に家族意識が高いらしいので、話す事も家族の話題で持ちきりだ。私も妖狐種の常識等を聞けるので楽しく聞いている。何せ、親無し(はぐれ)であり、この世界とは別の常識を持っているから、その辺の摺合せはこの年齢になっても欠かせない。

 時たま非常識な事をして怒られるのも常だ。


 お茶を飲みつつ、楽しいひとときを過ごして――いるはずなんだけれど、問題は二人の体勢である。


「ねぇシズナ。今日は九本にしないの?」

「そうですね……ちょっと、疲れますし」

「ふーん、まぁ良いけど、またお願いね」

「え、ええ」


 軽く言葉を続けるのだが、モエの声は私の顔の下から聞こえてきた。


「んー、やっぱり今九本にしないのぉー」

「……はい、どうぞ」

「やた」


 私の下腹部(・・・)にモエの声が響く。とくとくと、脈拍が上がってくるのも感じる。

 そう、何故か"私が"膝枕をしている状態なのだ。


 ……え?逆じゃない普通。


 しかもモエはお腹越しに両手で私の尻尾を撫で擦っていた。モエは特に尻尾を触るのがお気に入りらしく、そして今は私の状態が普通じゃない事もあり、家に二人でいる時は常に密着している。

 正直、ちょっとツン気味なモエがこんなになるとは思いもしなかった。

 口調は変わらないが、やっている事は恋人同士のソレに近いかもしれない。何だろう、動物番組で見た野生動物の番の日常みたいな?感じ?である。


 そして懇願されると弱い私は、大人しく尻尾を九本出してしまう。断れない。


「これこれ、良い気持ちよねー。シズナは手入れしてるし、あー、きもちいー」

「そ、そうですか。それは、よかった、です、っ」


 九本の尻尾を触る自身の手に集中しているのか、モエ自身の顔が私の下腹部に密着しているのを気にもしていない。

 その刺激はまぁ微々たるものなんだけれど、如何せん最近女性としての自覚が出てきたこの身体である。密着して、直に身体の奥を声で震わせられると、妙にくすぐったい。


 アリエルさんとのスキンシップ(・・・・・・)とか、リーン姉さまとの交流(・・)とかとは別の、何て言うのかな、こう、あるはずのない母性を刺激されると言うのか。

 モエの大人びた口調とは別の子供っぽい仕草にそそられる……そそられる?興味を引かれると言うか。


 斜め座りをしている私の膝に、その頭を乗せているモエ。その頭の上でぴこぴこと言う表現が相応しく小刻みに動く耳と、艶やかな黒髪を撫でながら考える。


 ――ああ、嫌じゃないな。


 膝枕とか、して貰う方が好きだった気がするのだが、する方も嫌ではなくなったのに自分自身びっくりしている。


「ん……」


 わさわさと私のお腹越しに尻尾を撫で擦る彼女だが、ぐりぐりとお腹に顔を当ててくるのをやめる気配がない。その刺激に溜まらず声が漏れてしまうが、それでもモエは尻尾に気を取られたままだ。


「も、もえ……もう良いでしょう……?」

「えー、もうちょっとだけ」


 ちょっとだけと言いつつ、実は先程から2時間近く触られている。

 つまり私の中で生まれた得たいの知れない熱は、そのまま2時間炙られ続けているという訳である。じっくりと、時間を掛けて。


「くふぅ」

「ん、どったのシズナ」

「い、いいえ。何でもありません」

「そ?なら良いけど」


 いやいや落ち着け私。

 最近見境なくなってきてないか。


「こほん。モ、モエ。そろそろ、足が疲れてますので」

「んー?なら仕方ない、わ、ね……」


 本当に渋々、モエはその身を起こそうと顔を上向けた瞬間、いつぞやのリビングで会った時の様に固まってしまった。

 あれ、デジャブ……。


 正直モエとはあまり絡みがないと言うか、家族的な生活に留まっていると言うか。


 でもそれは、何と言うのか。

 敢えてセーブしている訳で。

 だって同じ種族だからかな。

 多分タガが外れてしまうと。

 自分で抑えきれそうにない。


 そう思っていたのだけれど、ちょっと遅かったようだ。

 ジリジリと炙られてしまった私の理性と身体は、止めようも無かった。ああ、最近本能に任せる事ばっかりだ……。


 その後はまぁ、家に誰かが戻って来るまで、スキンシップをたくさんとったんだ。





 例えば、アリエルさん。


 彼女の本質は、やはり性質の大部分を占めるであろう淫魔である。

 出会った当初の彼女は静謐な雰囲気を携えていたんだけれど、今はそう、物語に出てくる淫魔そのものに近づいている気がする。


 原因は一緒にいる私が、あまりに無防備な事らしい。


 前の世界の記憶を持っている事は、前の世界の常識を引き摺る事に他ならない。

 そのせいで新しい常識を覚えるのに苦労したりするのだけれど、一番の問題はそう、性別の違いを認識出来ているかどうかだ。


 散々確認してきたが、今の私は女性だと自覚しており、そして身体も先日発情期を迎えるなどの出来事があったから理解は出来ている。

 

 だが、それで今までの私の行動がすぐさま変わるかと言えばNOである。

 

 椅子に座る姿勢、髪をかきあげる仕草など無意識にしてしまう行動が周囲に与える影響などを、これっぽっちも理解出来ていなかったのだ。


 いや、奴隷商の所で自分から意識してする行いは何度も繰り返し練習させられた。

 けれど日常生活における私自身の行動に関しては、まったくもって無意識なのである。


 それをアリエルさんに言わせると、


「シズナさん、最近、とても良いですの」


 と、いう事らしい。


 リーン姉さまの忠告通り家を出ていないから、実際問題被害にはあってないけれど、皆が口を揃えて危ういと家の中に押し留めるのだ。

 曰く、少しは自身の性別を意識しろ、と。


 それもあってか、アリエルさんと家で一緒になる時はその辺の常識を学んでいる。

 メルカちゃんの一応の保護者としても、きちんとした教養を身に付けておかないと彼女と彼女の両親に申し訳が立たないからね……ま、まぁ彼女には色々と隠している事も多い。

 皆との関係、とか。


 兎も角、その日もアリエルさんによる文字の書き取り講座を受けていたのだけれど……。


「シズナさん、この場合の返答はこう書きます」

「は、はい」

「そう、大変お上手ですの」


 自室にある簡素な机。それに座って簡単な手紙の書き方等を教わっていたのだが、密着しすぎて緊張がすごい。

 右斜め後ろから、手元を覗き込んでいる彼女の匂いや、密着して服越しに感じる体温にドギマギしてしまっている。家庭教師を気にする中学生な気分だ……。


 こういう真面目な時はしっかり線引きして、自身を律しないといけないなと思っている。


 だがしかし、ここ数日発情期を終えて全体的に火照ったままの身体にこれはきつい。右肩に当たる彼女の感触も、狐耳に感じる吐息も、何もかもね!


「集中なさってますか?」

「えっと、ちょっと無理そうかもです……」


 正直に伝えると、仕方ないですわねと笑いながら今日の講義を終える。

 一息つきながら、背もたれに体重を預けて身体を解しながら、火照った身体を冷まそうと胸元にぱたぱたと空気を送り込んだ。若干だが涼しくなり楽になる身を落ち着かせていると、ふと視線を感じて右を向く。

 そこには、すぅっと目を細め、何やら意味深な笑みを浮かべているアリエルさんがいた。

 背筋がゾクゾクと震えてしまう。


 だってその眼、何時も、タチってるときの眼だし……。


「そういう、ちょっとした仕草が問題の元ですのよ」


 そう言いながら笑みを深めながら近付いてくるアリエルさんを、私は拒めなかった――。





 と、こんな感じで望むと望まざるとに関わらず、淫靡で爛れた生活を送ってしまっている訳で。


 ちなみにリーン姉さまとの場合は、まぁ何と言うか、健全?で普通?なシチュエーションが多い。

 姉さまネコっぽいしね。

 あ、深い意味はありません。

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